69 条件付きクエストへ挑む!
鬼コンビの筋トレに付き合わされたレンは多大な精神的ダメージを負い、心が大破した。
ダリは心の筋肉が足りないとか言ってたが、そういう問題じゃない。
余りにも哀れに思った俺とリリィは、レンをどこか筋肉のいないところに連れ出して元気づけることに決めた。
メンタルブレイクしていたレンから希望を聞き出すのは苦労したが、レンは可愛いものが好きらしい。
リリィの提案で生産職のお店に行き、俺が着せ替え人形になることでレンにイケメン王子スマイルが帰って来た。
良かった良かった。
あんなに人当りの良いレンをあそこまで追い詰めるとは。恐るべし、筋肉。
▽
遅めの朝食を終えた後、お昼前にログイン。
この時間は全体の接続数は多くない。当然、俺以外で六人しかいないメンバーのログイン人数も少ない。
何も無いただの平日だからな。
ほぼ毎日この時間にログインしてる俺の方が珍しい存在だ。
「この後どうしようかなー」
誰もいないリビングのソファに腰かける。
高そうな見た目に違わずフカフカだ。しっかりと腰が沈んで、しっかりとした弾力で俺の身体を包みながらも支えてくれる。
寛ぎながら予定を考えていると、視界の上の方で転送の光が弾けた。
そしてその直後、サンゾウが降って来た。
「これはこれは姫、こんにちはでござる」
「こんにちは」
忍者が好きなサンゾウは部屋に直接転送した際の出現位置を、天井付近に設定しているらしい。
偶に出現した後そのまま貼り付く姿を見ることが出来る。
「姫、実はお願いがあるのでござるが」
「どうしました?」
「とあるクエストを発見したので挑戦しようと思ったのでござるが、それを受ける為には二人組でなければいけないのでござる。故に、姫のお力を貸して頂きたいのでござる」
サンゾウはすごく控え目に、俺に協力をお願いしてくる。
メンバーの皆は俺を何かに誘う時、とても気を遣っている感じがする。
本当に姫として扱われてるのかと思うくらいだ。
「そういうことですか。私で良ければ是非お願いします」
「おお、それは有難いでござる! 感謝するでござる!」
しかし、俺としてはガンガン誘って欲しい。
一人でゲームをするのは嫌いじゃないし、実際今まではそういうゲームしかしてこなかった。
だけど、今俺がプレイしているのはVRMMOだ。
VRはヴァーチャルリアリティ。
MMOはマッシブリー・マルチプレイヤー・オンラインの略。
日本語で言うと大規模多人数同時参加型となるらしい。
要約すると、大勢の人が一つの世界に接続して楽しみましょう、ということだ。
そこには人間関係があるし、独自の経済システムまで構築される。
そんな世界で一人なんてつまらない。
今の俺には、一人なんて耐えられない。
一人で遊ぶゲームがこんなに退屈になるとは思わなかった。
仲間でもそうでない人でも、皆と色んなことをして楽しみたい。
誰かと一緒に楽しみたいんだ。
「それで、どんなクエストなんですか?」
「事前に分かっている部分を共有しておくでござる」
「お願いします」
「依頼人はとある貴族の当主。娘をとある場所へ送り届ける為に協力をしてほしい、という内容でござる」
「ということは、護衛の依頼ということですか?」
「おそらくそういうことでござる。しかし、受ける条件が特殊なのが多少引っかかるでござるが」
「二人一組ってやつですね」
「正確には、男女二人一組、という条件なんでござるよ」
「男女二人ですか……」
確かにちょっと不思議な条件だ。
一般的なゲームの男女比は、男の方が数倍くらい多い。
俺にこのゲームを買わせたあいつといい、いない訳ではないだろうけど。
しかし、倍率がゲロ吐く程高かったこのゲームのプレイヤーの男女比は、男が圧倒的に高くなっていてもおかしくない。
基本的に性別は弄れない……筈だ。
そんな状態でこの条件は、特殊過ぎる気はする。
もしかしたら、俺みたいに女子になったプレイヤーは案外多かったりするんだろうか。
せっかくのゲームの世界なのに、街を行き交うプレイヤーの九割がむさいおっさんだったりしたら泣くし。むしろ吐くかもしれない。
「気にし過ぎても仕方ないですよ。多分、護衛対象の娘さんを側で守る為とか、そういう理由じゃないですかね」
「なるほど、流石姫でござるな!」
「あくまでも予想なので、あってるかは分からないですけど」
「きっとその通りでござるよ!」
あえて特殊な条件を付けるということは、クエストの内容に関わっているに違いない。
今持っている情報で推測した考えをサンゾウに伝えてみると、手放しで賞賛してくれた。
あまりにも褒められすぎて、間違ってる気がしてきた。
念の為保険をかけておくがサンゾウには効果が無かった。
ポジティブ過ぎる。
▽
俺はサンゾウと共に、クエストへ挑むことになった。
内容は、貴族の娘をとある場所へ運ぶ手伝い。
そして俺は今、いつもと違う、何の効果も持たないただの可愛い服に身を包み、馬車に揺られていた。
どうしてこうなった。
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