53 イベント当日!
厳しい数日間の特訓を乗り越えて、遂に俺達はこの時を迎えた。
そう、ギルド対抗戦イベントである!
イベント開始は午後一時、五時、八時の三回。
今日が日曜日ということも合わせて考えると、かなりの人が参加するだろう。
参加条件は同じギルドに加入しているプレイヤー六人までのパーティー。
ギルドに入っていないプレイヤーも特設イベントエリアまではいけるが、試合会場内までは入れない。
モニターから戦いの様子を眺めることで、興味のあるギルドを探すことが主な目的になるだろう。
このイベントの主目的は交流とギルドの宣伝らしいからな。
試合形式なだけで、ある種のパフォーマンスイベントといった感じだ。
時間は十二時。
俺達は最後の調整を終え、ギルドホームの訓練場に集まっていた。
「それではお姉様、御言葉をお願いします」
「はい」
リリィに促されて皆の前に立つ。
誰もがワクワク、ウズウズ? どれだけ通用するか試したくって仕方ないって顔をしている。
きっと俺も同じ顔をしてるだろう。
「皆さんの頑張りのお陰で、準備が整いました。私の思い付きに付き合ってもらってありがとうございます」
「お姉様の望みは私達の望みです!」
「全くでござる!」
俺の言葉に反応したリリィが叫ぶ。そしてサンゾウも付いてくる。
相変わらずのテンションだ。
他の皆も声には出さないが、頷いたりして同意を示してくれた。
「ありがとうございます。この世界中に私の可愛さを思い知らせてやりましょう!」
「「「「「「おー!!」」」」」」
▽
俺達は一度解散し、各自休憩と食事をとって十三時の十分前に現地集合とした。
冷凍炒飯とカップラーメンで腹を満たした俺は、軽くストレッチをしてから再びログイン。
まだ誰も戻っていなかったので、一足先に会場へと向かうことにした。
前回と同じ感じならイベントエリアに色々な屋台が出ている筈だから、それを物色したいのだ。
そんな理由もあって現地集合とした。
噴水広場へ行くと、前回と同じ感じのデフォルメされたモグラが、木の看板を掲げていた。
黄色いヘルメットに黒いサングラスって、どこからイメージが定着したんだろう。
炭鉱夫だろうか。
「本日のイベント一回目開始まであとちょっと! イベント特設会場はこちらだよー!」
「イベントエリアまでお願いします」
「はーい。イベント特設会場はこちらだよ」
『イベント特設会場へ移動しますか?』
『YES NO』
話しかけると選択肢が出現した。当然イエスだ。
選ぶと、視界が一瞬暗転し、切り替わった。
前回と同じらしく、広い屋外に沢山の屋台、そして人の群れ。
奥の方に大きな建物がある。
試合はあの中で行われるんだろう。
とりあえず皆が揃うまで、屋台の物色だ!
何か美味しい物を買おうと思って屋台に突撃したが、本当に人が多い。
しかも結構な人がギルドに所属しているようだ。
色々なエンブレムが目に楽しい。
ギルドに所属すると、プレイヤーネームの下にギルド名が。
その二つの左側にギルドエンブレムが表示されるようになる。
相手がどんなギルドに所属しているのか、一発で分かるということだ。
屋台に並ぶついでにギルド名やエンブレムを眺めて楽しんでいると、隣に人影が立った。
視線を向けると、金属鎧に身を包んだおじさんがそこにいた。
誰だか知らないが、なんとも嫌な笑顔を浮かべている。
「ようようお嬢さん、あんたもイベントに参加するのか?」
「はい、そうですけど……」
「そのギルドはカオルちゃんが作ったの? そのエンブレムってカオルちゃんでしょ? どんだけ目立ちたいの、どっかおかしいんじゃない?」
どうしよう、否定出来ない。
うちのギルド名は≪最強可愛い姫様のギルド≫。
ギルドエンブレムは俺がやけくそにダブルピースを決めてる顔面アップのスクリーンショットを切り取ったものだ。
正直頭おかしいと思う。
恥ずかしすぎるだろ。
だけど、どうしてもと熱望するメンバー、特にリリィとサンゾウの意見を無下にも出来ず、押し切られてしまった。
我ながら渾身の笑顔だとは思うが、やっぱり照れる。
だけど、余所の人に言われることでもない。
適当にスルー安定だな。
「うちのギルドを応援してくださいねー」
「誰が応援するかよ。そんなフリフリした服着て参加するとか、冷やかしなら帰ってくれねーか?」
「私達は真面目に参加するつもりですよ」
「真面目ってギルド名じゃねーだろ! ギルド同士の真剣勝負にお前らみたいなのがいると、邪魔なんだよ!」
どうしよう。
当たり障りのない会話をしてる筈なのに、相手がどんどんヒートアップしてきた。
声も大きくなってきたし、周りも何事かと気にし始めた。
小心者の俺に絡むのはやめていただきたい。
「今日のイベントの目的は交流ですよ。そんなに怒らないでください」
「はぁ? ギルド対抗戦イベントなんだから、ギルド同士のガチンコ勝負だろ。ともかく、お前らみたいなのはすっこんでろよ!」
今日のイベント名は確かに≪ギルド対抗戦≫となっている。
しかし、目的が交流と宣伝というのは公式ページにしっかりと書いてある。
いるよな、一番目立つ部分だけ見て他全部を決めつける奴。
どうしよう、段々俺もイライラしてきた。
そもそも俺達だって、こんなふざけたギルド名とエンブレムでも、猛特訓をこなして来たんだ。
真剣さなら負けない。
それをやる気がないとか言われると、腹立つよな!
「おうおう、うちの姫さんに何か用か?」
「姫様、お待たせしました」
「ダリさん、ダイナさん」
どうしてくれようかと思ったら、鬼コンビが現れた。
絡んできていたおっさんは目に見えて狼狽え始めた。
そりゃそうだ。
可愛いリボンを付けた筋肉ムキムキのでかい男が、いかれてるとしか思えないギルド名とエンブレムを背負った状態で出てきたらビビる。
俺でも間違いなくビビる。
やべーやつが来たとしか思わないもんな。
「あ、いや、なんでもない」
おっさんはダリから目線を逸らして、逃げて行った。
ゲームの中ですらか弱そうな女の子にしか強く出られないとは、哀れな……。
「お二人とも、ありがとうございます」
「気にしなくて大丈夫だぜ姫さん。怖くなかったか?」
「はい、お蔭様で」
「まったく、うちの姫様に絡んでくるなんてとんでもない不届き者ですね」
鬼コンビは俺のことを気遣ってくれているようだ。
有難い話である。
絡んできたおっさんは逃げて行ったが、名前はきっちり覚えた。
≪明鏡止水≫の≪ブレッド≫。
もしイベント中に会うことがあれば、俺達≪最強可愛い姫様のギルド≫の力を見せつけてやるからな!
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