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76 久方ぶりのやべーやつ


 露店が立ち並ぶ≪港街アルベイト≫の大通りをアズと二人で観光していたら怒鳴り声のようなものが聞こえてきた。

 様子を(うかが)う間にアズが飛び出していき、俺も慌てて後を追いかける。

 そこには、いつぞやのイベントで見掛けた覚えのある少女と、いかつい男性との間にアズが割り込んでいる光景が広がっていた。


 少女は地面に座り込んで、怯えて小さくなっていた。

 男性の方は明らかに怒っている顔で、突然割り込んだアズを睨みつけている。


 怯えを感じるものの、アズも負けじと精一杯腕と背筋を伸ばして、男を睨み返している。

 状況を把握した俺もその場へと乗り込んで行く。


「すみません、何があったんですか?」


「何でもねぇよ関係ない奴らはすっこんでろ!」


「いじめちゃ駄目!」


「なんだとこのガキぃ!」


「っ」


「大声を出さないでください、怖がってるじゃないですか」


「いいから引っ込んでろよ!」


 この男は冷静に会話が出来ない状態らしく、俺やアズが何かを言うと怒声で返してきた。

 (たしな)めようとしたアズは驚いて怯えの色を濃くしてしまっている。


 こんな可愛い女の子になんてことしやがるんだ。


 腹を立てつつも、こんな奴に付き合って揉めるつもりは俺にはない。 

 さっさと離脱してしまおう。


「分かりました、それじゃあ失礼しますね。立てますか? 掴まってください」


「え、あ、は、はい!」


「えっと、ランコさん、アズさん、行きましょう」


「うん! 行こうお姫様!」


 へたり込んでいた少女、ランコに手を差し出して、戸惑いがちに手を取ってくれた彼女を立たせた。

 そして皆でこの場を離れようとすると、ランコはキョトンとしてしまっていた。

 流石に唐突過ぎただろうか。


「あ、えっと、私もですか?」


「ええ。さぁさぁ、行きましょう」


「え、わ、わわわ」


「待てよ! 誰がそいつまで連れてっていいって言ったんだよ!」


 確認してくるランコに簡単に答えてから、背中を押して移動を促す。

 そのまま離脱する前にランコに絡んでいた男、ボルツが大声で怒鳴って来た。


 ゲームの中でまでそんなに怒ってて楽しいんだろうか。

 少なくとも俺は、こんなのとまともに関わり合う気はサラサラ無い。


「私はランコさんに話があるんです。関係ないあなたは引っ込んでおいてもらえませんか?」


「なんだとてめぇ! そいつに話があんのはオレの方が先だ!」

 

「だそうですけど、ランコさんはどちらと話がしたいですか?」


「え、それは当然お姫様ですよえへへへへ」


「てめぇ!」


「ひぃ!?」


「とにかく、まともに話が出来ない人に用事なんて無いので。それでは」


「お前、あん時のキチガイ姫野郎だな!? 対戦の時に歌って踊るなんて、オレ達のこと舐めて――」


「すまない、ちょっと一緒に来てもらえるだろうか」


 しつこくヒートアップしてくる男の言葉を遮ったのは、トラストルだった。

 いつものイケメンが怒りを(まと)って、怒りを纏ったイケメンと化していた。

 何してもイケメンでしかないのほんとズルいと思う。

 腹立つからせめてこの世界でだけは、俺も何しても姫様を目指すしかない。


「あぁ!? なんだお前すっこんで痛っ! あだだだだだだ!」


「それでは姫様、また後ほど」


「ああ、はい、それでは」


 一層の東の森で黄昏(たそがれ)ている筈のトラストルが何故こんなところにいて、あの男を引きずって行ったのか。

 それは分からないが、まぁ静かになったし良い事だろう。


「せっかくなので場所を移しませんか?」


「ええと、いろいろ急展開過ぎて頭がついていかないんですが……」


「落ち着く為にもお茶でも飲みましょう。さあさあ」


「さぁさぁ!」


「わ、分かりましたから押さないでくださいー!?」


 困惑気味のランコの背中を押して移動を促す。

 すると、アズも楽しそうに俺を真似始めた。

 二人に押されて慌てたランコは、大人しく俺達に付いてきてくれたのだった。





 やって来たのは、海辺のカフェ。

 港街なだけあって、綺麗な海がよく見えてとてもおしゃんてぃだ。

 今のお姫様な姿でなければお洒落にあてられて溶けてしまっていたかもしれない。


 そこで適当なお茶とケーキを注文して、ランコの話を聞いていた。


「それでですね、さっきも言いましたけど、私ってほんとついてないんですよ。小さい頃から不運の連続で、何かしようとしたら理不尽なことが起きて失敗するし、何もしないと状況が悪化しかしないし。小学一年生の時の初めての遠足の日なんて、家が吹き飛びましたからね。そんなことあります?」


「ないですね」


「アズもないかなぁ」


「どれだけ対策しても何かしらの事故で吹き飛ぶので、テントを張ってたりもしたんですよ? そしたら局地的な地震アンド地割れのコンボで地の底に落ちそうになったりとか。流石にあれは死ぬかと思いましたね」


「うわぁ」


 話というか、今のところランコの愚痴というか、不幸話だった。

 何かに呪われてるんじゃないかってレベルで酷い。

 何歳かは知らないが、今までよく生きてたな。


「そんなに不幸なのに、よくこのゲーム買えたね!」


「一万台の限定販売でしたっけ? 実は私も、欲しいと思ってた訳じゃないんですよね。ゲームもあまりやったことなかったですし」


「そうなんですか?」


「はい。今私の住んでいたマンションで隣の部屋が爆発しましてね、ついでのように私の部屋も吹き飛んだんですよ」


「えぇ……」


「隣の人がお金もほとんど持ってないような引きこもりだったんですよね。それで、せめてもの慰謝料代わりということでゲーム機を譲り受けたんですよ」


 ランコは、引き()ったような、切なさに(まみ)れた笑みを浮かべた。

 思ってたより事情が重い。そしてつらい。

 普段あんなに元気一杯のアズですら、話題を振ってしまったことを後悔するような困惑した表情を浮かべている。


 まだろくに事情を聞いていないのにこの空気。

 どうしよう。帰りたい。



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