7 撃てない当たらない超火力魔法使い
本日三回目の更新です!
≪プリンセス・ボックス≫に関しては色々試すことが出来た。
現状俺が使えるアクティブスキルはもう一つ、≪治癒の願い≫のみ。
これも試したいんだけど、対象のHPが減ってないと使えないんだよな。
後、自分にも使えないらしい。
≪白玉兎≫の体当たりを食らった後試してみたが、ダメだった。
後から確認したらスキルの説明の最後に書いてあったし。
よく読まないといけないな。
ちなみに、アクティブスキルというのは意識して発動するスキルのこと。
反対に取得した時点から以降、自動的に効果を発揮し続けるものを、パッシブスキルと呼ぶ。
そんな訳で兎の毛玉でも集めるかと、徘徊していると、面白いものを見つけた。
「むむむ――あっ、いたっ、ちょっ、ちょっと待っ痛いっ!」
≪白玉兎≫と戯れる一人の青年。
紫色で少し長めの髪の毛。
横顔は髪の毛で覆われていてよく見えないが、なんとなく焦ってるのは分かる。
服装は、膝上くらいまでが薄そうな茶色いローブで覆われていて、茶色のパンツがすらっと伸びている。
魔法使いっぽいといえばイメージ出来そうな感じ。
そんな彼は、≪白玉兎≫と戯れている。
何が面白いって、杖を突き出して何か集中しようとしては、兎の体当たりを食らって中断してるところ。
何かのスキルを使おうとしてるんだろうか。
何度も構えては、すぐさま攻撃されて体勢が崩れている。
必死な本人には悪いけど、面白い。
「あっ、し、死ぬ! どうしよう!」
「≪プリンセス・ボックス≫」
「えっ?」
≪白玉兎≫の方へ手を翳して、スキルを発動する。
兎を囲うように半透明の箱が出現して、青年に当たる寸前で体当たりを弾き返した。
「大丈夫ですか? ≪癒しの願い≫」
青年の方に意識を向けると、≪レン≫という名前が表示された。
一先ずスキルを発動させると、緑色の薄柔らかい光がレンを包み込んで消えた。
発動した、っていう手ごたえもあったしちゃんと発動したようだ。
どのくらい回復したかは、パーティーを組んでないから見えないけど。
「え? か、可愛い――」
レンは俺の方を見て、何事か呟いて固まった。
驚いた顔のまま放心してしまっているようだ。
「……大丈夫ですか?」
「――あっ、だ、大丈夫」
「横から手出しちゃってすみません。困ってるように見えたのでつい」
「いや、助けてもらってありがとう」
笑ってしまって悪い気もしたし、ついつい手を出してしまった。
こういうゲームで、他人が戦っているモンスターにスキルを使ったり攻撃したりするのは、マナー違反になる場合が多い。
なので素直に謝ると、レンは逆に感謝してくれた。
兎を隔離してから回復しただけだし、セーフだよな、うん。
それにしても、普通にしてると冷静で礼儀正しい魔法使い、って感じだな。
右目だけ前髪で隠れてるのも、中々にクール度を高めている。
「それじゃあ、解除しますね」
「ああうん、頼むよ」
レンが杖を構えるのを確認してから、スキルを解除する。
同時に飛び出してくる白い毛玉。
「くっ、うっ、痛っ」
さっきと全く同じ状況だ。
なんだこれ。
「一旦倒しましょうか?」
「お、お願い、しますっ」
硬そうな杖でペチペチ叩く。
兎が倒れたことで、レンはため息を吐きながら座り込んだ。
「はぁー……また駄目だった」
「一体、何をしてたんですか?」
≪白玉兎≫は魅力極振りの貧弱な俺ですら倒せるくらいには弱い。
ちらほら見掛ける他のプレイヤーも苦戦している様子は、全くない。
ついつい気になってしまうのも仕方がない筈だ。
「えっと……」
割と単純な話だった。
このレン、見た目通り魔法使い系のクラスだった。
種族はエルフで、ステータスは≪魔力≫極振り。
初期スキルは≪空間爆縮≫と、魔法の威力を高めるパッシブスキルが二つ。
「説明を読んだ時にこの魔法、すごく強いなって思ったんだけど」
「なるほど……」
この≪空間爆縮≫が曲者で、威力は滅茶苦茶あって強い。
が、射程は短く範囲は狭い。その上、詠唱時間も長く更には指定する対象が≪もの≫じゃなく≪位置≫らしい。
なので、発動するぞ、ってなってから実際に発動するまでの間に相手が移動すれば、何もいない空間に魔法を炸裂させることになる。
スキルは、構えを取ってからスキル毎に設定された時間――詠唱時間――を経過した後にスキル名を口にすることで発動できる。
その間に1でもダメージを受けると、スキルの発動は失敗する。
しかも、詠唱中は移動出来ない。
≪空間爆縮≫の場合はその詠唱時間が極端に長い。
なんと、驚きの十秒。
その間相手が動かず、自分がダメージを受けないことで、初めて使い物になる超高威力魔法。
それが≪空間爆縮≫。
使い勝手が悪すぎる!
「どうにか使えないか色々試してたんだけど、いっそ作り直した方がいいのかな」
諦めたように笑うレン。
表に出さないようとしてるんだろうけど、がっくりと肩を落としてしまっている。
確かに、テンションの赴くままにクソみたいなキャラが出来上がってしまうことはある。
ゲームなんだからリセットしたっていいとは思う。
だけど、≪レン≫は、レンが思い入れがあって作り上げたキャラだ。
「ものすごい高威力の魔法を叩き込むのがかっこいいと思って、こういうキャラにしたんだ」
と、レンは言った。
ならなんとかして尊重したい。
ダメな子なんていないんだ、きっと。
同じ極振り仲間として放ってはおけないだろこれは!
「諦めるのは早いです。お――私も付き合うから、もう少し模索してみませんか?」
「いいの?」
「私も極振りですからね。一緒に頑張りましょう」
「――ありがとう」
つい、私って言っちゃった。
いやだって、とても中身男だなんて言えないよ。
何この人女キャラなんてやってるのきもちわるーい、とか思われたら死ねる。
ゲームなんだから、中身の性別なんて関係ないんだ。
キャラに合わせた口調なんて当たり前のことだし。そう、これはロールプレイ。だから何も気にすることはない。ということにしよう。
互いに自己紹介を済ませて、とりあえずは平原を一緒に周ることにした。
見てれば何か思いつくかもしれないということで、今まで通り試してもらいつつ。
だけど、上手くいかない。
射程ギリギリから撃とうとしても、魔法の範囲に入れられた≪白玉兎≫は一目散に駆けてくる。
当然、発動前にレンが体当たりを食らって詠唱は失敗。
発動出来たところで、魔法が出るのは兎の遙か後ろの空間。
当たる訳ないな。
一先ず兎を撲殺。
さてどうしようかと思った時、新たな刺客が現れた。
「うっわ。おい、あの詠唱時間見たかよ兄者」
「見たぞ弟者。あれってあれだな、≪空間爆縮≫。あんなゴミスキル取るとか、マジ情弱」
 




