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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

転生令嬢は性転換探しに必死です。

作者: 浅月 大

 アリシア=フォン=アーデルハイン。

 この国の王家筋に連なる公爵家の令嬢だ。

 二番目に生まれた子であるアリシアは今年で十四歳。

 蝶よ花よと育てられながらも厳しくも貴族としての教育を施され、このまま行けば国内でも有数の淑女となるであろうと誰もが思う少女。

 絹のような質感の銀髪、愛くるしくもどこか凛々しい顔。

 外見だけではない。教育の成果も無事出ており、品行方正にして学業優秀。

 剣も嗜み魔法も使え、その上双方かなりの腕前もあるとくれば『女が調子に……』と男から顰蹙を買いそうもの。

 だがそれらを全て実力で打ちのめしてきた。


 そんな彼女が男女問わず人気が出るのも当然と言えよう。

 だが浮いた話などはない。

 この年頃になれば婚約者の話題のひとつやふたつ出てもおかしくないが、彼女にはその様な話題が上がった事は無い。

 そしてそれをいい事にここぞとばかりに打って出る学園の男子生徒達。

 だが恋文を送れば丁寧に断られ、愛を囁けばばっさりと両断。

 力づくで、とやらかす者もいたが、即座に返り討ちに会う始末。

 また『お姉さま……』と熱い視線を送る女生徒も多数おり、同性愛(そっち)かと噂されたこともあったが、所詮噂の域を出ることは無かった。


 そんな彼女の日課は授業後、学園の大図書館での読書だ。

 小難しい魔道書から錬金術の知恵、薬の知識などを読みふける。

 一人でいれば声をかける人間もいそうものだが、窓から差し込む夕焼けをバックに映るその姿はそれだけで絵になっていた。

 ゆえに誰も声をかけることが出来ず、いつも遠巻きに見守るしかできないでいた。


 さて、そんなアリシアだが遠巻きで見ている生徒のことなど露知らず、物憂げに本に目を通す。

 そして小さくため息一つ零せばそっとその本を閉じた。


「はぁ、どこかにチ○コ落ちてないかな……」


 他人が聞いたら卒倒しそうなことを呟きつつ、別の本へと手を伸ばす。

 彼女の名誉のためにあえて言うが、別に痴女と言うわけでも変態趣味があるわけでもない。

 至って真面目かつ死活問題でもあった。それこそ人生を賭すぐらいの問題だ。


 話は彼女が生まれる前、前世の記憶へと遡る。





 アリシアは所轄転生者と言うべき存在であった。

 前世での名はアルバート=ブランシュタイン。現在の世界とは似て非なる世界ではとある王国の貴族の次男坊だった。

 家督は長男と言う慣わしの元、彼は兄を補佐するべく剣に魔法に打ち込んできた。

 元々生来より小難しい領地経営より体を動かすのが好きだったため、アルバートはその才能をメキメキと伸ばしていく。

 兄は兄で頭脳労働派であり兄弟仲は良好。両親も子二人に安心して領地を任せれると思っていた。

 しかしここで転機が訪れる。

 隣国である帝国による宣戦布告と越境。

 これに対し王国は他の隣国である国と同盟を組み小国家連合を設立、戦争へと突入していく。

 士官学校にいたアルバートは次男であると言うことで騎士団の一員となった。この時十九歳のことである。

 戦場に駆り出されたアルバートは現実の凄惨さを目の当たりにしながらも戦いを生き抜いていく。


 国のために剣を振るい、

 家族のために魔法を唱え、

 仲間のために命を賭す。


 そして五年も戦いが続き、帝国側が劣勢になって久しいある戦いの日のことだった。

 帝国側が一発逆転のために対攻城魔法を放つことに成功した。

 本来であればそのような魔法は事前に潰されてしまうものだが、十重二十重に隠匿された巨大な魔法は解き放たれることになり、一直線に首脳部が集う王城へと向かう。

 誰もが絶望に顔を歪める中、どこからともなく放たれた別の魔法がそれを打ち砕く。

 攻城魔法すら打ち砕かれるほどの魔法に逆に絶望する帝国兵と、救われたことにより歓喜に沸く小国家連合。

 誰もが手を叩き発射点の場所へ押し寄せたが、そこでは騎士団が沈痛な面持ちで一人の若者を囲み涙を流していた。

 文字通り命を賭け放った魔法は彼の生命力を全て吸い上げた上で成し得た奇跡と言えよう。

 この日、二十四歳と言う若さでアルバートはこの世を去った。





「あれ、俺は……」


 不意に意識が戻りアルバートが目を開ける。

 回りは真っ暗の空間で何も見えない。もしかしたら目がつぶれているのかもしれない。

 そして徐々に思い出す最後の記憶。

 以前より研究していた命を魔力に転換する手法で対消滅魔法を放ったところで記憶が途切れている。


(これは……やっぱ死んでるよな、俺)


 と言うことはここが死後の世界と言うものだろうか。

 まぁ戦争とは言えあれだけ人を殺したのだ。安らかに、とはいかないか。

 しかしどうしたものだろう。このまま成仏といかないのであればずっとこのままなのだろうか。

 などと思っていると不意に変化が訪れた。

 目の前に現れた小さな光。その光が徐々に強く大きくなり人の形へと変化する。

 現れたのは白いローブと同じ色の羽根を生やした女性だった。直感で神々しく思えると言うことは神様なのかもしれない。


「神様……ですか?」


 自らの疑問を口に出すと彼女はにっこりと笑みを返す。


「神様……そうですね。あなた達からしたらその様な存在かもしれませんね」

「で、では国は?! 家族がどうなったか分かりませんか?!」


 護ると誓いを立てていたのに志半ばで倒れてしまうことになった。

 あの後どうなったのか、もし召されるのであればどうしてもそれだけは知っておきたいことであった。


「安心してください、あなたの功績により皆無事ですよ」


 そして語られるあの後の顛末。

 攻城魔法を防がれた帝国はその年の内に無条件降伏をし戦争は終結。

 アルバートは数々の戦場を渡り歩き戦果を挙げ、最後の奇跡の魔法により救国の英雄として讃えられることとなった。

 それによりブランシュタイン家は益々繁栄していくことになる。


「そうですか、良かった……」

「本来ならばあの魔法で多数の死傷者が出るはずでした。しかしあなたはその運命を覆したのです」


 そこで、と女神はひとつ間をおきある提案をしてきた。


「そこで我々からあなたへ一つ提案があります。第二の人生、歩んでみる気はありませんか?」

「新しい人生ですか。それは輪廻転生のような……?」


 こちらの言葉に首を横に振る女神。目を伏せたまま言葉を続ける。


「いえ、今のあなたの記憶や能力をそのまま受け継いだ第二のあなた、です。あなたの歩んだ歴史を見させてもらいましたが、常に誰かのために動いていましたね。次の人生、ゆっくり自分のために生きるのも良いのではないでしょうか」


 確かに誰かのために剣を振るう人生だったのは間違いではない。

 しかしそれは自分の意思でやっていたことである。そこに嘘偽りは無い。

 だが、確かに自分のために生きたと言われれば首を傾げるし、彼女の提案はとても魅力的に思える。

 ただひとつ、どうしてもある疑問が残る。


「どうしてそこまでしていただけるのでしょうか?」

「先ほども申しましたが、本来であれば多数の死傷者が出る惨事だったのです。それを防いだということは我々の仕事の量が減った、と言えば分かりやすいでしょうか。人の身でありながら成し得たその功績における、ささやかなご褒美と受け取っていただいて構いません」


 つまり神々の恩賞と言うことか。

 二度目の人生を自分のために……か。


「わかりました。その話、ありがたくお受けしたいと思います」

「えぇ、喜んで。一応あなたがいた世界と似た世界での転生と言う形になります。何分同じ世界ですと色々不都合が出てきてしまいますので……」

「えぇ、構いませんよ。ご配慮、ありがとうございます」

「その分、ご希望ありましたらお受けいたしますよ。よっぽど変なのでない限りは問題なくできますので」

「希望……ですか」

「えぇ、王族に生まれたい、とか、神童として崇められたい、とか。俗物的な話かもしれませんが、これまで頑張って来たんですし少しぐらい欲張っても大丈夫ですよ」


 次の人生の希望か……。

 思い起こすのは死ぬ前の数年、常に命がけの血なまぐさい世界情勢。

 なら争いごとが無い平和な世界なんて良さそうだ。もしくは前世と似たような家庭環境なんかもいいかもしれない。


「あの、希望は複数でも?」

「えぇ、要求にもよりますが特に制限はないですね」

「では三つほどお願いが。一つは『平和な世界』がいいです。戦後の世界を歩むことは出来ませんでしたので……」

「分かりました。平和な世界、その希望叶えましょう」

「ありがとうございます。二つ目は『裕福』さですね。貴族でも商人でもその当たりはお任せしますが、貧困ですと色々ギスギスするのは目にしてましたので……」

「まぁ下界ではお金は大事な要素ですものね。分かりました」

「それで、その、最後の一つなのですが……」


 うぅ、言うのが恥ずかしい。でも生きてる間にどうしても叶えたくて叶わなかったことが一つだけあった。

 えぇい、一瞬の恥ぐらい捨てろアルバート! 神様だって大抵お見通しなんだから今更だろう!


「その、女、ですかね……」

「女、ですか?」

「えぇ、その。恥ずかしながら生前から、興味自体はあったんですが、中々機会と言うものが……」

「ははぁ、まぁ人間なら異性に興味津々なのは仕方ないですよね」

「えぇ、まぁその、です」


 うぅ、恥ずかしい。何だここれ、神様に直接心の内を吐露するとか何かの罰なんだろうか。

 しかし結局前世では使わずじまいで終わってしまったのだ。健全な男子ならば心残りになるのは当然のことである。


「えぇと、確認ですけど『平和』『裕福』『女』。以上でよろしいですか?」

「えぇ、はい。その、よろしくお願いします……」


 滅茶苦茶俗物的なラインナップだが希望は希望なんだし仕方ない。


「あ、一つだけ留意していただきたいことが。次の身体に魂が定着するまで大体十年ぐらいかかりますので、そこはご了承くださいね」

「あの、それって別の人の魂追い出すとかではないですよね?」

「えぇ、ちゃんと最初からあなたの魂ですよ。ただ器が成長しきるまで時間がかかるんです」


 良かった。さすがに誰かの犠牲の上で成り立った人生など後味が悪すぎる。


「それではこれより転生させます。次の人生、あなたに幸あらんことを……」


 女神が胸の前で腕を組むとその身体から光が溢れてくる。

 そしてその光に包まれるように、ゆっくりと意識が遠のいていった。






 気がついたら知らない天井――ではなく知っている天井だった。

 ベッドから体を起こしあたりを見回すと上質な調度品に囲まれた部屋。これも見覚えが無い――わけではなく、間違いなく自室である。

 これが魂が定着したということなんだろう。今までこの体が歩んできた知識、見聞がそのまま受け継がれている。

 だがまだところどころ靄がかかっているようでイマイチはっきりとしない。

 ベッドから降り立ち上がるといつもより視線が低かった。

 女神は十年ほどかかるといっていたので、おそらくこの体も十歳前後の子どもなのだろう。

 窓に近づき外を見る。そこには屋敷の敷地の庭園の花が美しく咲き誇っていた。


(希望は叶った、ってことで良いよね?)


 外を見る。確かに『平和』な世界だ。

 中を見る。調度類から察するに『裕福』な家庭だ。

 鏡を見る。そこに写るのはほっそりとした愛くるしい『女』だ。


「ってなんでだああああああああ!!!!」


 思わず盛大に叫び両手をベッドに振り下ろし、勢いそのまま突っ伏する。

 発せられる声も歳相応の可愛らしいものであったことが更に心のダメージに拍車をかけた。

 いやいやまてまて。確かに『平和』で『裕福』で『女』だけど何で『女になってる』んだよ!

 あの女神、誤発注もいいところだぞ!

 俺は女と縁がある人生を歩みたかったのに、何が悲しくて女としての人生歩まなきゃならないんだ!


「……ん、ちょっと待て」


 とても、そう、とても嫌な予感に背筋に薄ら寒いものが走る。

 この体……アリシアの記憶が徐々に頭に入り込む。

 それによるとこの家は公爵家、つまり貴族である。そして女神は前世と似た様な世界と言っていた。

 つまり貴族の令嬢ともなれば、数年もしないうちにどこかに嫁がされることになる。

 そしてその事から導き出される結論。


(嘘でしょ、童貞のまま処女散らすとか絶対嫌だ! と言うか男に抱かれるとか無理無理、うぅ、鳥肌が……)


 とてもよろしくない未来絵図に思わず全身にぞわりと寒気が走る。

 まさかゆっくりした人生を過ごすはずだったのに、いきなり一生物のトラブルとか勘弁してほしい。


(どうする、どうする……)


 何もしなければ最悪の結末が待ち構える。

 だがこの体は間違いなく女性。

 結婚適齢期過ぎるまで逃げるか? いや、それでは男として女性といちゃこら出来なく――


「あ、性別変えれば……!」


 無茶苦茶な理論だがこれしかないと思った。

 もちろん方法など知らない。そもそもそんな無茶が出来るかどうかわからない。

 だがこの方法しかない。自分が自分であるためにやらねばならないのだ。

 さもなくば自分の心が間違いなく死ぬ。

 天井のシミを数えている間に終わるような事態になることは断固回避せねばならない。


(時間は……あまりないか)


 記憶によるとこの子、アリシアは現在十歳とちょっと。

 この国の女性適齢期が何歳かまだ知らされてないがそう遠くは無いだろう。

 おそらく十年も無い、数年か……下手したら卒業即入籍なんてこともありえる。


(とにかく時間稼ぎだけでも……両親には言わなきゃダメか)

 

 何せ黙っていたらトントン拍子に縁談がまとまったなんてことになりかねない。

 膳は急げ、出来ることからはじめるべきだ。


「確かこの時間は食堂だったはず……」


 朝食は家族揃って、が決まりのアーデルハイン家である。

 今なら両親が揃っているだろう。

 部屋のドアを開け、一直線へと食堂に向かう。

 途中メイドや執事が寝巻きがどうこう言ってたが全無視だ、それどころではない。

 そして食堂に到着、ドアを開け開口一番高らかに宣言をする。


「お父様! 私、必ず男になります!」


 その瞬間、父は紅茶を噴出し母は卒倒、兄があんぐりと口を開けていた。

 だがこれで自分の意思表示が確かに伝わったであろう。後は理解して貰い前に進むだけである。


 満足げに頷くアリシア。

 だが彼女は知らない。この後家族会議とは名ばかりの盛大な親子喧嘩に発展するということを。

 そしてその性転換の研究にて様々な思惑に巻き込まれることを。





 そして十年後、国をあげた一大プロジェクトの成果が上がる。

 そこには銀髪の美丈夫が研究成果を声高らかに発表していたが、それはまた別のお話。


ちょっと試験的に書きたかったものを短編でやってみました。

あれやりたいこれやりたいとアイデアはあるのですが着地点が見当たらなかったのでひとまずはこれにて……。


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