閑話 リリィ
レビューや感想等いただけてとても嬉しかったので勢いで書きました!
「っはー、……疲れたわね」
一人の女が、玄関の扉を潜るなり、溜息を吐いた。言葉通り疲れた表情だ。
女の名前は白樺百合。
身長百五十センチと背が低く、顔は可愛いが幼い。未だに中学生と間違われるのが最近の悩みだ。
今は、近所のデパートのレジ打ちバイトから帰宅したところである。
少しでも大人に見えるよう選んだ大人しめの服を脱ぎ捨てて、ジャージに着替えた彼女は冷蔵庫を漁る。
今夜の楽しみに取ってあった缶ビールを取り出し、テーブルの上へ。
帰りがけに買った半額弁当と合わせれば、立派な夕食の完成だ。
「っぷはぁー、生きてるって感じがするわぁ!」
一気に缶の三分の一を飲んでから、気持ちよさそうに息を吐いた。
レンジで温めれば半額弁当だって味は悪くない。
値段も安く量も充分なので、百合は好んで食べていた。
冷めた弁当を食べ終わった時、百合はふと部屋の一角に視線が吸い込まれた。
「あ……」
そこには、かつての百合の写真があった。
可愛い服を着て、マイクを持ち、笑顔を振りまく自分の姿に、何とも言えない感情が湧いてくる。
これはここ数年、ずっと続いている。
いつまで経っても昔の自分の姿と今を比べてしまって、悲しい気持ちになる。
そうなるのが分かっていても、写真を片づけることも出来ない。
いつまで経っても、百合は吹っ切ることができないでいた。
かつて百合は、アイドルを目指していた。
小学生の時に見たアニメの影響だ。
百合はその中でも、クールで真面目だけどどこか頭のおかしい≪スミレ≫というキャラクターに憧れた。
しかし不幸なことに、百合は美少女と言って差し支えはなかったが、俗に言う可愛い系の顔立ちだった。
どれだけ努力をしても、顔の造りは変えられない。
夢を叶えてアニメ系のアイドルとして活動を開始してからも、百合に求められるのは可愛い系のキャラクター。
百合がなりたいと思ったかっこいいクール系のキャラには、どうしてもなりきれなかった。
百合の活動は順調だった。
人気もどんどん出て、ファンも増えていった。
ついに人気漫画が原作の、アニメの主題歌を担当する話も百合の元に届いた。
しかし、百合は挫折した。
なりたい自分は否定され、なりたくない自分ばかりが大歓迎される。そんな日々に耐え切れなくなってしまったのだった。
「おはようみんな、夢から覚めても夢はずっとそこにある~♪」
写真を見つめていた百合は、歌を口ずさみ始めた。
それは、自分がアイドルを始めるきっかけになったアニメの主題歌だった。
「お気に入りの、自分らしさで、お洒落してさあ出掛けよ~……」
段々と声が小さくなり、メロディは途切れてしまう。
大好きな筈の歌詞も、百合には自分を惨めだと笑っているように聞こえてしまうのだ。
なりたい自分が一番可愛いんだと言ってくれたアニメも、辛い現実に打ちのめされた百合にとっては辛い思い出の一部となっていた。
「……ああもう止め止め。今日は楽しみがあるんだから」
百合は気分を切り替える為に独り言を言いながら、とあるものを取り出した。
それは、最新VRMMOを遊ぶための機械だった。
▽
「へー、中々いいじゃない」
スターレの街へ降り立った百合は、その姿を変えていた。
身長は伸び、顔つきも自らが望んでいたクール系の美女へ。
その姿に、百合――リリィは、満足げに微笑んだ。
彼女は何も、可愛い系のキャラクターが嫌いという訳ではなかった。
むしろ大好きだった。
ただ、自分がなりたいのがクール系というだけの話である。
リリィの好きなアニメで言うと、彼女にして可愛がりたいのが主人公で、自分がその立場になりたいのがスミレ、という訳である。
そんな彼女がこのゲーム、≪CPO≫を始めたのは、単純な理由だ。
彼女が憧れた、クールな女の子になりたい。
そして、可愛い女の子にチヤホヤされたい。
ただそれだけだった。
「先にネットで調べたから準備は万端。まずは、この可愛くない装備を着替えるところからね。えっと、クラス別初期装備のクエストの場所は……」
こうして、新しい自分を求めてこの世界にやって来たリリィは、運命の相手と出会うことになる。
「な、なんっ、なにあれかわっ、かわわわわかわいいいい!?」
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