89 見覚えのある笑顔
いつものように特訓を終えて、ついに土曜日を迎えた。
今日は最強ギルド決定戦の本戦が開催される。
五日間かけて行われた予選を勝ち抜いた、三十二のギルドが出場する。
特訓の成果もあってか、俺達は無事に本戦出場の権利を勝ち取ることが出来た。
今の俺達の連携力なら、トップギルドにすら勝てると自負している。
産廃と呼ばれた極振り型でも、短所を補い合い長所を活かし合えば、最強になれる。
今日のこの戦いで、俺達はそれを証明してみせる。
「お姉様の可愛さをこの世界に深く刻みつけてやるわよ!」
「「「「「おー!」」」」」
リリィの号令に合わせて皆が拳を突き上げた。
うん、そっちも目的としては大事だな。
「さあ、会場に向かいましょう」
▽
これまでのイベントと同じく、街中に沸いていたモグラに話しかけてイベント空間へと転送してもらった。
今回はなるべく沢山の人に参加、観戦してもらう為、開始時間が夜の八時に設定されている。
なんとイベント空間の時間を加速させることで、三十六のギルドがトーメント戦を一戦ずつ消化したとしても、二時間程で終えることが出来るらしい。
そのせいか、観戦もイベント会場まで移動しなくてはいけない。
通常エリアとは時間の流れが違い過ぎて、リアルタイムの観戦に支障があるんだな。
イベント空間は以前と同じで、大きな闘技場のような建物がどでんとそびえ立っている。
両側には色々な屋台が並んでいて、商人系のプレイヤー達が商売に精を出している。
「わー、前よりもすごい人だね!」
「今回は文字通りの最強決定戦故に、出場は出来ずとも見逃せぬでござるからなぁ」
「時間を気にせず観戦する為にはここに来ないといけないもんね。ホントに、すごい人」
「うわー、私、こんな沢山の人がいるイベントなんて初めてなのですっごいワクワクします! ああ、こういうところで露店出すの絶対楽しいですよね! 私もいつか出したいです!」
「アズもやってみたーい!」
どことなく不憫にテンションを上げるランコに、アズも両手を上げてアピールしている。
楽しそうで何よりだ。
大きな建物の玄関から中へ入ると、受付がずらっと並んでいた。
これだけの人数を捌く為には必要なんだろう。
受付の向こうにいるのが全く同じ見た目の女の子だというのも、ゲームなんだしよくあることだろう。
その内の一つに近づくと、人懐っこいというか、どことなく見たことのあるような笑顔を向けてきた。
「会場受付へようこそ! 観戦ですか? 出場ですか?」
「出場でお願いします」
「出場ですね! 登録を確認します……≪最強可愛い姫様のギルド≫の皆様ですね。本戦出場おめでとうございます! 早速試合会場へ転送しますか?」
混んでるしすぐに移動してもいいが、ちょっとだけ質問してみることにした。
「違ってたらすみません。貴女、ナインさんですか?」
「よく分かりましたね! ゲームを始めたばかりの皆さんを導く、管理AIのナインちゃんです!」
「声と、喋り方ですかね。後は――以前お会いした時はお顔は見れなかった筈なのに、雰囲気というか、笑顔が見覚えがあった気がしまして」
セーラー服を改造したような服に身を包んだ、白いセミロングヘアーの女の子。
目の前で受付業務をしているこの子は、この世界に初めてログインしたあの日に会った、管理AIのナインだった。
既視感はこのせいだったようだ。
姿形は全く違うのに、なんとなく見た気がしたからな。
我ながらよく気付いたな。むしろ、なんとなくキモい。
「嬉しいことを言ってくれますね! 私も、あなたのことはしっかり見ていましたよ、カオルさん! すごいお姫様っぷりです!」
「あ、ありがとうございます?」
『これからも、こっそり応援していますからね!』
困惑しながらお礼を返したところで、不思議な感覚があった。
目の前で話しているナインの声が、頭の中に響いて来たのだ。
さっきまでは普通に会話をしていた筈なのに。
「え?」
「それでは、試合会場へ転送致します! ご武運を!」
困惑している間に悪戯っぽい笑顔が段々と薄れていく。
そして、次の瞬間には控室のような場所に移動していた。
「あっー! テンションと筋肉がぶち上がって来たぜ!」
「僕の筋肉もハイアーザンザサンですよ!」
「そこのダブル筋肉はまだ時間あるんだから大人しくしてなさい! お姉様に筋肉がうつったらどうするつもりなの!?」
「アズも筋トレするー!」
「アズちゃんにはまだ早いんじゃないかなぁ」
「しかり。アズ殿はまずはその器用を極めるのがいいでござる」
「アズちゃん、アズちゃんは筋肉の道にいかないですよね!? ね!?」
ウチのメンバーはいつも通り騒がしい。
だけど、楽しい。なんだか居心地が良い。
ナインの事は置いておいて、まずはトーナメントを勝ち抜かないとな!




