18 魅力をその身に受ける(物理)
異世界酒場風喫茶店で相談をした後、狩りへと向かった。
狩場は、一層ダンジョン。
ボスは無理だろうけど、その他はなんとかなるだろうという結論だ。
西の平原を越えて、洞窟のような穴へと突入する。
この三人での狩りは初めてだけど、まあなんとかなるだろう。
「では、前衛は拙者に任せるでござる」
「ええ、お姉様の為にキリキリ働きなさい」
「無論、そうさせていただく所存にござる」
「ではお姉様、指揮をお願いします」
「でござる」
「あ、はい。では行きましょう」
「はい!」
「はっ!」
リリィとサンゾウが元気よく応える。
この二人、出会ってそんなに経ってないのに仲が良い。
俺に対する何かで通じ合ってるようだ。
「≪ブレッシング≫」
「では、参るでござる」
リリィの支援スキルを合図にサンゾウが歩き出す。
ここのダンジョンは、洞窟風とでもいうべきか、周りが全部むき出しの土だ。
マップは前回来た時に網羅してある。
幅五メートル程の広い通路が適当に伸びてはいるが、一本道ではなく、ほぼ全て繋がっている。
端っこの方に行き止まりがいくつかあるが、短いためただの窪みみたいなものだ。
ダンジョンの中は薄暗いだけで、ある程度は見渡せる。
光源はないからゲーム的な都合だろう。
しかし、十メートルも向こうになると、暗闇の中だ。
「トカゲ一、来るでござる!」
「お姉様」
サンゾウの声と共に目を凝らすと、闇の中から大きなトカゲがドタドタ走って来るのが見える。
このダンジョンのメインモンスター、≪ダークリザード≫だ。
名前の通り灰色のトカゲで、頭から尻尾の先までで二メートルくらいはある。
地味に長くて太い脚と尻尾、大きな顎での噛みつきが主な攻撃手段だ。
リリィがじっと見つめて来るのは、指示を出せってことだろうか。
俺、こういう指揮するの苦手なんだよな……。
でも期待には応えたい。
「サンゾウさん、前衛はさっき話した通り自由にお任せします。リリィさんはサンゾウさんがダメージを受けたらすぐに回復をお願いします。私はタイミングを見て攻撃か箱で援護します」
「はい!」
「承知!」
サンゾウがトカゲに向かって、自ら距離を詰めていく。
既にかなり接近していたこともあって一歩で至近距離だ。
攻撃体勢に移ったトカゲの攻撃を、サンゾウは軽やかな動きで躱している。
相手は一匹だし、≪チャーミングショット≫も試してみたい。
タイミングを見計らわないと。
「ござそうろう! ござそうろう!」
「……」
サンゾウは相変わらず、素早い動きで攻撃を躱しながら、隙あらば攻撃を叩き込んでいる。
その手には、先程謎の暗殺者のお姉さんからもらった二振りの短剣がある。
「やはりこの短剣、とても良いでござる! ひゃっはー、でござる!」
「昨日とはダメージが段違いですね。流石お姉様が授けた武器です!」
「武器だけでこんなに変わるんですね」
「ステータスも大事ですけど、装備品も大事みたいですからね。筋力にどれだけ振ってても、専用スキルの無い本当の素手だと大したダメージ出ないらしいですし」
「なるほど」
サンゾウの与えるダメージが昨日の五倍くらいになっているように見える。
装備の影響ってすごいんだな。
なんて、関心してる場合でもなかった。
≪チャーミングショット≫を試さないと。
幸い、このトカゲの動きはそこまで速くない。
ある程度近づいて狙いを定めれば外すことはないだろう、多分。
≪チャーミングショット≫発動に必要なポーズは、ピースを顔の横に添える。
なんてスキルだ……。説明文といい、このスキルだけ世界観がおかしい気がする。
とはいえ、せっかくのスキルを試さないわけにもいかない。
水平にしたピースサインを目尻に添えて、今!
「≪チャーミングショット≫!」
「ござっ!?」
俺の眼からピンク色の光弾が放たれた。
弾速はかなりのもので、一瞬で着弾した。
――サンゾウに。
「ああ、すみません!」
「ごぶふぅっ!?」
運悪く射線上に躍り出たサンゾウは、横腹に直撃を受けて転んでしまった。
そしてそこをトカゲに踏みつぶされて、HPが0に。
「チャーミングゥ……でござる」
「お姉様の可愛さをその身で受けるなんて、なんて羨ましい!」
「素敵な感触でござった」
「≪プリンセス・ボックス≫!」
サンゾウが倒れて、ターゲットがこっちへ移った。
ドタドタ向かって来るトカゲを一旦箱に閉じ込めておく。
HPが0になっても、会話だけは普通に出来る。
復活させるかサンゾウ自身がセーブポイントへの帰還を選ばない限りは、ずっとそのままだ。
「すみませんサンゾウさん、大丈夫ですか!?」
「問題ないでござる。むしろ姫の魅力をこの脇腹に感じられて、拙者、幸せ者でござる。ああ、ピリピリと疼くこの感触、これを幸せと呼ぶのでござるな……?」
「ああ、なんて羨ましいの!」
「当てちゃって本当にすみません。それ多分、痛みだと思います……」
ドタバタしつつ、俺達の狩りは続いた。
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