50 可愛い称号セット入りました!
可愛さをアピール作戦の為に、俺は歌とダンスの特訓を行った。
次のイベントはギルド対抗戦という名前ではあるが、あくまでも交流目的だ。
そしてギルドの宣伝も兼ねている。
そこで俺達が打ち立てた目標は、俺の可愛さをアピールすること。
おっさんが何言ってるんだと思う自分もいるが、この世界では俺はピンクのドレスを身に纏った、狐耳の美少女だ。
しかもクラスは≪プリンセス≫。
まるで可愛さの権化のような存在だ。ならば可愛さを振りまかないでどうする。
匂いのしない香水なんてただの水だ。
振りまいてこそ存在価値がある。
俺も同じだ。
だから俺達は短い時間を有効にすべく、がむしゃらに突き進む。
可愛さのその先へ!
▽
俺はリリィの指導の下、たっぷりみっちり歌とダンスの訓練を行った。
肉体的な疲労はこの世界では感じない筈だが、精神的には疲れている気がする。
なんとなく身体が重い。
「お疲れ様ですお姉様! もう私の教えることはありません。お姉様は、立派なアイドルです!」
「ありがとうございます。リリィさんのお陰で、ここまで上達できました」
だけど、清々しい気分だ。
リリィはにっこにこだし、俺も心の底から笑顔が零れてしまう。
こんなにがむしゃらに努力するなんて、いつぶりだろうか。
称号を二つも手に入れたし、本当に気分が良い。
新しい称号とスキルをさっそく確認しておこう。
「新しい称号ですか?」
「はい、リリィさんのお陰です」
「いえいえ、お姉様の努力の賜物ですよ!」
まず一つ目は≪新人アイドル≫。
取得条件は素の≪魅力≫が50以上で、アイドルっぽい歌とダンスの練習をすること。
なんというか、中々限定的な条件だな。
でもアイドルをこの世界でしようと思ったら勝手に満たしていそうな条件でもある。
気になるのはそんなことする奴がいるかどうかだけど――ああ、ここにいたわ。
取得したスキルは≪アイドルステップ≫。
パッシブスキルで、効果は踊っている間の完全回避率上昇。しかも、≪魅力≫の数値によって効果が上昇するらしい。
ちなみに完全回避というのは、色々なものを無視して攻撃を躱すことである。
これは動きじゃなく、完全にデータによって処理される為、明らかに身体に接触していても完全回避が発生すればダメージは無い。
VRMMOっていうのは攻撃を当てるのも躱すのも動きが全てかと思っていたが、このゲームではそうでもないらしい。
≪敏捷≫が高ければ攻撃は当たりづらくなるし、≪器用≫が高ければ当てやすくなる。
ステータスの意味もしっかりとあるらしい。
ようは、武器を振ったことの無い人でもステータスを上げて真剣に振れば当たるし、どれだけ現実で剣の腕前があろうと、≪器用≫が低ければ当てにくいのだ。
リアルのスペックが全てだったら、ゲームの意味が薄れてしまうからな。
現実の剣の達人がろくにステータスも振らずに無双するなんて展開は、創作物の中だけだ。
そうじゃなきゃ夢もへったくれもないただのリアルシミュレーターだからな。
世はそれをクソゲーと呼ぶ。
意識が物凄い勢いで逸れた。
踊っている間は攻撃が当たりづらくなる効果か。
普通は何に使うんだ? って思う所だが、今はものすごく輝いて見える。
さて、次だ。
「これは、お姉様にぴったりですね!」
「文字通り、って感じですね」
「そんなことないです。お姉様の歌は世界を渡り、森羅万象を響かせるのです!」
称号、≪歌姫≫。
取得条件は特定のクラスで素の魅力が300以上。そして心に響く歌を歌う事。
なんだ心に響く歌って。それは誰基準なのか。
だって、俺の歌の練習を聴いていたのはリリィだけだ。
もしかして、聴いていた人が感動すれば誰でもよかったりするんだろうか。
リリィなら、無条件で感動してくれそうな気がする。
そうでもないと、こんな大それた称号はもらえないと思う。
俺の歌って実際そこまで上手じゃないしな。
スキル名も同じく≪歌姫≫。
効果は、ちょっと変わっている。
歌っている間は魅力値が二割アップ。更に、歌っている間はスキル名を声に出さなくともスキルが発動出来るようになる。
なるほど、確かに歌姫って感じのスキルだ。
歌っている間だけ魅力が上がってどうするんだと思わないでもないが、二つ目の効果がある。
歌いながら決まったモーションさえとれば、スキルが発動出来る訳だ。
歌う必要があるから結局スキル名を言うのと発動の手間はほぼ変わらないが、恥ずかしがらなければ魅力が二割アップのオマケ分得だ。
≪チャーミングショット≫や≪プリンセス・ボックス≫等、≪魅力≫が効果に影響するスキルは地味に多い。
歌って損はないだろう。
これって、≪フェイクスペル≫と効果の領域がだだ被ってるな。
しかも効果も≪称号≫のイメージも、全てが≪歌姫≫の方が勝っている。
きっと使うことはもうないだろう。
グッバイ≪大詐欺師≫。俺は≪歌姫≫の称号と共に可愛さを求めていくよ。
とは言っても、きっといつか使う時が来るだろう。
バランスを考えたゲームなら使い分けが出来る筈だ。きっと。
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