現れし仮面の悪魔!その名はジョーカー!
【1】
サンサシティの中央にある巨大なステージ会場。
アイドルやお笑いのライブで利用されるこのステージでエルザの舞踊公演は行われる。
沢山の市民や観光客が正面入り口に行列を作って並んでいる。
その人波を主催者達は計画通りだと笑いながら眺めている。
「どうにか儲けられそうだな。」
「そうですね。幸い何事もなかったし。」
結局前日にリハーサルは行えず、不安だらけで迎えた本番だが問題は無い。
自分の計画に酔いしれる主催者の姿に若い社員はヒソヒソ話をする。
「えっ!?本当か!?」
「本当みたいだぜ。」
「でもそれなら警察沙汰じゃねぇか。誰も通報してないのか?」
「通報したのがバレたら殺されるって話だとよ。」
彼らは見てはいけない物を見ていたのだ。
でも命が惜しくて誰も告げられずにいた。
そんな腹黒さを当然ながら知る観客などいる訳ない。
―ある特殊な人間を除いては。
「ねぇジャック…。」
観客席の最前列に座るマナは後ろをチラチラ見ながら不安な顔を見せている。
「さっきからマナ達ジロジロ見られてる気がするんだけど…。」
周りは親子連れやカップル、夫婦二人や友達同士が多い。
それと比べるとどうだろう。
明らかに友達ではないし兄弟としては年齢が離れ過ぎている。
近い表現で言えば…誘拐犯か。
「ジャック聞いてるの?」
「聞いてるさ。そんなの気にしにきゃ良い話だろ。」
気分転換に飲めとジュースの紙コップが手渡された。
勿論喉は乾いていたのでそこは素直に受け取る。
「それよりもさ旦那。」
「ん?」
「姐さんの約束って本当なのか?」
―踊るのは今日限り。
―終わったら自分を仲間に加えてこの街から出たい。
前日出してきた二つの提案だが明らかに上手い話だとジャッキーは読む。
マスコミに狙われてるならダシに利用するのではと。
「ほら、海外の映画って女のスパイとか工作員とか良く出てくるだろ。それと同じなら厄介な気が…」
「止めとけ。」
でもケビンは落ち着いて両手を頭の後ろに組む。
「エルザはそこら辺の安い女じゃない。自分の夢に向かって突き進んでる努力家だ。それによ…」
そこで一旦区切って目を閉じた。
「俺はどんな理由でも女と子供は泣かせたくない主義なんでな。」
力強く、確信に道溢れた一言。
それが自分の道理にも触れているとジャッキーは口笛を吹く。
「やるね旦那、バツありの癖に。」
ピクッと長い睫毛が一瞬だが痙攣する。
もう死んだが一度妻子を設けた身で新しい女に手を出せるなと言う風に聞こえたからだ。
《いや…気にすると負けだ。マリアもヒカルも過去の存在になったんだ。今更引きずっても…何も得れないからな。》
もう思い出に浸るのは控えようと考えていた。
結局後ろを向くのと同じ行為になると信じて。
「…俺様が嫌いなら殴ってくれ。」
「バーカ。喧嘩なら外でやれよ。いくらでも受けて立つからな。」
【2】
そうこうしていたらブーッと開演を知らせるブザーが鳴った。
合わせて照明が徐々に消えていき、ステージのみが明るくなる。
「会場のお集まりの皆さん、おはようございます。本日は気候も良く…」
主催者が客に挨拶を始めた。
でも彼らは誰一人として真面目に聞いていない。
目的はエルザの演技だけだ。
「それでは主役のご登場です。どうぞ!」
ステージの端に向かって手を上げるとコツコツと靴音が聞こえた。
観客の熱が一気に高まる。
轟音のような拍手とエールを浴びながら主役が姿を見せた。
最前列の三人もその姿にウットリする。
エルザの衣装はパールホワイトのドレスで足元は髪の毛と同じ銀色のミュールを履いている。
ドレスはノースリーブで腰回りの宝石以外に装飾品は飾られておらず、彼女の細い体を更に細く見せていた。
長い髪の毛も後ろでアップに纏め、薄くメイクも施している。
「ママ綺麗だなぁ…。」
「やっぱりドレス着ると全然別人だな。」
ケビンは二人とは違ってある人物をイメージしていた。
《マリアも化粧すると凄く綺麗だったな…。》
どうやってもマリアとエルザを重ねてしまう。
本当に姉妹かと思う程良く似ているからだ。
エルザは観客の前でお辞儀をすると両手に持った道具を構える。
愛用品である二対一組の鉄扇。
間を置いて舞台袖から音楽が掛けられた。
ゆったりとしたクラシックに合わせて彼女の演技が幕を開けた。
―例えるなら湖でゆったりと翼を広げる白鳥。
または森の奥の泉で水浴びをする女神様と言った所か。
自然に流れるような動きで美女の体はバレリーナのように檜の舞台で空を舞っていた。
舞台袖では悪徳社長と取り巻きがニヤニヤしながら彼女を見守る。
ファンも観客も興奮しながらその踊りに惚れていた。
《…ん?》
演技開始から三分ほど経ってケビンは何か可笑しいと気付く。
エルザはここまでミスをしないで踊っているが…その足元が不自然になっていると。
良く目を凝らすと右足は軽やかにステップを踏むが左足の方が擦るような仕草を見せているのだ。
《アイツ…まさか…》
小さな疑問が膨らみつつあったまさにその時だった。
突如としてゴトッとミュールの踵が滑り、エルザは横に倒れた。
その瞬間に会場の空気が一変した。
舞台スタッフも慌てて音楽を止める。
「おいどうした?」
「大丈夫か!?」
若いスタッフが急いで彼女を抱き起こす。
エルザはスカートの上から左足を押さえて立ち上がる事が出来なかった。
舞台裏ではスイッチを操作して一旦幕を下ろしたり照明を付けたりしていた。
『お客様にお知らせ致します。只今舞台上でトラブルが発生しております。指示があるまで着席のままお待ちください。』
だがケビンは苦い表情を見せて席から立ち上がる。
「旦那どうした?」
「…様子見てくる。二人はここで待ってろ。」
舞台袖へ入る扉の近くに寄り掛かる。
スタッフは皆立ち上がってヒソヒソと話していた。
「取り合えず休憩入れるか。」
「あぁ。このままだと時間の無駄だし。」
アナウンスの担当は即座にマイクを握った。
『お客様にお知らせ致します。これより三十分の休憩時間とさせて頂きます。ご迷惑とご心配をお掛けして申し訳ありません。尚、開演五分前には座席にお戻りになられますようお願い致します。』
ケビンは視線を少しだけ見せて様子を伺う。
パイプ椅子と武骨な機器類の中で一際輝く銀色が見える。
でもそれはカーテン越しに隠れるように小さく座っていた。
ケビンは彼女が悟るように人刺し指にライターのような小さな炎を灯し、フ~ッと息を吹き掛けた。
生温かい熱波が肌に伝わり、エルザはハッとする。
《ケビン…?》
エルザはお手洗いに行くと告げるとゆっくり立ち上がり、そのまま廊下へと進む。
「よぉ、大変だったな。」
自分の予測通りの男の姿にエルザは少しだが安堵した。
「どうしてここに…?」
「…見せろ。」
「え?」
「良いから左足見せろ。」
【3】
眉間に皺を寄せるが怒りではないと見抜いてエルザはスカートを少し捲った。
やはりという様に左足の踝の上に白い包帯が巻かれていた。
「やっぱり痛めてたか…。」
愛しそうに包帯のザラザラした感触を手で確かめる。
「なんで分かったの…?」
「倒れる前から左足引き摺ってるのが見えたんだ。こんな怪我してるのに踊れるのが逆に驚くな。」
怒りながらも心配な顔付きの男にエルザも言葉を失う。
「いつからだ…この怪我。」
「…昨日の夜よ。皆と別れてホテル戻ったらあの馬鹿に説教されてね。脱走した見返りだって。」
ピキピキと額と手の甲に血管の筋が浮かぶ。
説教ぐらいでこんな怪我など普通は有り得ない。
それも踊り子の命とも言える足への負傷だなんて…こんな状態でも無理やり踊らせるのが考えられない。
「逃げなかったのか?」
「貴方との約束を無駄にしたくなくて…だから…。」
そうだ、コイツ負けず嫌いだったなと思い出しながらケビンはサラサラと流れる後ろ髪を撫でる。
「…っう。」
ピタリとグローブをはめた手の動きが止まる。
「おい…まだどっか痛めてるのか?」
「…。」
「頼むから教えてくれ。」
ここでは人に見られるとエルザの案内でケビンは非常口から会場の裏へと出た。
そこでエルザはなんとドレスの肩の生地を緩めて裸の背中を見せる。
「わっ…お前…!」
流石にケビンも動揺して自分の上着を一応準備する。
でも同時に絶句した。
細くて真っ白い背中には痛々しい青痣が幾つも付けられていた。
「なんだよコレ…。」
「これも見返りの一種よ。」
エルザは何故か慣れた様子で頬を赤らめる。
「どこが見返りだよコレ…もう暴行だろ!!」
遂に我慢の限界を迎えた男は両肩に手を置いて激しく揺さぶる。
「なんでお前平気でいられんだよ!こんな怪我させられてなんで普通に過ごせるんだよ!」
エルザは泣くのを堪えて俯く。
そしてボソッと口を開いた。
―自分も本当なら約束を破って逃げ出そうとしたかった。
―でもそしたらケビンは自分を仲間にしてくれないと思って…我慢していた。
剥き出しの背中に風が当たって痣がズキズキと痛む。
「一人になるのが恐かったの…。やっと…やっと本当の自分を見てくれる人に会えたから…手放したく無くて…だから…!」
真珠の涙が白い頬を伝って足元の雑草に落ちていく。
「…馬鹿野郎。」
分厚い上着が細い上半身に掛けられる。
と、同時に腕が背中に回ってグイッと引き寄せられた。
「もし脱走しても…そんな怪我見せられたら見過ごせる訳無いだろ。」
鼻先を髪に埋めると汗と一緒に香水とシャンプーの入り交じった芳醇な香りがする。
その香りが溜め込んでいた怒りを潤すように心地好い。
「これ以上一人で悩むな。辛いなら逃げろ。それで泣いて俺にすがれば良い。そう思わないか?」
―今までの自分は逃げるのを恐れていた。
周りから卑怯だと言われるから。
裏切られると思ったから。
そうなると自分が自分では無くなりそうで…仕方無く誰かに従うしか無かった。
「辛くて逃げるのは卑怯でもなんでも無い。寧ろ自己防衛なんだ。そこで立ち止まったら…逃げ道を失うだけになるぞ。」
「…。」
「逃げるのに勇気がいるのは確かだ。だから踏み止まるんじゃねぇ。逃げて逃げて逃げ回れ。それで信頼出来る奴探して…泣いて頼れ。」
―逃げても構わない。
それは自分の思考とは真逆の考え。
―辛いのを溜めるな。
―恐いなら泣き叫べ。
そう伝えていた。
「ケビン…本当に逃げて良いの?」
「当たり前だろ。これ以上お前が傷付くなら…俺は無理矢理でも拐って…自分の中に閉じ込めるさ。誰の目にも見られないよう…一生な。」
静かに、そして優しく唇が重なる。
何処までも熱くて温かい接吻。
ゾクゾクした寒気と燃えるような熱さが一緒に込み上げてくる。
ケビンは自分の行いが愚かなのは承知していた。
でも従来の性格からどうしても女と子供絡みの問題は見過ごせなかった。
叩かれても…それで彼女が幸せに感じれれば良いと。
それが迷いを断ち切っていると…信じて…。
【4】
二人の間に流れる幸せな甘い空気は一人の男の声で掻き消された。
「…な。」
それを聞き取るのに時間が掛かった。
「…んな。」
答えはまだ返ってこない。
これが三度目の正直だ。
「旦那!聞こえてんのか!」
「「わぁぁぁぁ!」」
閻魔様宜しくの怒号に二人の焦りがシンクロする。
声の方角には額に青筋立てた成り金男が仁王立ちしている。
「ジ、ジャッキー!なんでここが!?」
「中々戻らないから探しに来たんだよ。そしたらナニ?二人で恋ドラごっこか?」
「べ、別にそういうつもりじゃ…。」
ケビンもエルザもどう答えていいいか分からずに狼狽える。
それ以前にジャッキーが恐ろしく見えた。
顔はニッコニコなのに閉じられた瞳は全く笑っていない。
その笑顔にケビンは全身の熱が引くのを感じた。
そんな二人をフォローもせずにジャッキーは更に追求する。
「なぁ旦那。俺様言ったよな。お互い両想いなら自然と手引くって。」
「あ、あ…ぁぁ。」
「だからってこんな公共の建物の裏でクサい芝居やらなくても良いだろうにな~、うん?どうなの?」
自分だってやりたくてこんな真似している訳では無い。
少し心配してたら自然と変な流れになっていたのだ。
「…せめて人気の無い場所でやれよな。なぁ姫?」
頭の中でチーンと鐘の音が鳴る。
ジャッキーのコートに包まるように二人を見上げる丸い瞳があった。
《《わぁぁぁ…マジかよ。》》
心の叫びも綺麗にシンクロする程の気不味い空気が漂う。
―よりによって一番見られてはマズイ人間に見られていた。
「…って待て待て!だったらなんで連れて来るんだよ!」
「しょうがねぇだろ。一人にしておいたらまた危ない目に会うかもしれないし。」
遂最近もマフィアに誘拐されて敵の罠に陥れられたばかりだ。
ミステシアで無くてもガラの悪いチンピラみたいな人間は増えている。
なら尚更一人にするのは危険だった。
「…ぐす…ぐす…。」
紅のコートに鼻を押し付けてマナは泣き出していた。
「酷いよケビン…マナには一度もチューしてくれた事無いのに…うわぁぁぁ…。」
一度エルザに嫉妬した時の慰めは嘘だったのかと思う程の屈辱。
それがマナに伸し掛かっていた。
ケビンもようやく状況を読めたのか、申し訳無さそうにマナに近寄る。
「ゴメンな。別にマナの事が嫌いになった訳じゃ無いんだ。」
「…ぐすん…ホント?」
一杯泣いて真っ赤に染まった瞳が自分を見上げてくる。
「本当さ。構って貰えなくて寂しかったんだろ。」
コクリと頷くと頭に大きな手が乗った。
「…俺も少し自分の世界に浸り過ぎてたから悪かったな。」
昨日のホテルの一件に付いて全く反省していない自分が腹立たしい。
―どうして気付いてやれなかったのか?
後悔しても仕切れなかった。
「…マナちゃん、私も謝るね。私の事嫌いになっちゃったかな?」
ここでエルザが沈黙を破ってマナに話し掛けた。
その声に小さな耳がピクピクする。
「ううん…違うの。」
自分と同じ色白の手をマナは頬にくっ付ける。
「マナね…ママが羨ましかったの。マナより綺麗だし…優しいし…」
【5】
―そこで聞こえないように強いしとマナは付け加えた。
自分と全く正反対の物をエルザは全部持っている。
そんな彼女と一緒にいれば確かに頼もしいが同時に恐かった。
自分がお払い箱になる事に。
「そんな事無いわよ。マナちゃんの方が私よりずっと強いと思うけどな。」
プニプニと頬をマッサージすると赤みが増して可愛く見えた。
「貴方の優しさが誰かの支えになっている…って言えば分かるかな?」
不思議そうに首を傾げる様子にエルザは微笑み返す。
―今はまだ理解出来なくてもいつか分かってくれる。
そう信じていた。
「…ケビン、私やっぱり戻るね。」
キッパリと何か閃いた様子で踊り子はスクっと立ち上がる。
「最後まで姿見せて…あのエロスケベ殴ってくるから。」
「ヘ~イヘイ、女は怒ると恐いからな。」
彼女の揺るぎない覚悟を見届けたその瞬間だった。
《…ん?》
耳元でピシリと音がした。
何かに亀裂が入るような音が。
目を懲らすとさっき入ってきた非常口の硝子がヒビ割れていた。
もう嫌な予感しかしない。
心臓がドクンドクンと波打つ。
「伏せろ!」
ケビンの号令で伏せるのと同時にドガーンと大きな爆発が発生した。
爆破の衝撃で硝子が吹き飛ばされ、破片が吹雪となって四人に降り掛かる。
丸見えになった屋内からは黒い煙と非常ベルの桁ましい音が聞こえる。
霞と埃が舞う中でケビンはゆっくりと起き上がった。
「皆無事か?」
「なんとか…な。」
「コッチも大丈夫よ。」
ジャッキーとエルザは両隣で倒れていた。
エルザに至ってはマナが爆風に煽られないようにしっかりと抱き締めた姿勢のままだ。
「ママ…。」
「大丈夫よ。ママが付いてるからね。」
怯えるマナをエルザは優しく励ます。
自分も恐いが小さな少女にとってはそれ以上の恐怖が襲っているのだ。
だから少しでも不安を取り除かないといけなかった。
「立てるか?」
ケビンの手を借りてエルザはゆっくりと腰を上げる。
左足の痛みはもう殆ど感じない。
痛みが麻痺してるのか、それとも治っているのか。
でもこの状況で考えている暇は無かった。
自分等の足元にはキラキラと鋭い破片が散らばっている。
非常ベルの音にケビンはチッと舌打ちした。
「それにしてもなんだ?ガス爆発か?」
「違うわ。ガスが充満してたら誰かしら臭うって気付く筈よ。恐らくだけど…原因は外部からの侵入者ね。」
ふと見上げると会場の屋根の一部から白い煙が上っているのが確認出来る。
「あの方角はホールよ!」
「マズイな…急ぐぞ!」
四人はホールへと走る。
まだ中には大勢の観客がいるからだ。
罪もない人々を犠牲にしたくはない。
「お~い開けろ!開けてくれ!」
到着すると出入り口に沢山の客が押し掛けている。
先頭の男はドアノブを握って扉を抉じ開けようとしていた。
「どうしたんだ?」
「助けてくれ!俺達閉じ込められたんだ!」
揃いのハチマキとシャツ姿の親衛隊らしき人間達が状況を説明する。
ケビンらが戻ろうとしたまさにあの時、ホールでは突然停電が起きていた。
そして復旧させる間もなく天井が謎の攻撃を受けて崩れ、パニックになってしまっていた。
しかも主催者達は避難誘導をせずに真っ先に逃げ出し、あろうことか出入り口を施錠してしまっていた。
なので観客は逃げ道を断たれていたのだ。
「皆どいて、私達が逃げ道を作るから。」
凛とした声に群衆が引き下がる。
「ジャッキー、開けれる?」
「任せな。」
ジャッキーはケビンの真似をして指を鳴らす。
すると足元から水の龍が出現した。
「頼むぜドラグーン!」
龍の口から強烈な水圧の大砲が放たれる。
豪華な扉は軋んで留め具が変形してくる。
「ア、アンタら…!」
まさかのスキル使い登場に全員が釘付けになる。
―そして。
「グォォ!」
留め具が破損し、扉が前方には向かって勢い良く吹き飛ばされた。
「や、やった!」
「列に並んで!女の人とお子さんとご老人を先頭にして!」
歓喜に満ちる観客はエルザの指示で一列に避難を開始した。
「ありがとな!」
「助かったぜ!」
泣きながら、喜びながら避難していく観客達。
エルザはその一人一人に手を振っていく。
最後部にいた親衛隊の人間が扉を前にして振り返った。
「エルザは…逃げないのか?」
ここにいても死ぬだけだと訴えるが銀髪の美女は目を閉じるだけだ。
「私にはまだ…やる事があるの。」
彼女の背後には照明装置や天井の破片やらが落ちて滅茶苦茶になった舞台がある。
その遙か上には大きな穴が開いて太陽の光が差し込んでいた。
「貴方達は逃げて…一刻も早く。」
【6】
筋肉の見当たらない細い腕が通せんぼするかのように横に上げられる。
その手には愛用の鉄扇。
ケビンとジャッキーはその覚悟を感じて横に並ぶ。
「だとよ、早く行きな。」
「心配せずとも必ず生きて帰るからよ。」
親衛隊は苦い表情をしながらも戦士達の覚悟を無駄にしてはならないと小走りに逃げ出す。
すると天井の穴から二つの黒い影が降り立った。
一人は肥満を連想させる程の肉体を鋼鉄の鎧で包んだ大男。
もう一人はマジシャンのようなキチンとしたタキシードに紫色の仮面を被った若い男。
この内若い男の手には旧式のピストルが握られている。
ジャリジャリと破片を踏む音が客の逃げたホールに響いた。
「あれれれ~?お邪魔虫が三人もいるね。」
笑うように話すのは仮面の男。
その声にケビンの背筋が凍り付く。
「お前は…!」
鏡のように磨かれた男の仮面は左目の部分が黒く焼け焦げている。
その焦げ跡を忘れる訳がない。
かつて自分が付けた抵抗の痕だと。
「旦那…?」
「ケビン…どうしたの?」
相手は目の前の男を見てクスリと笑う。
「それに良く見ればキミ…懐かしい弱腰君じゃないか。まさかこんな場所で再会するとはね。」
悪魔の囁きにに蘇るのは悲しい過去。
燃え上がる街、そして自分に助けを求める愛しき存在。
それを無残にも焼き払った…許すまじき男がいたのだ。
―不気味な笑みに全身の血液が心臓へと逆流していく。
脳への回路が回らなくなり、目の前がクラクラしてきた。
肺からも空気が喉を通って押し出されてくる。
そして―
「旦那!!」
ブツッと糸が切れたようにケビンはその場に倒れた。
口からはヒューヒューと笛のような声を発するだけで眼球は真っ白になっている。
「旦那!一体どうしたんだ!?」
ジャッキーは真っ青になって体を揺するが相棒は起き上がらない。
対してエルザはその症状を見て思い当たる節を感じていた。
《もしかしてフラッシュバック…!?それにケビンのトラウマって確か…》
ケビンの過去は途切れ途切れに聞かされていた。
住んでいた街を焼かれ、そして最愛の奥さんと息子を殺された。
そして目の前の男。
《まさか…!》
全ての点が繋がったとエルザは確信する。
「…下がっててジャッキー。コイツは私が片付けるから。」
動けないケビンの目の前で仁王立ちする美女。
頼みの男がこの状態の今、自分で切り抜けるしかないと判断していた。
「姐さん…。」
「ママ…大丈夫なの?」
傍らに寄り添うマナが不安な声でドレスのスカートを握ってくる。
しかしエルザは優しく微笑んで頭をそっと撫でた。
「大丈夫よ。男の扱いには慣れてるからさ。」
その返事にマナは泣くのを堪えて二人の男の元へ向かう。
エルザは動きやすくしようとなんとドレスのスカートをビリビリと引き裂き始めた。
スカートは左足の辺りが半開きになって美しい美脚が露わになる。
「ワ~オ、結構大胆な事するね。」
仮面の男は興奮混じりに笑って挑発してくる。
「油断禁物ですよジョーカー様。」
「分かってるさボルバ。お前は手を出すな。こんなヒョロヒョロ女なら僕一人で充分だよ。」
ヒョイと身軽な動きでエルザは舞台に上る。
舞い上がる空気が引き裂いたスカートの裾をたなびかせる。
「ヒョロヒョロかどうかは…肌で感じる事ね。」
刃物のように鉄扇を突き出すとジョーカーと呼ばれた仮面の男はアハハと笑う。
「こ~んなべっぴんさんでも怒ると怖いんだね。それにとっても強そうだなぁ。」
自分を自慢したりする訳では無い。
挑発するように笑いながら喋る姿は不気味さを通り越してゾワゾワした。
《なんなんだアイツ…!?あんなの人間じゃねぇだろ!?》
意識を失った相棒を担いでジャッキーは踊り子を見守る。
ケビンは未だに息をするのがやっとで発声など出来なかった。
二人は演技をするように互いにジリジリと間合いを取る。
「さぁ!楽しいパーティーを始めようよ!」
【7】
ジョーカーが大きく腕を広げると手の上でユラユラと何か浮かんできた。
ガシッと掴んだのは拳銃だ。
即座にバンバンッと連続してエルザに発砲する。
「ハァッ!」
エルザも負けてられないと扇を振るうと空気の刃が飛んで銃弾を切り裂いていく。
割れた弾丸は美女の回りで次々と暴発していく。
「へぇ~、中々やるね。」
ジョーカーは拳銃を捨てると今度はレイピアを具現化して構えた。
「セイッ!」
ヒュンッと細い切っ先が耳元を掠めて銀色の毛髪が宙を舞う。
負けじと頑丈な鉄扇とレイピアがガキィンと金属音を交わす。
「教えなさい、貴方は何の目的でこんな所に来たの?」
「…君には関係無い事だね。」
互いの武器が反れて二人は後ろに下がる。
「ケビンの家族を殺めたのも貴方なのね…?」
「そうだよ。あの時の弱腰君の顔は最高に快感だったよ。てっきり後追いしてたのかと思ったら生きてるんだもの、驚いたよ。」
やはりと感じてエルザは鉄扇をもう一つ取り出した。
―この男は狂っている。
早く止めないとならなかった。
鉄扇を両手で持って頭上に掲げると緑色の風が束となって集まる。
そして下ろすと風が消えて巨大な扇が現れた。
「そ~らッ!」
召喚された大量のナイフが飛んでくる。
「喰らいな!」
(ビッグサイクロン!)
エルザは重たそうな扇を振るって竜巻を飛ばした。
竜巻はナイフを吹き飛ばしてジョーカーに迫る。
「ジョーカー様!」
途端に仮面の下がニヤリと笑ってレイピアの斬撃を放つ。
斬撃は竜巻を真っ二つにして当人に向かう。
「姐さん!」
「オラァ!」
エルザも諦めていない。
扇を片手に持ち替えてなんと斬撃を蹴り飛ばした。
跳ね上がった衝撃波は天井にぶつかって更にガラガラと崩れていった。
「うわぁ…容赦ねぇ…。」
足のキレも然ることながら彼女の馬鹿力にも驚く。
ジョーカーはレイピアを背中に背負うとターンを踏んで背中を向けた。
「悪いがこれ以上勝負しても時間の無駄だから引き上げさせて貰うよ。」
「…!、待ちなさい!」
止めようとしたらもう一人の大男が床を拳骨でへこませた。
「命拾いしたな女。次は俺様が料理してやるから覚えときな。」
吐き捨てると大男はジョーカーを背負って天井の大穴から逃げ出した。
今から追い掛けても見失うと判断してエルザはケビンの元に向かう。
呼吸は乱れているが胸に耳を当てると心臓の鼓動は聞こえる。
命の危機は無いようだ。
「ったく…生命力もまさしく不死鳥ねこの馬鹿。」
そんな事を言いながら男の体を担ぐ。
「足大丈夫か姐さん?」
「コイツと比べたら全然マシな方よ。それより手伝って。」
ジャッキーも反対の肩を支えて相棒を持ち上げる。
理由は分からないが一刻も早くここから連れ出した方が良いと無意識に判断する。
引き摺るように歩く後ろをマナは一人でトボトボと付いてきた。
「大丈夫よ。死んでないからね。」
落ち込むマナをエルザは笑って慰める。
こんな状況でも励ましの姿勢を見せる度胸など中々付けられない物だ。
こうして人気の無くなったステージから四人はひっそりと脱出して行くのであった。
【8】
ケビン達が脱出後、崩壊した会場近辺は黄色いテープが張られ警察による検証が始まっていた。
テレビ局のカメラも一斉に集まり報道している。
奇しくも公演を見に行けなかった観光客は興味本位に集まって携帯やデジカメで写真を撮っている。
ケビン達に誘導された観客や親衛隊は入り口に座って取材を兼ねた取り調べを受けている。
勿論、その様子もテレビで流されていた。
四人が人目を避けて辿り着いたのは宿泊先のホテルだ。
エルザはパニックになるからと自分のホテルには戻らずに一緒に付いてきてくれた。
「ここならマスコミも来ないし大丈夫だろ。」
念を置くようにジャッキーはカーテンを引く。
ケビンはベッドに寝かされて未だに目覚めていない。
少し薄暗い部屋は置き型のスタンドとベッドサイドのランプで辛うじて明るくしている。
「にしてもビックリしたな。あの仮面野郎…一体何者だ?」
ベッドの脇の椅子に腰掛ける。
すると―
「ジャッキー…少し聞いてくれる?」
反対側の椅子にはエルザが腰掛けている。
マナは彼女の膝の上に乗る形で抱えられていた。
「あくまで私の理論だけど…。」
小さな体を包む腕が一層締まる。
「あのジョーカーって男…ケビンの家族を殺めた張本人かもしれないの。」
「…えっ!?」
相棒の頭髪を弄っていたジャッキーは目を丸くした。
「この症状は恐らくフラッシュバックよ。そうでなければ倒れたりしないもの。」
「あぁ…過去の辛い記憶が何かのキッカケで蘇るって奴だろ。…って本当か!?」
深く考えればかなり重大な問題だ。
普通の生活で過呼吸を起こすなど病気持ちで無い限り有り得ない話だ。
加えてジョーカーがケビンの事を弱腰君と言っていたのも踏まえると間違った理論では無いと判断出来る。
《ずっと引きずってたのか…自分のトラウマを…この人は…。》
それを隠していたのに怒りは一切沸かない。
寧ろ同情したい程だ。
「ママ…ケビン大丈夫だよね?」
一向に目を覚まさないケビンの様子にマナは不安になっていた。
それを取り去るようにエルザは頭を撫でる。
「大丈夫よ。私がマナちゃんに悪戯したら直ぐに飛び起きるからね。この死にぞこない男。」
「…誰が死にぞこない男だコラァ…。」
重りを飲んだような鈍い声。
ベッドのシーツが手の部分でしわくちゃになる。
「旦那!気が付いたか?」
「…あぁ。物凄い悪い夢見た気分だ。」
ゆっくりとケビンは上半身を起こし、ジャッキーは肩と背中を支える。
「ジョーカーは?」
「逃げられたわ。私と勝負しても時間の無駄だって言い残して行った。」
「…そうか。」
明るいオレンジ色のシャツが汗で所々黒ずんでいる。
全身が発汗するレベルの緊張が彼を襲っていた証拠だ。
「あの野郎…まさか追っ掛けて来てたのか?こんな所で鉢合わせになるとはな…。」
汗で濡れた髪の毛を掻き毟っていたらジャッキーがコップに水を汲んで持ってきてくれた。
それを一気で飲み干すと喉の奥がジンワリ冷えてくる。
「旦那…姐さんが家族の仇とか言ってたけど本当か?あの男がマリアさんと旦那の子供を?」
「………。」
コップをサイドチェストに静かに置くとシャツの第一ボタンを外して指輪を引き上げた。
「ジョーカーの仮面…左半分が焦げてただろ?あれは五年前に俺が付けたんだ。」
「旦那が…。」
「正直言って仮面を焦がす程度の力しか俺は持ってなかった。それだけ奴が強いって事だ。」
ケビンはトレードマークとも言える革のグローブを外した。
今まで分からなかったが素の左手の薬指にチェーンで繋がれてるのと同じ指輪が嵌めてある。
恐らくマリアの指輪とお揃いで購入した自分の私物だろう。
「ジョーカーのスキルは武器を具現化する力だ。ナイフも銃も爆弾も奴にとっては単なる玩具に過ぎない。奴にしてみれば都市を一つ抹消するのはストレス発散と同レベルなんだ。」
肌で感じているから分かる。
ジョーカーの強さが。
今の自分でも勝てるかどうかは分からないと。
「オマケに奴はミステシアに四人いる幹部の一角だ。でも実力は幹部内でも郡を抜いている。他の三人も強者揃いって噂だしな。」
細かい傷が付いた指がリングをなぞる。
あの時…自分と同じ指輪を持つ女性が必死に伸ばした手。
掴もうとしてもそこで意識が途切れてしまう悲しい光景がそこにある。
「あんなのがあと三人もいるって油断出来ないな…。」
「でも喧嘩売られたようじゃ逃げられないわよ。多分ここにいても危ないかもね。早く街から出た方が手っ取り早いかもよ。」
【9】
ケビンは指輪を眺め続け、やがてグローブをはめて左手を隠した。
「いや…その前にジョーカーをここから追い出す方が先だ。奴だけ置いて逃げたらこの街は終わりだ。罪の無い一般人を犠牲にするのは…俺の性に合わないからな。」
「ケビン…。」
「それには俺様も賛成だな。」
ジャッキーはコップに二杯目の水を汲んで相棒に手渡す。
「そんな真似したら姐さんのファンに申し訳立たないだろ?急かしてくれるのは良いけど守らなきゃいけない存在があるって事が第一優先だからな。」
エルザは窓辺に立って自分の姿を写す。
埃まみれになった純白のドレス。
その染みの一つ一つが応援してくれた人々の涙や汗に例えるなら…それを返す意味があった。
「…分かったわ。それでこれからどうするの?」
「残念だが奴の気配を感じ取る事は出来ないんだ。ここで大人しくしてるしかないだろ。」
秘策は無しかと諦めるもそこで踊り子はあっ、と呟く。
「ねぇ、それならちょっと外出しても良いかな?この格好だとマズイから替えの服が欲しいの。」
どの道このドレスはもう着れない。
全身が汚れておまけにスカートの半分を引き裂いているのだ。
もっとラフな服装にしないと万が一の事態でも動けないからだ。
更に街のあちこちで警察が巡回しているなら普通に出歩いても正体が露見してしまう。
それを考慮しての提案だ。
「構わないけどさ姐さん…荷物とかさっきの会場に置きっぱなしだろ?そこまで行くにしてもその時点で見つかるぞ?」
ジャッキーの不安を余所にエルザは心配ないと答える。
同時に部屋の窓を開け放った。
「おいで。」
掌の汚れを吹き飛ばすようにフーっと息を吹き掛ける。
するとその一息が緑色の小さな球体へと変化し、その球体が姿を変えた。
ほっそりながら筋肉の付いた四本足、鏡のような蹄、波を連想させるタテガミ、鳥よりも大きな翼。
神話でも良く登場する伝説の動物…ペガサスだ。
「スゲー…。」
「久し振りねペガ。」
主人に顔を撫でられて新緑色の天馬はプルルと鳴きながら目を細める。
「紹介するわね。この子はペガクロス、私のバディよ。」
「ほう、あの扇の絵の天馬はコイツをモチーフにしてたのか。」
その言葉にエルザは鉄扇を取り出して広げた。
確かにそこには美しい天馬の絵が彫られている。
「ペガはジャッキーが召喚してたあのドラゴンと似た存在よ。そういえばケビンのバディにはまだ…」
「キュイイイイ!」
いきなり甲高い鳴き声がした。
振り向くと天馬の背後に朱色の不死鳥が舞い降りている。
大きな翼を広げたその姿はケビンが威嚇する時に出すあの不死鳥と同じだ。
「プルルル…。」
「…そう…。」
ペガクロスの一鳴きにエルザはウンと頷く。
「貴方フェニクロウって言うのね。」
「キュイイ。」
名前を呼んでもらえた不死鳥は室内に入ってケビンの左手に吸い込まれた。
その証拠に左手の甲には赤い紋章が浮かぶ。
「ったく、勝手に飛び出してたな。」
「えぇ、主人に似てかなりせっかちそうね。」
ペガクロスはいつでも飛べるように窓辺に向かって横向きの姿勢になる。
地上を歩かずに空から移動する作戦のようだ。
「大丈夫だと思うけど気を付けろよな。何かあった直ぐに戻って来いよ。」
「心配しないで。私も並みのスキル使いじゃないから。」
やっと出発しようとしたその矢先だった。
「ママ待って、マナも行く。」
「え?姫も?」
窓のサッシに置かれた手をマナは離さないと握る。
「別に止めるなよジャッキー。今までムサい男共と一緒にいたんだ。たまには女同士で羽伸ばすのも大事だろ。」
「あぁ…けど不安でさ。」
エルザの力は認めるがジョーカーに見つかったら生きて戻ってこれるのか正直心配していた。
しかしマナはエルザの顔を見つめて力強く返す。
「絶対大丈夫だよ!だってママ強いし格好いいもん!」
「…そうか…なら…。」
そこまで意気込んだらノーとも言えないとジャッキーは許しを与えてくれた。
「ありがとうねマナちゃん。折角だからマナちゃんの服も新しいの買ってあげるよ。」
「本当!?ママありがとう!大好き~!」
ヨレヨレになったスカートを小さい手がギュウギュウ掴む。
それをよしよしと撫でて返すエルザはもう母親そのものだ。
「じゃあお願いねペガ。」
「プォオオ。」
バサバサッと大きな羽ばたきの音が部屋に響く。
二人を乗せた天馬は大空へと飛んでいった。
それを見送ってケビンは水を飲み干す。
「なんか姫嬉しそうだな。あんなにニコニコしてるの初めてだぜ。」
「…そうだな。」
最初に出会った自分にすら見せた事の無い笑顔。
それはエルザに会ってから表に出すようになっていた。
まるで彼女を本当の母親と認識しているように…。
「ジャッキー見張り頼む。俺汗かいたから風呂入ってくるよ。」
「あぁ。間違っても風呂の中で眠るなよ旦那。」
チェストの上に置こうとペンダントの鎖を摘まむ。
いや、摘まもうとした手が不意に止まった。
マナのあの笑顔が脳裏に浮かんで胸の奥がチクチクしてくる。
《時期的にはまだ早いな。彼女もそのつもりでいるなら…誘うのもアリかもな。》
ふと胸に浮かべた自分の提案。
でもまだ伝えるべきでは無いと仕舞ってそのまま浴室へと向かうのであった…。