1 魅力的になりたくて
本日二話目の投稿です!
目を開けると、真っ暗な謎空間に立っていた。
真っ暗だけど、自分の身体はしっかりと認識できる。
目の前には、バレーボールくらいの球体が浮かんでいた。
うすぼんやりと発光している。
『カスタムポジビリティオンラインの世界へようこそ!』
おお、喋った。
何かと思ったら、案内係か何かなのかな。
『私は皆さんのナビゲートを担当する、管理AIのナインです。よろしくね!』
「よろしく」
見た目は光る球なのに、ハイテンションだな。
声は可愛いけどなんて名前の声優さんだろう。
『それでは早速、キャラクター作成に入りたいと思います! まずは名前を入力してください!』
ナインが促すと、目の前に半透明の板が現れた。
文字の入力欄があって、キーボードもある。
名前、名前か。
知り合いも少ないし本名そのままでいいかな。
まさか本名だとは思うまい。
入力欄に≪カオル≫と入力した。
俺の名前は深田馨。
名前の響きと見た目が釣り合わないともっぱらの評判だった。
悲しいぜ。
『カオルさんですね、登録完了しました!』
「次はどうすればいいんだ?」
『次は全ての基本となる、種族を決めてもらいます! なので、そのあたりの詳しい説明をしますね』
「頼む」
『任せてください!』
楽しそうな声と共に、またしても半透明の板が現れた。
この仮想ウインドウには、どこかで見たような名前が沢山ある。
人間から始まり、エルフにドワーフなんかの基本的なファンタジー種族はほぼ網羅しているようだ。
このゲーム、クラスも多いが種族も多いみたいだな。
『この中から種族を一つ選択してもらいます。どの種族にも特徴があって、向き不向きがあります』
「近接戦闘が得意とか、魔法が得意とか?」
『そういうことですね! あくまでも向き不向きなので、どんなタイプでも全く出来ないというわけではないので、見た目で決めちゃうのもありですよ』
「ふむふむ」
例えば、エルフ。
魔法攻撃メインの型で育てるのが向いてるが、あえて近接戦闘型にするのもありってことだな。
確かに双剣や短剣を持って素早く戦うエルフもイメージとしてはある。
そういう見た目のカッコよさで選べるのも、ゲームの良いところだ。
『種族で大きく違うのが、スキルです。このゲームでは、種族の特徴を活かした≪種族スキル≫を取得することが可能となります。ただし、特性上得手不得手を表すものなので、取得すれば必ず活かせるというわけではありません!』
さっき例えで出たエルフ。
≪筋力≫がかなり低くなる代わりに、逆に≪魔力≫がとても高くなるスキルとかがあるっぽい。
≪器用≫と≪敏捷≫も上げようと思えばそれなりに高くなるようだ。
なるほど。
向き不向きって、こういうことか。
エルフの種族スキルで魔法攻撃力アップ、みたいなスキルがあったとして。
魔法攻撃のスキルを持っていなければ意味が無いってことだな。
「うーん、どれも魅力的で迷うなぁ」
種族の種類がパッと見でも二十くらいある。
説明もざっとは読んだけど、どれもかっこよくて決められない。
『それでしたら、ランダムという選択肢もありますよ?』
「へー、そうするとどうなるんだ?」
『ランダムを選択すると、リストの中から自動的に決定します。ランダム専用の種族もありますし、ランダムの場合少しだけボーナスがあります!』
「ボーナスまであるのか。それじゃあランダムにしようかな」
特にこだわりもないし、悩んでても時間が勿体無い。
ボーナスがもらえるならランダムでいいだろ。
どの種族が来ても楽しめるだろうし。
『決定後、キャンセルする場合は専用アイテムが必要になるのでご注意ください!』
「わかった」
専用アイテムというのは、五百円で買えるらしい。
安いのか高いのか俺には分からないな。
ランダムを選択して、決定を押す。
『決まりました! カオルさんの種族は、≪妖狐≫です!』
「お、ほんとだ」
妖の狐と書いて妖狐。
文字通り狐の妖怪だったかな。
さっきのリストにも載ってたから、ランダム専用って訳じゃないけどカッコイイ気がする。
うん、気に入った。
『次は初期ステータスを振ってください!』
俺の前に開いたウインドウは、ステータスの画面。
そこには、100ポイントと書いてある。
これを割り振れってことか。
「どうしようかな……」
≪妖狐≫の説明的に、得意そうなのは≪魔力≫、≪敏捷≫、≪魅力≫。
種族を活かそうと思ったらこのどれかに振るのがいいんだろうけど……魅力?
ステータスの項目で魅力なんてあるの?
あまり見たことは無いが、このゲームではあるようだ。
魅力、魅力か……。
現実の俺に一番足りないものだ。
「魅力に100、っと」
全部魅力に割り振ってみた。
こうすれば、俺でも少しは魅力的になるんだろうか。
っていうか何に使うんだこれ。
よく分からないけど、まぁなんとかなるだろ。
大体こういうゲームって極振りが強いイメージがあるし。
『魅力極振りとは、尖ってますねー! じゃあ次は、初期クラスを決めましょう!』
「クラスって、おお、こっちも沢山あるな」
『それがこのゲームの売りですからね!』
どことなく誇らしげな光る球。
お調子者っぽい感じがするけど、本当にAIなんだろうか。
だとしたら、科学ってすごい。フルダイブ型のVRゲームって時点で十分すごいけど。
『一応上にある程、種族やステータス的に向いているクラスとなってるので、参考程度にどうぞ!』
クラスのリストにも、ずらずらっと文字が並ぶ。
ソードマン、マジシャン、アーチャー、等々。
俺ですら聞き覚えのある職業がいっぱいだ。
中にはよく分からないのもあるが、ゲームだし深く考える必要もないだろう。
「クラスにもランダムってある?」
『ありますよ! 種族同様、ボーナスやランダム限定の隠しクラスが存在します!』
「じゃあランダムで」
『はいはい!』
これだけあるクラスを、説明を読んだ上で決めるのはしんどい。
ここもさくっとランダムだ。
『カオルさんのクラスは、≪プリンセス≫です! やりましたね、隠しクラスですよ!』
プリンセス?
なんだかメルヘンなのが出て来たな。
『さ、どんどんいきましょー!』
戸惑ってる暇も無く、初期スキル、初期武器を決めた。
見た目は種族とクラスとちょっとのランダム要素で自動的に決められるとかで、自分で弄る余地は無かった。
そして俺は、ついにこの謎空間を旅立つ時が来た。
『それでは、カスタムポジビリティオンラインの世界を、どうぞ楽しんでください!』