演劇部事件
時計が丁度四時を指すくらいの頃。テスト期間中であるのにも関わらず探偵部のメンバーたちは部室に集まっていた。基本的にテスト期間中の部活動は認められていないが探偵部のみは例外で認められていた。
探偵部の部室では部員の口論が行われていた。マッセは気まずそうな顔をしながら勉強をしていた。なぜなら内容がマッセの事だからだ。クライヴは意地でも入れたくないという感じでカレンは絶対に入れるといった感じなのだ。アリスはずっと黙って紅茶を飲んでいる。Ⅴ組の生徒が部活動に入ること自体あまりない。理由は差別意識のせいだ。
「とりあえずもう私が決めたんだから入れるの、部長は私でしょ?」
「だからって...」
クライヴの言葉を遮るかの様にドアが勢いよく開く。
「すいません!!」
カレンとクライヴはドアの方に目を向ける。
「とりあえずそこに座ってくれ。」
カレンが空いている椅子を差した。
「チッ」
クライヴは舌打ちをしながら応接間の椅子に腰掛ける。マッセとアリスもカレンとクライヴに続いて座る。
「君はII組のリコじゃない。依頼というのは?」
「はい、テスト明けの演劇で使う道具が壊されていたんです…」
「というと犯行現場は演劇部の部室か?」
「はい、そうです...」
リコは落ち込んでいるのだろうか、ずっと下にうつむきながら話す。
「どうして君は部室に?」
「そ、それは、ちょっと教科書を忘れてしまったので取りに…。」
「ふむ、そうか、とりあえず現場検証をしたいから部室まで案内してくれるか?」
「はい、分かりました。」
そう言うとリコは立ち上がり、案内を始める。
3棟の2階にある部室。3棟は吹奏楽部と演劇部の部室があり吹奏楽部は1階で演劇部は2階にある。階段は廊下を進んだ1番奥の所にしかなく2階と1階を繋ぐ通路はここだけになっていた。
階段では誰かがポスターを貼っていた。テスト期間中なのにご苦労な事だ。
「早く貼り終わらせてよね」
「はい...」
「知り合いなの?リコ?」
「えぇ、演劇部の人です」
部室に入ると思わずマッセがつぶやいた。
「ひどいな…。」
視界に入っているだけでも10数個の小道具は壊されている。中でも1番の被害は舞台の背景に使われているベニヤ板だろう。
「まずは魔法の痕跡からね。アリス、頼んだわ。」
「了解しました。」
彼女が魔力を発すると、部屋を覆った。
「うーん、どうやら目立った魔法の痕跡は無いみたいですね。もっと細かく調べるのでもう少し時間をください。」
「うむ、では私とクライヴは部室内の捜索に取り掛かるわ。マッセは周辺の聞き込みを頼んだわ。」
カレンが役割を分担すると
「あんなやつに任せて平気なのか?」
クライヴはマッセを睨みながら言った。
「大丈夫よ」
場の沈黙をさけるかの様にマッセは黙々と部室を出た。
廊下に出るとまずマッセは考える。
(入口がひとつならばまだこの棟のどこかにいる可能性が高い。)
「よし。」
顎に手を当て、そう言うと向かいにある自習室をノックした。
「失礼します。探偵部のマッセです。向かい側の演劇部の部室で事件があったので少し協力してもらってもいいですか?」
探偵部の証であるバッジを見せながら言う。クライヴには黙っておけと念を押されながらカレンから貰ったものだ。中にいたのは3人。校章から察するにIII組が1人とII組が2人だろうか。
「探偵部?あぁ、あのこの前の事件を解決したV組の…。」
「勉強したいからとっとと済ませてよ。」
「また事件か…。まったく…。」
3人ともぶつくさといいながら教科書を閉じている。やはりⅤ組というだけで何かと言われるがどうやら協力はしてくれるみたいだ。
「それでは1人ずつお名前とクラスと何時にここに入ったのかを」
マッセが言うとまずは女子が口を開く。
「ベル=サクア。III組よ。15:10にはここに来たわ」
「分かりました。ありがとうございます。」
「次は俺でいいか?」
そう言いながら隣を確認し、証言を始めた。
「俺はベスタ=ドロス。II組だ。俺は15:30くらいに自習室に来た。」
「なるほど…。では、次の方お願いします。」
「はい、ドール=シズベット。II組です。私が自習室に来たのは大体15:15くらいだったはずです。」
「ありがとうございました。因みに3人共来た時間を証明できる人物はいますか?」
「そういえば丁度階段でポスターを貼っていた生徒がいたな」
「あっそれ私が来た時にもいたわ」
どうやらあの人に聞けば裏付けはできるらしい。まぁ来た時間を正確にしといた方がいいだろうし行くか。
「あともう1つだけいいでしょうか?」
3人共迷惑そうな顔をしているが何も言ってこない。早く済ませろって事だろう。
「誰かが途中で抜け出したとか分かりますか?」
「いや、誰も正直分かんないんだ勉強に集中してたし席もこれだから」
そう机を指差すとひとつひとつの席の左右と前に仕切りがあった。確かにこれなら確認できない。
「席も3人共バラバラだったので...」
「分かりました。ご協力ありがとうございました」
3人が席に戻ろうとした時に閃いたかのようにもう1つだけ聞く。
「あの...3人共破壊系の魔法は使えますか?」
「はっ?あたりめーじゃねーか、なめてんのか」
「すいません、今度こそありがとうございました」
Ⅲ組から上ともなれば簡単な事なのだろう。
そんな事を考えながら階段の方へ向かう。
階段に着くとまだ作業をしている部員がいた。
校章はⅤ組みのだ。2年じゃ見たことないから3年か?
「あの...すいません探偵部のものなのですが話伺ってもよろしいでしょうか?」
「あっはい」
そこで3人の通った時間を聞いたが時間は何時か分からないが確かに10分おきくらいに3人通ったことは間違いないらしい。
「ありがとございました」
そう言ってこの場を離れて現場に足を向ける。
入ったらまだ現場検証中みたいだった。
「なんか分かった?マッセ」
「一応...自習室に3人共居たけどアリバイなし」
「帰ったってことは考えられないの?」
「いや、ずっと階段でポスターを貼っていたらしいからまずそれはない」
こうなると絞るのは難しい。3人共怪しいけど犯人はその中にいるのだ。
「やっぱりなんの痕もないですわ」
「つまりこれらは犯人が魔法無しで壊したってことか」
魔法無し?自習室の3人共破壊系魔法は使えると言っていた。なぜ使わなかったんだ?
学校が終わったのが3時。報告に来たのは4時。
確かに魔法無しで壊す時間は全員余裕である。
でもどう考えても魔法で壊した方が速い上に見つかる危険性もない。壊されてるこの量から見ても数分で終わる作業とも思えない...
もしかして!!
「カレン、分かったかもしれない」
カレンは不敵な笑みを浮かべる。
「へぇ〜」
「これで終わりだ」
最後の一枚のポスターを貼り終えてそう声をあげ帰ろうとしたとこを呼び止められる。
「すいません探偵部ですが少しお時間よろしいですか?」
「なんだい?まだ聞きたいことがあるのかい?」
「ええ、あなたは破壊系の魔法を使えますか?」
「使えないがそれがどおしたんだ?」
探偵部が顔を見合わせる。
「犯人はあなたですねボルト=デンブラーさん」
「何を言っている?」
少し驚いたような顔つきをして答える。焦っているのだろうか?
「あなたなら犯行はいつでもできる。それにポスターを貼るのに時間かかりすぎじゃあないですか?」
「位置をしっかりと決めてたんだよ」
認める気は無いらしい。
「それに自習室にいた3人っていうのもしっかりと俺が居たって言っているんだろ?なら俺ができるわけないじゃないか」
「Ⅴ組の野郎がなに言い訳かましてるんだよ。」
すごい剣幕でボルトを睨みつける。
「証拠がないのは確かだろ?」
確かにそうだ。どうやって見られたんだ?3人共きっちり。物を壊すの自体20分くらいで終わるだろう。だがその間に階段を通られたら犯行計画が台無しだ。
「もしかしてどっかに敵認識魔法が施されていたのかもしれない。いや、間違いない。それならば説明がいく。入り口の魔法痕を調べて見てくれ」
「はい、わかりました」
アリスが行こうとした所をボルトが止める。
「行かなくても分かりますよ。僕がやったんですから」
「認めるのね」
「はい」
「どうしてこんなこと!??」
演劇部のリコさんが怒りをぶつける。
「あんた達のせいだろうが!!」
ボルトも怒りで返す。いや、積もりに積もった怒りという感じだろうか。
「俺は3年間Ⅴ組なのに部活動を頑張って来た。それなのに前に聞いちゃったんだよ俺には一生役は回ってこないって!!Ⅴ組みだからってな!!だからやったんだよ」
なぜかこっちまで心が痛くなってきた。
演劇部の舞台は探偵部も協力してなんとか直った。しかし舞台に先輩が立つことは無かった。