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「君は、戦闘をどれほどこなせる?」


レオが尋ねたのは、二人が合流してすぐの事だった。


「剣は振る程度です。メインは弓ですね。」


初対面の高名な冒険者に対して、ピピは緊張気味に答えた。


「そうか」


無表情なレオは端的に答えるのみだったが、ピピには落胆しているように感じられたので、慌てて言葉を重ねた。少しだけでも自分をアピールしておかなければこの依頼から外されてしまうかもと考えたのだ。


「目が良いので索敵は得意です!あ、後は大樹界の側の村出身なので森林地帯の移動は問題有りません!」

「わかった」


やはり無表情のままレオが答えた。あたりはむせかえる様な緑に包まれて様々な生き物の鳴き声が聞こえる筈なのに、緊張したピピには耳が痛くなるほどの静けさに感じられた。


「俺の戦闘スタイルは…」

「あ、知ってます!剣と風の魔法ですよね?」

「そうだ」


早口で被せるようにレオの戦闘法を会話が途切れた二人は無言で歩を進めた。

森林での移動は平地に比べて時間がかかるが、二人の足にはさして問題とはなっていなかった。


「駆け出しの冒険者と聞いて不安に思っていたんだが」


レオがふと口を開いた。


「ついて来られないなら、夜営地で待機させておいても良いと組合からも伝えられていた」


「そ、そうなんですね…」


「移動は問題ないな」


その言葉を聞いたピピは安堵のため息を吐くのだった。



二人の無言での行軍が道半ばに差し迫った時、ふいにレオが口を開いた。


「今回の依頼内容はなんだ?」


「大樹海の’壁’の監視と周辺調査です。あ、あとは野営の雑務全般ですね」


ピピは自分に割り当てられた依頼を答えた。


「お前の依頼は調査と監視だが、俺の受けた依頼にはもう一つ大事な件が有る。聞いているか?」


「…いいえ。…ただ、レオさんクラスの冒険者が、単純な調査依頼を受けるのはおかしいと思っていました」


レオの質問にピピは少し考えて返答を返した。最初からおかしいとは思っていたのだった。ピピのような駆け出し冒険者にもお鉢が回ってくるような依頼は、通常、高い戦闘力の有る冒険者が受ける事は無い。今回の依頼は、ピピともう一人、多少戦闘に秀でる位の一般冒険者が居れば十分可能に思えた。


「俺が受けた依頼は’壁’に対して最高威力の攻撃を当ててみる事だ」


「なんでですか?危険なんじゃぁ?」


「王国の調査によると、現在’壁’からは何の反応も無い。だから壁に対する監視の依頼は、お前にも回ってきた」


攻撃能力の高い冒険者との共同依頼を不思議に思っていたピピは、納得の表情を見せながら質問を続けた。


「じゃあ、レオさんの攻撃で壁を破壊するんですか?」


「いや、学者が言うには破壊は無理との事だ。傷を付けられるかどうか。傷つけた時の反応、素材の回収が出来るかだ」


「壊せないんですか」


「わからない」


あいかわらず無表情にそう答えるレオは、壊せない事を何も気にしていない様だった。一般的に強いと言われる冒険者、有名な冒険者はプライドが高い者が多い。壊して見せると言いきる者の方が多いであろう。しかしレオには破壊出来ないかもしれない事を隠すつもりもないようだった。


「変わりが来るだろう」


「え?」


淡々と話し続けるレオの言葉が分からずに、ピピが聞き返す。


「俺が依頼された攻撃をした後にも、さらに依頼を受けた冒険者が此処に来る」


「それって…」


「組合は有名どころの冒険者に声をかけまわっている。順次送り込まれてくるはずだ」


「俺が依頼を受けている期間中、有名な冒険者がドンドン来るって事ですよね!?すごい事になりそうだ」


「そうだな。がんばれ」


「請けおったいらいですから!がんばります!」


「おもしろい奴が多いからな」


「面白いって何ですか?」


「面白いは面白いだ」


会話をしながらも歩を進めていた二人は、壁を観察する予定の少し小高い丘に到着した。以前から重ねられた調査の結果、壁周辺で必要なポイントは全て地図に押さえられていた。巨大な壁を視界に収められる距離に有る一番近い観察ポイントだが、まだまだ壁までの距離が離れている。


「この距離から魔法で攻撃して見るんですか?」


「いや、俺の最大威力の攻撃は近距離斬撃だ」


「じゃあここからさらに壁まで移動しなきゃいけませんね」


「そうだ」


「それじゃあ、少し休憩したらすぐ移動ですね。あと四半刻くらいですかね?」


ピピにはまだまだ余力が残っており、レオと会話をしながらの移動でかなり緊張することなく対応する事が出来るようになっていた。


「俺一人で行く」


レオの返答にピピは戸惑った。依頼を受けている以上は、しっかりこなさなければと思っていたからである。それを遠くから見守るだけではサボっているとも思われると感じるからだ。

その戸惑いを感じたのか、レオぐすぐさま札名を続けた。


「観察依頼だろう。ここからの方が当然良く観察できる。最初から組合も、お前にはここで観察する事が仕事と思っている」


「何か起きた時には、ここからなら距離が有る」


何か異変が起きれば逃げて報告する事。ピピへの依頼の意図はこうだった。


「でも、何か起きるなら、もっと人数が居た方がいいんじゃないですか?!」


依頼を受けている人数が少なすぎる事が何より疑問だった。


「王国も組合も何も起きないと思っている」


「何でですか?分からないじゃないですか!レオさんだって危ないかもしれない!」


ピピはまだあまり納得がいかなかった。


「お前はいい子だな、ピピ」


レオが少しだけ微笑んだように見えた。


「この依頼はもう何度も他の冒険者がこなしている。最初、中堅クラスの冒険者の大規模集団から、王国の魔法師団、果ては攻城兵器まで」


「俺たちのような攻撃能力が売りの冒険者は今回が初めてだが、何人かが試したらそこで監視依頼も終了するだろう」


「でなければピピのような駆け出しは、組合がここに来させない」


レオの説明により、納得したピピは少し俯き気味に答えた。


「…知りませんでした…すみません」


「謝る必要は無い。しっかり情報を確認しなかったピピにも問題はあるが、説明不足の組合が悪い」


「いえ。勉強になりました。ここでしっかり観察しておきます」


ピピの返答に軽くうなずいたレオは、そのまま壁の方に走り出し勢いをつけたまま


「飛べるんですかっ?!」


驚いたピピの声を背に、壁へと空を駆けて行った。

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