11 避ける紙耐久低火力敏捷極振り忍者(志望)
本日四回目の更新です!
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「それで、姫は回復スキルが使えるでござるか?」
「はい、一応。魔法に比べると効果は低いかもしれないんですが……」
もずく兄弟は言っていた。
≪魅力≫依存のステータスは使いづらい。≪魅力≫はクソステータスだと。
だから予防線を張っておく。
レンを回復するのに使ってはいるが、他と比べてどうかは分からない。
まあ、回復に期待されて、実際性能が低かったとなるとちょっと気まずいからな。
「いやいや、見たところ知り合いもいない様子。そんな状態でパーティープレイ必至の回復キャラなんて、中々出来ることじゃないでござるよ! 見た目もクラスも相まって、正に姫でござる!」
「あ、はい」
ははぁ、なるほどな。
この人あれだ、トラストルの同類だ。
なんだ、姫欠乏症か?
皆姫という存在に餓えてやがるのか?
とりあえず流して、話を先に進めよう。
「えっと、私とパーティーを組んでくれるってことでいいんですか?」
「勿論。是非にお願いするでござる! 拙者、≪敏捷≫に極振りしたら誰もパーティーを組んでくれないのでござる」
「え、そうなんですか? 極振りって、尖ってて強いんじゃないんですか?」
「拙者もそう思ってたんでござるが、どうやら極振りは産廃というのが今の風潮らしいでござる」
「産廃?」
「産業廃棄物の略で、つまりはゴミということでござるな」
なるほどなぁ。
そういえばもずく兄弟も言ってた気がする。
ひどいこと言いやがる。
「ゴミだなんて、酷いですね。極振りだって楽しめれば勝ちだと思うんですけど」
「おお、なんという優しいお言葉。姫、狩りに参りましょう!」
「はい、行きましょう!」
なんとなく、仲間意識を感じてしまった。
ゲームなんだから、ステータスの振り方に間違いなんて無い。
そうだ、極振り上等。
今のところ箱の強度と回復量への微かな影響しか実感出来ないけど、もう意地だ。
これからもどんどこ≪魅力≫に振ってやる!
そんなこんなで、≪南の森≫へとやってきた。
ここは≪西の平原≫で操作に慣れた頃にやってくる、そこそこな狩場らしい。
俺がパーティーを組んだトラストルの同類、名前は≪サンゾウ≫という。
有名な忍者にあやかってつけたらしいが、それって半蔵では……。
三蔵はお坊さんだよな?
まぁ、そっとしておこう。
「敵を発見! 行くでござる!」
ちょっと可愛らしい感じのサルに向かって、サンゾウが駆けていく。
その速度はかなり速い。
流石、敏捷極振り。
そのまま攻撃を上手いこと躱しながら、手にもった短剣で何度も斬りつける。
三回目で猿型モンスター≪キッキー≫のHPは0になり、倒れた。
「おー、あっさりですね」
「拙者、忍者に憧れてるのでござる」
「なるほど」
サンゾウのレベルは4。
装備は、黒い布で口元を覆っている以外は初期装備である。
今の状態では、せいぜいチンピラでしかない。
「早く忍者装備一式を揃えたいでござるなぁ」
ドロップアイテムを拾いながらサンゾウが呟く。
ゲームを初めてすぐに忍者っぽい装備を揃えようと思ったものの、あの布だけで所持金が尽きたらしい。
なんて切ない……。
せめてもの意思表示として、彼はござる口調の忍者ロールプレイをしているんだとか。
極振りだけじゃなくロールプレイ仲間とは。
より一層親近感を覚えてしまうな。
だけど忍者がござるって、どこから出て来たんだろう。
俺の中では侍の方がイメージが近い。
特に言ったりはしないが。
「ござ! ござ!」
サンゾウが避ける! サンゾウが跳ねる!
「ござそうろう! ござそうろう!」
サンゾウが斬る! そしてサンゾウが斬る!
サンゾウは、高い敏捷を活かして攻撃を避けたり、間合いを計ったりするのが上手いらしい。
びっくりするくらい素早く動いている。
≪敏捷≫を上げただけじゃあんな動き出来る気がしないんだけど、何かアシストとかあるんだろうか。
しかしそれにしても、することがない。
サンゾウは≪敏捷≫極振りと華麗な動きのお陰で、攻撃が一切当たらないのだ。
回復する必要が全く無い。
火力も低いし命中に難もあるようだが、それらは手数で補える。
結果、回復する必要が全く無い!!
俺としてはサンゾウの戦いぶりを眺めてるだけでも楽しい。
だけどちょっと申し訳なくも思う。
なので、二十分も経つ頃に、聞いてみることにした。
「サンゾウさん、私何もしてないんですけど、いいんですか?」
「む、姫には退屈でござったか?」
俺の質問に対して何かを読んだのか、申し訳なさそうに質問を返してきた。
「そんなことないですよ。サンゾウさんの戦いぶりを見てるのは楽しいですし。そうじゃなくって、せっかくパーティーに誘ってくれたのに見てるだけなのも申し訳ないなと思いまして」
「そういうことでござったか。ならば心配無用、気になさらずでござる」
「でも、回復役を探してたんじゃないんですか?」
「いやいや、拙者は姫を求めてたでござる」
「姫、ですか?」
ここに来てまさかの姫。
なにそれ、ピンポイントで姫を求めてたって、どういうことなのか。
やっぱり姫欠乏症なる奇病にかかってるんじゃなかろうか。
「そう、姫でござる。忍者といえば、殿か姫。やはり忍びとしては、そういった方に仕えるのがお役目というもの。そして、気紛れに覗いた広場で姫が落ちているのを見つけた故、居ても立っても居られず飛び込んだ、というわけでござる」
落ちる、というのは広場で拾われるのを待つことを言うらしい。
「つまり、私が姫だから来てくれただけで、特にパーティー的な役割は気にしてなかったっていうことですか?」
「その通りでござる。姫を守るのが忍びなれば、付いてきてもらえるだけで拙者は満足でござる!」
「な、なるほど?」
なんという上級者。
ある意味、一番ゲームを楽しめるのはこういう人なのかもしれない。
「艶やかな黒髪、そしてキリッとしつつも大きく可愛い目! まだあどけなさの残るその美しさは、まさに姫! クラスはプリンセスということで、装備も洋風でござるが、つまりは姫! 素晴らしいでござるな! いつかは着物風の装備も見てみたいでござる」
なんかものすごい褒められてる。
どれだけ姫に餓えてたんだろうか。
洋風の姫でもセーフなあたり、見境はない気がするな。
「しかし、姫が退屈に感じるようなら切り上げるでござるか」
サンゾウの言葉は俺を気遣ってのものだ。
だけど、ここで終わりは勿体無い。
「それなら、もっと楽しめそうなところへ行きませんか?」
「おおっ! 姫のおすすめならば、どこへでもお供するでござる!」
サンゾウも乗り気だ。
なら行くしかない。
サンゾウの身のこなしならきっと避けられる。
もし避け損なっても。一撃くらいなら耐えられる。多分。
そうしたら俺にも回復役という役目が出来る。
それに、スリルもあってきっと楽しい。
というわけで、東の森へとやってきた。
サンゾウは早速、六本脚の狼≪デザイアウルフ≫との超近接高速戦闘を繰り広げている。
「ござそうろう! ござそうろう! ひいぃぃぃ、こいつ、前足の動きが尋常じゃないでござるぅぅぅ!!」
流石サンゾウ。
恐怖に悲鳴を上げながらもなんとか避けきっている。
合間合間に攻撃も加えているのはマジで凄い。
悲しいことに、ダメージ自体はとても低い。
やっぱり≪キッキー≫なんかとは格が違うようだ。
「あ、もう一匹来た」
「む、無理でござる! 姫、逃げるでござる!」
「≪プリンセス・ボックス≫! 今の内に、そっちを早く倒しちゃってください!」
「むむ、これは、泣き言を言ってる場合じゃないでござるな。男サンゾウ、今こそ忍びの神髄を見せるとぐぶっふぁっ!!?」
「サンゾウさあああん!! あ、やば」
東の森は俺とサンゾウでのペア狩りにはまだ早かったようで、沢山死んだ。
効率としてはかなり悪かっただろう。
一回死ぬと経験値が減っちゃうからな。
だけど、俺もサンゾウも終始笑顔で、とても楽しい時間を過ごした。
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