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【木】の巫女は実験がお好き

 ここは日本とは似て異なる国、大和王国

 この国、いやこの世界には魔力という力が存在していた

 魔力には属性というものが存在し、大和王国では主に【木】【火】【土】【金】【水】と【日】【月】の七属性に大別されていた

 中には例外的な属性を持つものもいたがそれはまた別の機会に


 そして大和王国には七属性のそれぞれに(かんなぎ)もしくは巫女(かんなめ)と呼ばれる者がおり、この物語の主人公は、そんな巫女の一人【木】の属性を司る人物の波乱万丈な人生を語っていくものである


 ♢♢♢


「くふ、くふふふ。ようやく手に入れたわ……」


 怪しげな、悪くいうと気色悪い女の笑い声が響くそこは、窓一つない石壁に囲まれた地下の空間だった


 そこで怪しげなキノコを手袋越しに持って不気味に笑うのは、【木】の属性を司る巫女である植神(うえがみ) 五木(いつき)


 彼女は唯一の光源である蝋燭の火がゆらゆらと揺れる中、手に持った怪しげなキノコを作業台の上にそっと置き、代わりにキラリと光る鋭い包丁を手にしてダダダダダと勢いよくキノコを微塵切りにし始めた


 そして粉微塵になったキノコを横に置いてあった黒く大きな鍋に入れて、そこにこれまた怪しげな液体、粉末、宝石のような石などさまざまなものを入れていく


 全て入れ終わるとお手製であろう木の棒を手に取り、鍋の中身をかき回し始める


「くふふふ、ここに私の魔力を入れてっと」


 左手一本で鍋をかき回しながら、右手を鍋の上にかざしてそこから水色とも緑色とも言えるキラキラと光るモノを振りかけていく


 しばらくそうしてかき回し、キラキラを振りまいていると段々と鍋の中身が粘り気を帯びてきて、最終的にはひと塊りのプルプル揺れる半固体の謎物質が出来上がった


「出来た……これがあれば…っ!誰っ!!」


 それを見つめて恍惚な笑みを浮かべる五木

 しかし、その幸せな時間を邪魔する人物が現れる


 ガンガンガン。本来は五木の修練場だった地下へと入るための強固な鉄の扉が叩かれる


「五木!!ここを開けなさい!!」


 扉の向こうから聞こえてくるのはやや高めの男性の叫び声だ


「来たわね……開けろと言われて開けるわけないじゃない!!」


 五木は男性の襲撃を予想していたらしく、声に応答しながらも素早く作り上げた謎物質を特殊な皮袋にしまいこんで脱出の準備を整えていく


「なら強行突破させてもらう!!怪我しても知らないからな!」


「望むところよ!!」


 ドガーン!と大きな爆発音と共に鉄の扉がゆっくりと内側、五木側に倒れていく


 ガシャーン。と鉄の扉が地面に激突する音が室内に響きわたり、埃が視界一面に舞い上がる中、ゆったりとした歩みで、外の光を背にして身長180cmほどの大柄な男が地下へと侵入してくる


 それに対して五木は、密かに準備していた抜け道を這い蹲って逃げていく

 追ってくるのが大柄なアイツだと分かっていたので、あえて自分でも少し狭いと感じるギリギリのサイズで抜け道を作っておいたのだ


 そんな五木の後方、お尻の方から男の怒鳴り声が響いてくる


「五木ぃぃ!!神聖な修練場にまたしてもこんなモノを持ち込んで!!!今度という今度は許さんぞぉぉ!!!戻ってこい五木ぃぃぃい!!!!」


 反響する大声に少し眉を顰めながらも、心の中で「戻るかバーカ」と悪態をついてさっさと外へと向かう


 しばらく這ってようやく出口に辿り着く、するとそこには小さな男の子が待ち構えていた


「姉さん。また父さんを怒らせたんだね」


「正樹……じゃ!」


「ちょ!五木姉さん!?」


 五木を姉さんと呼び、五木に正樹と呼ばれた男の子、五木の実の弟は姉が自分には目もくれず一目散に逃げていくのを一瞬驚き、そのあとは「姉さんだから」と呆れた目で見送った


 ♢♢♢


 五木が弟の正樹を無視して向かった先は下町にある馴染みの薬師のお店だった


「辰ぅいる〜?」


「はいよ〜。おや巫女様じゃねぇか」


 五木の声に店の奥から返事をしながら出てきたのは、少し頭の毛が薄くなって皺が増え始めた中年オヤジだった

 オヤジは、いつもは「嬢ちゃん」と呼んでいるのをわざと「巫女様」なんて仰々しい言い方をして五木を揶揄うようにニヤニヤしている


「もぉ!変な呼び方しないでよ!」


「嘘は言ってねえだろ?」


 五木が頬を膨らませてプイッと怒っています、という態度をとってもオヤジは余裕な態度でさらなる揶揄いを返してくる


 五木はこんなコントをしているよりも実験の成果を話したかったので「はぁ…」と一息ため息をついてオヤジの台詞を流して、先ほど作った謎物質をお店のカウンターに置いた


「今回は何を作ってきたんだ?」


「今回は一種の媚薬ね。『ヤリタケ』が手に入ったのよ」


「媚薬って嬢ちゃん……」


 五木が作ってきた謎物質は、まさかの媚薬だった

 オヤジもまさか女の子、それも神聖な巫女である五木が媚薬なんてモノを持ち込んでくるとは予想外過ぎて少し引いている


 そんなオヤジの様子を見て、先ほどの揶揄いに対する不満を少し解消した五木は、謎物質のさらなる説明を続ける


「媚薬といっても普通の媚薬じゃないわ」


「するってぇと?」


 続いた五木の説明に引いていたオヤジが気を取り直して真剣な眼差しに変わるが……


「一度使ったら枯れて死ぬまで勃ち続ける一種の毒薬ね♡あ、女性に使ったらただの強力な媚薬ってだけで死ぬことはないと思うわ。死ぬほど辛いと思うけどww」


 五木のあまりの言葉に絶句し、今度こそ完全に引いてしまうオヤジ

 そんなオヤジの反応に五木は大満足だ

 五木はオヤジが復活する前に謎物質改め死の媚薬をカウンターに残して颯爽と店を後にした。去っていく五木の背中にオヤジの慌てふためく声は届いていたが、五木は無視して家へと帰るのだった


 ♢♢♢


 家に戻ると玄関で地下へ怒鳴り込んできたアイツ、五木と正樹の父親である芳樹が仁王立ちで待ち構えていた


「ただいま」


「おかえり。五木、いつも言っているが、お前が植物を使って実験することは巫女としての修行の一環として認めている。が、神聖な修練場を実験室にするのはやめなさい」


「はーい」


「ったく……。それで今回は何を作ったんだ?」


 五木の、絶対に守る気のない返事を聞いて、半ば諦めた感じでため息を一つ。そのあと実験結果について五木から説明を受けて、さらなる雷を落として、芳樹は途方にくれているであろう薬師のオヤジの元へと向かっていった



「別にあんなに怒らなくてもいいじゃん」


 父親にお説教と拳骨一発食らった五木はブークサ言いながら自室に向かって歩いていた

 その途中で先ほど無視した正樹と遭遇する


「あ、姉さん、帰ってきたんだ」


「ただいま」


「父さんに拳骨食らったの?」


「うん。媚薬作ったって言ったら殴られた」


「び、媚薬……」


「正樹もいる?効果の薄いやつあげようか?」


「いや、いいよ……」


 なんの躊躇もなく、実の弟に媚薬を渡そうとする五木。そんな姉に、姉がこんな奴だと分かっていながらも、それでもドン引きの正樹


 彼女たちの日常はこうして破茶滅茶に流れていく

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