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3 姫と呼ばれる初体験

本日二回目の更新です!


 とにかく人目から離れたくて、がむしゃらに走った。

 敏捷が低いせいかスピードは出なかったが、気付けば深い森の中にいた。


「結構遠くまで来たみたいだな。人はいないけど、逆にモンスターか何かが居そうだ……」


 俺の種族≪妖狐≫は、どちらかと言うと魔法系が得意。


 クラスである≪プリンセス≫も、魔法系が得意。

 更に細かく言うと、支援系を得意としているようだ。

 初期スキルに回復スキルがあったのもそういう理由だろう。 


 だから俺が選んだ初期武器は、≪杖≫。

 ≪初心者用ワンド≫を両手で握り締め、暗い森を歩く。


 レベル1で来るような雰囲気じゃないんだよな、ここ。

 まあでもせっかくここまで来たんだし、行けるところまで行っておくか。

 

 ゲームなんて死んでなんぼ。

 操作も身体で覚えるものだ。

 それに関しては、オフラインもオンラインも変わらない……筈。

 VRならより一層だろう。


 歩いていると、開けた場所に出た。

 そこにだけ草も木も生えておらず、ぽっかりと不思議な空間だ。

 一条の光が差し込んで、ある種幻想的な空気が漂っている。


 そんな場所に、一人誰かが佇んでいた。

 かっこいい全身鎧を身に纏っているみたいだが、こっちは背後になるからその顔はよく見えない。

 その前には、木を十字に組んだものが地面に突き立っている。


 あれってもしかして、お墓?

 そんでもって、あの騎士っぽいのはNPCのようだ。

 カーソルの色が緑色だ。


 色々と推測は出来そうだけど、なんか空気が重い。

 ここはそっとしておこう。


「ん?」


 そろそろ街に戻るかと振り返ったところで、五十メートル程先に、この世界で初めてとなるモンスターを発見した。

 目玉をひん剥き、舌と涎を荒ぶらせて全力疾走してくる熊。

 これでもかと野生を叩きつけてくるその存在は、全ての思考をぶっ飛ばすのに十分だった。


「うわあああぁ!!」


 再び180度ターンしてダッシュ。

 重いとかそっとしとこうとかそんなの関係ねぇ!

 とにかく全力で逃げるんだ!


 必死の全力疾走。


 騎士とお墓を横切っても特に反応は無かった。

 反応されても困るんだけど、今はとにかく逃げないと……あれ?


 俺を追いかけて来てる熊は、このまま真っ直ぐ来るだろう。

 そうしたら、お墓はともかくあの騎士も襲われる?

 これって俗に言うMPKモンスタープレイヤーキルってやつでは?


 流石にそれは忍びない。

 せめて声でも掛けておかないと。

 

 恐怖をこらえて、騎士のところへ戻る。

 ひいいいい、熊と目があった! こっわ! 熊こっわ!!


「あの、熊、熊来てます!」


「姫……私は、私はどうすれば……」


 パニックになりそうなのを抑えて騎士に声を掛ける。

 しかし、何か意味深なことを呟くだけで反応はよろしくない。

 こっちすら見ない。

 あの熊見て見ろよお前マジこわくってそれどころじゃないぞこっちはよぉ!


「熊、ほらっ、くま、くま来てますってぇ!!」


 必死に騎士を揺する。

 もう熊がかなり近い。

 距離が縮まったせいでその顔もよく見える。

 ぎゃああ!! 迫力半端ねぇぇぇぇ!!


「む――姫?」


「姫!? 姫って誰のことですか!? 早く逃げないと熊が、あああああ、もう来てる!!」


 意味の分からないことを言う騎士に、遂に俺はパニックが崩壊。

 もう目の前にまで迫った熊から現実逃避するように、しゃがみこんでぎゅっと目を瞑った。


「はぁ!!」


 ザン――!!


 気合いの入った声と、小気味の良い音が聞こえた。

 他には痛みも衝撃も、何もない。


「もう大丈夫。害獣は私の手で(ほふ)りました」


 優しくも力強い声にゆっくりと目を開けてみると、イケメンが居た。

 青い髪のイケメンだ。

 さっきまで必死に揺すっていたせいで、すがりつくような格好になっている。


「えっと、あの、ありがとうございます」


「お気になさらず」


 男の人相手とはいえ、この体勢は恥ずかしい。

 慌てて離れた。


 熊は、ドロップアイテムを残して消えていた。

 この騎士が倒した、のか?

 あんなワイルドすぎるモンスターを?

 あんな見た目で弱いモンスターってことはないと思うんだけど、この騎士もしかして超強い?


 そうなら、心配して損したな。

 帰ろう。


「それじゃあ」


「お待ちください」


 助けてくれた相手だしと一言挨拶したところで、呼び止められた。

 うーん、無下に出来ない、よなぁ。


「なんですか……えっ?」


 振り返ると、騎士は(ひざまず)いていた。

 は? 何事?


「姫、また会える日を、お待ちしておりました」


「いえ、人違いですけど」



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