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ラストフライト


 「仕方ないなぁ、漣太郎くんは」


 笑いながらポンポンと俺の頭を叩くるるセンパイ。


 「ワタシもまだまだ、オトコを見る目が足りないって事かな」


 「そんな!」


 「お二人とも、そろそろ準備はよろしいですかね?」


 ゴンゴンという砲身を外から叩く音と共にモダ砲兵長からの通信が届き、俺とセンパイは器用に座ったまま飛び上がった。


 「こっちじゃ逃げるか逃げないかで賭けが始まる所でしたよ」


 「……その掛け金、俺が無事に槍を刺せるかどうかに回してください」


 「そりゃあ賭けになりませんや隊長」


 イッシッシとモダ砲兵長達の笑いが聞こえてくる。


 「全額お二人に突っ込みますからね、頼ンますよ!」


 「了解!やっちゃって!」


 センパイの掛け声後、即座に足元で爆発が起きた。


 「ぐぅぉぉぉああああああああっ!?」


 「あぁぁぁぁぁいつらぁぁぁぁぁぁ!」


 一瞬で俺たちの乗る『ムラクモ改』は暗い砲身から飛び出し灰色の雲の広がる高空へと舞い上がった。俺達は視界確保用のスリットから入ってきた硝煙で真っ黒になりそれどころではなかったが。


 「ゲホゲホ!まったく、いきなり射出するとか、全員不敬罪で磔にしてやるわ!」


 「今はそれどころじゃ……センパイ、暗黒竜が!」


 山の中から巨大な暗黒竜がほぼその姿を現していた。地面の下にあるのはおそらく尻尾のみ。辺りの山もほぼ崩壊し地面の半分が灼熱のマグマと化している。

 その光景の中、巡洋艦レゴールが大量の煙を吐いて落下しているのが視界に入った。


 「レゴールが!」


 俺たちの準備時間を稼いでくれたのだろう。もう一発の砲弾も矢も発射されない。代わりにあの封印の札を一杯にまき散らしながら離れた山間に墜ちていくのを何もできずに見るしかなかった。


 「ツェリバ達は滅多な事じゃ死にはしないわ!攻撃に集中して、漣太郎くん!!」


 「……わかりました!」


 今は、出来る事をやるしかない。『ムラクモ改』は更に上昇を続け厚い雲を抜けた。目に刺激的なほど鮮やかな青空が広がっている。俺とセンパイは一瞬、思い切り深呼吸をした。


 「降下姿勢に移って!」


 「はい!」


 操縦桿を一気に前に倒しながらペダルをキックする。空中で『ムラクモ改』は脚を後ろに振り上げ姿勢を反転させた。そのまま両腕に切り札の槍を握らせる。


 「行くわ!」


 キュ、ィィィと音を立てて肩のウィングが動く。同時に両脚のスリットから蓄えられた竜気が噴射された。『ムラクモ改』は再び雲に突っ込み更に急加速する。

 風切音がジェット機の轟音の様に響き、『ムラクモ改』の機体が壊れるのではないかと思うほど震える。


 「ね、狙いは付けられるんですか!?」


 「大丈夫!鎧が教えてくれる!!」


 言葉通り、超スピードで雲を突き抜けた俺達の先には禍々しい暗黒竜が待ち構えていた。


 (向こうも気づいてたのか!?)


 竜が大きく咢を開け、その身と同じ黒い火炎を吐く!


 「ンのっ!」


 センパイの怒声。間一髪『ムラクモ改』がスライドするように動く。ギリギリでブレスを避けた『ムラクモ』はそのまま滅茶苦茶なジグザグ軌道に移った。


 「うぉあああああぁっ!?」


 「我慢して!もう少し!!」


 必死にレバーを握り、振り落とされない様に耐える。ブレスを二発、三発とかわしながら、機体は更に俺の体感したことの無いレベルまで加速しながら暗黒竜に迫った。竜の眉間の上、雄々しい二本の角の間を抜け、首の周りをを縫うように降下し胴体に迫る。


 「ここよ、漣太郎くん!」


 「くたばれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!!!」


 グザァッ!!


 首の付け根の鱗の薄い部分に結晶の槍を振り上げ、突き立てる。肉にすっかりと食い込んだ槍は黄金の光を放ちながら勝手にどんどんと体内に突き進んだ。槍は中に埋まっていくのに辺り一面に光が広がり目も開けられないくらい眩しい。暗黒竜が空や大地を引き裂きそうな絶叫を上げる。


 センパイが顔に手をかざしながら呟いた。


 「結晶が竜の心臓を目指しているんだわ……」


 「そんな、槍が勝手に?」


 「リラバティ王家に厳重に保管されていた代物らしいから……跳ぶわよ、漣太郎くん!」


 「!」


 よく事態がわからないまま竜の首を蹴り『ムラクモ改』を離れさせる。暗黒竜は苦悶の叫びを上げながら痛みから逃れようと暴れるが、体内に侵入した槍から出る光が全身を縛るように取り囲んでいた。その光に乗るように、ばらまかれた封印の札が集まってくる。


 「エルノパさんの……」


 「漣太郎くん、あそこ!」


 センパイの指の先、神々しく輝く影。巨大なベゥヘレムと、それに乗った大魔法使いエルノパさんが竜の上空へ接近してきていた。ブタの背中で詠唱を唱える様子はかなりファンシーというかファンキーというかだったがふざけている場合ではない。エルノパさんが必死に大声で詠唱をしているのはここからでも良く見える。


 封印の札はグルグルと高速で竜の周りを飛び交い始めた。札からも光の粒子が放出され、暗黒竜の姿がまるで光る白竜の様にすら見える。やがて巨大な輝く魔法陣がマグマ一帯に浮き上がり、竜に向かいゆっくりと収縮を始めた。それに合わせるかのように暗黒竜もその体も咆哮も少しずつ小さく、小さくなっていく。


 「暗黒竜が……封印される……」


 封印の札と魔方陣が一点に集まる。それは暗黒竜の身体がこの場から失われた事を示していた。


 俺とるるセンパイはまだその事実がちゃんと受け入れられないまま、ベゥヘレムの元へ『ムラクモ改』を飛ばし、前面ハッチを開けた。大きくなったままの神豚様がニヤッと笑う。


 「何とか、賭けに勝った様じゃな」


 「封印は、成功した……と思う」


 ぐったりした声でエルノパさんが言ってその背中に倒れ込む。俺はベゥヘレムから『ムラクモ改』の手に彼女を受け取り、それからセンパイと涙を流しながら強く抱きしめあった。


 「ありがと、ありがと、漣太郎くん……」


 「センパイも、お疲れ様でした」


 「……名前」


 「……お疲れ様、留美」


 多分俺の顔は真っ赤になっていただろう。これからずっと名前を呼ぶ度に俺の顔は赤くなるのだろうか。いつかは慣れてしまい何の気無しに呼んでしまう日が来るのだろうか。


 『ムラクモ改』はゆっくりと地上に向けて落下し始めた。地上からはレゴールを脱出したチェリバ達の歓声が聞こえてきた。


 


ここで本作はほぼ完結となります。あと1話エピローグを用意しておりますが、多忙につき数週間ほど時間が空くかと思われます。申し訳ございません。

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