強くて優しい旅人だが恋愛ができない。
冒険者ギルド。
それは冒険者たちが集り、情報を交換したり、依頼を受けたり、魔物の素材を売ったりするところだ。
冒険者とは、魔法使いや戦士といった傭兵から、実力をもった旅の者まで、冒険者ギルドに加入している、さまざまな者の総称として使われている。
ある国の冒険者ギルドに20代ぐらいの男がやってきた。
名前はベル。
旅の途中で倒した魔物の素材を売りにきたのだ。
「冒険者ギルドにようこそ。ご用件は何でしょうか?」
「魔物の素材を売りにきました。 これがギルドカードです。」
「はい。確認しました。ベル様ですね。では素材の買い取りをするので、奥の部屋へ進んでください。」
ベルはある村の出身で、世界を見て回り、空いた心の穴を埋めるための、放浪の旅をしている。
村を出たベルは自国の首都にある冒険者ギルドに来ていた。
首都に行く途中にある村で、冒険者ギルドに加入し、冒険者になっていたのだ。
ベルはこの国だけではなく他の国にも行く予定だ。
他の国に行くには、お金と身分を証明するものが欲しくなる。
その両方を手に入れるために冒険者になったのだ。
素材の買い取りが終わり、お金を手にする。
ギルドを出るともう日が沈みはじめていた。
ベルは宿を探すことにした。
ベルにとって、宿を利用するのは初めてになる。
自分の村にはもちろん、ここに来る途中によった村にも、宿は無かったのだ。
寝るときは、野宿か、誰かの家の場所を貸してもらう。
人が泊まるためだけに造られた建物を見て、ベルは感動していた。
宿屋で一晩休憩し、気持ちの良い朝を迎えた。
今日は別の国に行く予定だ。
まずは、市場に食料を買いに行く。
市場で食料を買い、この町を出るために門に向かっていると、よく自分の村に来るようになっていた商人と会った。
「えっ!、ベルさんではないですか。こんなところでどうしたんですか?」
彼女に自分が旅に出たことを教えた。
すると彼女は少し驚き、悲しそうな顔をした。
「そうですか、では、行ってしまうのですね。」
ベルは頷き、今までの感謝の気持ちを伝える。
「ベルさん、もう会えないかもしれないので、伝えておきたい事があります。あなたと知り合って、話してるうちに、あなたのことが好きになっていました。もし、良かったら、そばにおいてくれませんか?」
ベルは彼女から好意を持たれていたことに驚いたが、すぐにこの申し出を断った。 理由は言わなかった。
今まで、エルという幼なじみが好きだった。
エルを世界で一番愛していると思っていた。
だけど、数年離れただけで、エルの顔も思い出せなくなった自分に疑問を抱いたのだ。本当に世界で一番愛しているなら、顔も覚えてるはずなのでは?と。自分に自信が無くなっていた。人を愛す自信を無くしていたのだ。
それともう1つ。彼女の申し出を断った理由がある。
それは、 もしかしたら、エルは自分を覚えてるかもしれない。長年旅をしているが、恋人がいないかもしれない。
そういった希望から、ベルは彼女の申し出を断ったのだ。
まだ、エルのことが好きだったから。
「やっぱり、ダメでしたか。実は分かってたんです。ベルさんが断ること。でも、やっぱりきついですね。涙が止まりません。ごめんなさい。私は大丈夫です、どうか、ご無事で。」
そう言って彼女は帰って行った。
止めることはできなかった。
ベルは、なんとも言えない気持ちのまま、この町を出た。
放浪の旅をしようと思っていたが。
目的地を決めた。
目的地は魔族領、エルを探し、想いを伝える。
商人の彼女を見て。エルに自分の気持ちを伝えに行くことにした。
フラれるかもしれない。見たくない現実を見るかもしれない。
でも、伝えるべきだと思った。
だからベルは、魔族領へと足を進めた。
ベルは今、魔族領にいる、自分の国を出てから37日。
ここに来るまでにいろいろな思い出ができた。
勇者はベルの村から魔族まで7日で行くと言っていたが。
ベルは20日掛かったのだ。
きっと寄り道せずに魔族領に向かえば7日、いやそれよりも早く着くことができただろう。
ベルは今までのことを思い出す。
ゴブリンの巣が近くできた村を助けるために、1日かけてゴブリンの巣を壊滅させ。
盗賊に襲われている領主の娘を助け。お礼に一晩ご馳走になったこともあった。
スタンピードもあったし、心の優しい魔族にも会った。
友達もたくさんてきた。
ドラゴンと戦った時は死ぬかと思った。
ドラゴンに力を認められ、龍の里に招待された時は驚いた。
4日もお世話になってしまった。
魔族領についてからは、いつどこで襲われるか分からないので最大限、警戒しながら進んでいた。
魔族領に入ってから3日目のことだった。
魔族の子供が倒れいたので介抱してあげた。
昔、ここの優しい魔族と会った影響だろうか。気づけば介抱していたのだ。
意識を取り戻した子供につれられ村にやってきた。
もちろん全員魔族だ。もし、厄介なことになったらすぐに逃げ出そう。そう思っていたが、結果は大歓迎を受けたのだ。
ここで17日ほど過ごし、そろそろ旅に出る予定だ。
ここでは良い情報を手に入れることができた。
やはり、魔族は悪いやつだけでは無かった。
目指すは魔王城。そこにエルはいるはずだ。
魔王城についた。でかい。
こんなにでかい建物は初めてみた。
魔王城の中に入る。
勇者たちが四天王を倒したおかげか、魔王城には強い者はいなかった。そのおかげで魔王のもとまで直ぐにたどり着くことができた。 やはり魔王と言うだけのことはある、自分でも勝てるかどうかが分からない。
「ほう、勇者たちの仲間か? 見たことがないが。1人でここまで来るとは、なかなかに面白いやつだな。 お前は何を望む。
我と戦いを求めるか、対話を求めるか。」
「そうだな。対話ができるなら対話をしたいが。例え敵では無かったとしても、これほどの強者と戦ってみたい気持ちもある。」
「はっ! やはり!なかなかに面白いやつだったわ! 良いだろう一対一は久しぶりだ、決闘といこうか!」
その後の戦いは丸1日続いた。結果は引き分け。
お互いにボロボロだが、お互いにとどめをさす力も残っていない。
「いやはや、実に良い決闘であったな。」
「流石は魔王、旅をへて、最強になったと思っていたのにな。勇者以外に負けるなんて。」
「面白いことを言うな、お前はすでに勇者より強いぞ。」
「それが本当なら嬉しいが、逆にそうなら勇者では魔王には勝てないことになるから少し悲しいな。」
「お父さーん、 もう勇者帰った? 遊ぼー」
「「…」」
この場に入って来たのは10代前半であろう少女だった。
「魔王、お前、子供がいたのか。」
「まぁな、手を出したら殺すぞ」
「動けない体で良く言う。」
「そうだな。動けないお前に注意しても無駄なことだったな。」
魔王の娘は魔王の姿を見ると急いで駆け寄ってきた。
「お父さん大丈夫!? ひどいよ、お父さんをいじめないで」
「こらこら、ラーナ、お父さんは強い魔王だぞ、いじめられるわけないじゃないか。」
「でもお父さん、痛そう。」
「そうか?割りと楽しい気分なんだがな。」
魔王が普通の家族をやっていた。
「なぁ魔王。」
「なんだ。」
「人間のことをどう思う?」
「さぁな、考えた事もない。だが、お前は面白い。」
「そうか。」
その後は魔王城に少しの間お邪魔することになった。
ベルと魔王はたまに決闘をするのでお互いにどんどん強くなっていった。
時々勇者たちが来るが、だんだんと帰るスピードが早くなってる気がする。
勇者が来ている間、ベルは魔王の娘ラーナと遊んでいる。それと魔王の名前はジークと言うらしい。
「ベル!ベル!肩車して!」
「はいよ。」
「ベル!ベル!おいかけっこしよ!」
「はいよ。」
「ベル!ベル! 私ね!ベルのこと大好きだよ」
「嬉しいな。」
「おい、ベル。うちの娘に好かれすぎではないか。
最近、お父さんと言ってくれなくなったぞ。」
「そういえば、ジーク、いつの間にか勇者たちを追い返してるが、実は僕は、勇者たちに会いたいと思ってるだ。」
勇者たちがやってきた。
久しぶりの再開だ。
魔王とベルがいる部屋の扉が開かれる。
「魔王、今日こそはお前を倒して平和を手に入れてみせる。ん?1人増えてる。新しい幹部か?」
「ベル」
「あー、久しぶりだな、エル」
「もう、会えないかと思った。ベル、久しぶり」
久しぶりに見たエルは、とても綺麗になっていた。
ベルが思っていたよりも、彼女は綺麗になっていたのだ。
「ごめんエル、約束を破ったのは謝る。でも、伝えたいことがあるんだ。」
「うん。大丈夫。私だって早く帰るって約束を破ったんだから。」
ベルとエルの再会で二人は感動しているが、残された魔王と他の勇者メンバーたちは混乱していた。
勇者がベルのことを思い出し、二人の会話に割って入る。
「君はエルと同じ村にいた人だね。こんなところで何をしているだ?」
これに答えたのはベルではなく、魔王だった。
「ベルとは気が合ってな、今は一緒に暮らしている。勇者よ、お前より遥かに面白い奴だぞ。」
「意外だな、魔王。 お前がそんなに楽しそうな顔をするとは。」
今までエルと楽しく会話をしていたベルが、魔王と勇者に提案を出した。
それは、ここにいる全員で食事を取ると言うもの。
もちろんエルを除いた勇者組は大反対。
だが、エルに丸め込まれ、食事をするのとになった。
食事を取った後はベルと魔王による模擬戦、これはベルが住むようになってからの日課になっている。
これを見た勇者メンバーたちは戦意を無くすことになる。
それと同時にベルを見て思った。
『最近魔王が強くなった原因は、こいつか。』と。
数日後。
なぜか勇者が魔王城に泊まるようになった。
今では魔王に稽古をつけてもらっているらしい。
勇者は魔王と仲良くなり、今では親友のようになった。
勇者も魔族との関係には思うところがあったらしい。
なんでも、差別がない、新しい国を造るそうだ。
今のとこ、国王は勇者、王女は聖女の人だ。土地は、魔族領にでき。この国に入りたいと集まったのは150人。まだまだこれからだろう。
ベルとエルは魔族領を抜け、二人で旅に出ることにした。
今度は二人で世界を見てまわることにしたのだ。
だが、運が悪いのか。
エルの足元に魔方陣が現れ、エルが消えてしまった。
召喚魔法だ。
召喚魔法を使うベルは、それが召喚魔法だと理解した。
再会を喜びあい。会話をしたのは良いが、自分の想いをまだ伝えていない。
エルと話して分かったのだ。やはり自分はエルことが大好きだ。
探さなくては。そして、想いを伝えなくては。
ベルは再び、エルに会いに行く旅を始める。
長い旅の始まりだった。
エル視点の短編も書こうと思っています。
いつになるかは分かりませんが読んで頂ければ幸いです。