No.26 もう一人の悪役
ルイがうちの研究室にやってきた後、うちらはなぜか仲良くあの差し歯教室を出て、今日から始まる授業を受けるため移動した。
さすが王立と言える豪勢な廊下を歩きながら、ゲーム内での学園設定を思い出す。
この学園、ウィスタリア王立学園は6年生まである。
貴族が通うところであるが、研究者を目指すもの、魔法能力があるものが集められる。
研究者を目指すものは他のものと違い、試験があるが、その研究部門で合格すると自分の研究室が入学時にすぐ持つことができる。
確か、アイツは貴族だったけど、研究部門で入学したんだよな。
とアメリアがゲーム上の彼のこと考えていると、丁度そいつが教室から出てきていた。
「フレイ、他の皆さん。おはよう……なんか面白い組み合わせだね」
ハオランはアメリアたちに気づき、挨拶をする。
「おはよう、ハオラン。君も朝から勉強してたの?」
「……うん」
「ハオラン様も一緒に教室へ行きませんか」
「……エリカさんだっけ?? いいよ」
傍から見ていると、まるでフレイとハオランは仲が悪いように見えるが、実際はとんでも仲がいい。
ゲーム内の2人は幼い時から結構一緒に過ごしていた。
フレイは結構アメリア王女のところに来ていたが、この世界の2人の関係自体は変わっていないようだった。
ゲーム内のハオランはフレイの友人であるためエリカとも当然接触する。
ハオランはとんでもなく特殊なキャラでもあった。
トゥルーエンドはエリカと彼女、フレイとハオランがそれぞれバトった末、エリカとハオランが結ばれる。
バットエンドは彼女にハオランとフレイの両方取られ、エリカは誰とも結ばれずに彼女の刺客に暗殺される。
もう一方の悪役令嬢アメリアは彼女により上手いことエリカを殺した犯人にされ、処刑されてしまうのだ。
その彼女とは誰か。
うちらは自分たちの教室がある棟までいつの間にか来ていた。
棟の前には寮から移動してきた生徒たちで溢れている。
その中にこちらに猛ダッシュで向かってくる少女がいた。
いや、少女じゃない……。
彼女だ。
「ああっ!!! フレイ様っ!! おはようございます!! 朝からどこに行っていたのですか!! 私随分と探しましたの」
彼女は艶やかな紺の髪をクルンクルンに巻き、いかにも彼女の身分らしい豪華なドレスを着ていた。
いや、舞踏会とかじゃなくて授業なんだがな。
ツッコミどころ満載で、アメリアと同じ悪役令嬢、いや、悪役王女である。
アゼリア・サイネリア。
サイネリア王国の第2王女である。
アメリアと違い、主人公エリカに意地悪しても、殺しても、自分自身は決して死なない悪役王女である。
クソがあぁよぉ!!
うちは思いっきり公式のお気に入りであろうアゼリアを睨む。
アゼリアはそんなうちに目をくれることもなく、彼女の愛しの人、フレイのもとへ駆け寄る。
「フレイ様、お聞きください!! 私たち、同じクラスでしたのよ!!」
「そうかい……」
柄になくフレイはアゼリアの勢いに負け、弱そうに言った。
「姉さん、突然どうしたのっ??」
嫌な予感がする。
うちはクラス表に一直線に駆けだす。
突然走り出すうちにルイが話しかけてきた。
アゼリアの言葉を聞いたうちは気になって棟の入り口に行くと廊下にクラス分けの大きな紙が貼られてあった。
そこには……。
「ええっ!!」
「姉さん、どうしたの!!」
そのクラス表に目を通すなり絶句する。
なっ。
なんでうちのクラスに死神が集合してんだっ!!!
クラス表の8組にはうち、義弟のルイの他に、フレイたちの名前があった。
「やった!! 姉さんと同じクラスだ!!」
ルイはうちと同じクラスで嬉しかったのか満面の笑み。
後から、やってきたエリカたちもクラス表を見ていた。
「まぁ、アメリア様と同じですわ。私、お友達少ないので仲良くしてください、アメリア様」
「……あ、僕もだ。アメリア嬢、よろしく」
押しの強いアゼリアに腕を掴まれたフレイもやってきた。
「あ、アメリアと同じクラスだ」
なんでこんなことになるんだ。
死神たちと同じクラスだなんて。
最悪だ。
「フレイ、呼び捨てにすんな」
うちは理不尽とは分かっているが、苛立ちを向けやすいフレイにあたる。
「いや、君だって王子に向ってその口調はないでしょ」
「うるせぇ」