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最後の策


 「なんて……常識外の大きさだ……」


 普段は冷静沈着なテステッサが呆然と呻く。無理もない。現れた暗黒竜は先ほど崩れたベリアの城の倍も大きい。翼は持たないが首だけで100mくらいはあるように見える。とても生身の人間が剣で切りかかるような相手ではなかった。


 「あんなの、本当に昔の人々が封印できたんですか?」


 「封印されている間に成長したんじゃないの?」


 俺の質問に呑気な……というより、半ば匙を投げるように答えるるるセンパイ。


 「そんなまったりしてる場合じゃ……どうやっつけるんです、アレ?」


 「まぁ一応、策は用意してあるんだけど……あんなにデカいとは思わなかったから通用するかどうか……」


 「策があるんですか!?」


 俺だけじゃなくツェリバ隊長やテステッサ、周りの騎士たちが満身創痍のセンパイに詰め寄る。


 「ちょ、ちょっと!そんな押しかけないでよ!一応、通用すればいいなってくらいで、やっつけられなくてもワタシの責任じゃないからね!」


 そんな問答をやっているうちに山から上半身を這い出させた暗黒竜が咆哮を上げながらあちこちに真っ黒なブレス炎を吐き始めた。命中した山は一瞬で丸ごとマグマと化しドロドロに溶けて裾野に流れてゆく。あっという間に4つくらいの山が消えて無くなってしまった。


 「おいおいヤベぇぞ!」


 「と、とにかく撤退だ!ブレスの届かない所まで撤退!」


 あんなモノを食らったらこの艦は乗組員全員ごと即蒸発してしまう。巡洋艦レゴールは慌てて空域から後退を始めた。騎士団全員が重い鎧や武器を投げ捨てて艦を軽くしたお陰でそこそこスピードを出すことができた。少しずつ遠ざかっていく暗黒竜の巨体を、全員が忌々しい、または恐れの目で見つめている。


 「今はまだ山に半身が埋まっているけど……アレが出てきたら本気でこの大陸が火の海になるわね」


 「どのくらいで出てくるんでしょう?」


 「わからないわ……でもそう猶予は無いでしょうね。ヘタしたら明日にでも……」


 センパイは苦々しげに言いながら暗黒竜とは逆の舳先の方を向くと、今度は目を大きく見開いた。


 「来た!」


 「来た?」


 俺はセンパイと同じ方角、南側の空を向いた。そこには曇天の中何かを吊り下げている、大きな空飛ぶブタの姿があった。










 「全く、神に運び屋をやらせるとはつくづく罰当たりな人間どもじゃわい」


 グチりながら元の大きさに戻ったベゥヘレムがレゴールの甲板に下りる。その背中には魔法使いのエルノパさん、そして高司祭のパレィーアさん、ボッズ師が乗っていた。そしてベゥヘレムが巨大化して持ってきた物。


 「これは……『ムラクモ』ですか!?」


 それは間違いなくかつての愛機『ムラクモ』だった。シルエットは大きく変わっているがあちこちに面影がある。


 「そうじゃ、姫様……いや、ルミ様の指示で改造を進めておった。ようやく完成したので持ってきたのじゃ」


 「改造?」


 ボッズ師の言葉に改めて『ムラクモ』を見る。確かに前と大きく違う。手に持っているのは黄金色に輝くクリスタルの穂先を持つ長大な槍。反対の左手には鏡のように磨かれた銀色の盾。前よりも厚みの増した装甲。両脚に追加されたタンクと排気穴。そして両肩から伸びる、ドラゴンに似た特徴的な形の可動翼……。


 「これは、まるで……」


 「そう、竜纏鎧よ」


 パレィーア司祭に傷を治してもらったセンパイが俺の所へ来て満足そうな顔を見せた。それからボッズ師に向けて深く礼をする。


 「ありがとうございますボッズ師。これが勝利の鍵になるかもしれません」


 「なに、ワシのほうこそ人生最後の大仕事をさせてもらった。もうこれで悔いはない」


 「まだまだ、リラバティ再建にはもっと働いてもらわないと」


 「勘弁してくれ、それは若い衆の仕事じゃ」


 カッカッカッと笑うボッズ師。俺はハッチを開いて操縦席を覗いてみた。計器やレバーの配置は前とあまり変わっていない。変わっているのは、シートが二人乗れるような大きなものになっているくらいだ。


 「るるセンパイ、これはいったい?」


 「見ての通り、『ムラクモ』竜姫士タイプよ」


 センパイも俺の隣に来てパンパンと『ムラクモ』の装甲を叩く。


 「竜を倒すのは竜纏鎧を着た竜姫士の役目……でもいつか、竜姫士の力では倒し切れない竜が出るような気がしていたわ。暗黒竜の話を聞いた時にそれは確信できた。だから竜槍術を使える『アルム』があれば、と思ってボッズ師に改造を依頼したの」


 「やっぱり……この翼で飛びながら竜槍術を使うんですか。でも誰が操縦するんです?」


 「『ムラクモ』の操縦者は漣太郎くんに決まってるじゃない」


 まさかというか、やっぱりというか、とにかくすんなり受け入れがたい事を言うるるセンパイ。


 「む、ムチャでしょセンパイ!だって俺、竜槍術使えないし、そもそもこの翼動かせませんよ!」


 「そこは大丈夫。ワタシが一緒に乗ってジャンプのコントロールをしてあげるから」


 るるセンパイはそう言うと頭にかぶったままのゲゥヴェルの鎧の冠を指差して見せた。『ムラクモ』の両肩の大きな翼がぐるぐると回転をする。


 「漣太郎くんは直前になったら、エイッって槍を刺すだけのお仕事よ。この穂先のクリスタルは竜の苦手な気を放つとかいう由緒ある鉱石で、リラバティ城の地下にあったものを掘り起こして来てもらったの」


 「そんな簡単に……大体、どうやって空までジャンプするんですか。タンクに竜気が入ってるみたいですけど、絶対量が足りないですよコレ」


 「アヴィオールの超大型砲があるでしょ。アレでポーンって」


 「…………」


 「まったく地球人はたまにとんでもない事を考えるもんじゃい」


 驚きでツッコミも入れられなくなっている俺の気持ちをベゥヘレムが代弁してくれた(地球人全員がセンパイみたいな風に思われるのは遺憾であるが)。ツェリバ隊長たちも呆れてポカンとしてしまっている。 


 「さぁ!みんな、最後のひと踏ん張りよ!」 

 

 

 

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