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王族の血


 ベリアが手に持つ槍を振り上げ漆黒の火の雨を降らせる。小さな炎だが数が多く間を縫って逃げる事も出来ない。センパイの体が、竜纏鎧が焼かれ甲高い悲鳴が広間に響き渡った。


 「キャアアアアアア!」


 「センパイ!」


 膝をつくセンパイの前に悠然とベリアが降り立つ。その貫禄は、確かに王者に相応しい物だった。


 「紛い物の王家に誑かされなければ、貴様もこんな目に遭わずに済んだろうに」


 「ワタシは……後悔なんかないわ……!」


 「ほう?」


 意外だな、と言わんばかりのベリアを睨みながら、苦しそうに立ち上がるるるセンパイ。


 「これは……ワタシの決めた事だもの。どんな目に遭っても、迷いも後悔も無いわ!アンタ達こそ何よ、聞いていればこんな山の中で何百年も昔の恨み辛みをそのまま引きずって……今生きている人、これから生まれる子供には関係の無い事じゃない。絶対に暗黒竜なんか復活させない……!!」


 「できるのかその体で」


 ブゥッ!空を斬る音と共にベリアの長槍がセンパイに襲い掛かる。間一髪センパイはゲゥヴェルの槍で受け止めるも、槍ごと吹っ飛ばされてしまう。


 「貴様も仮に王を名乗った者なら、力無しに志を語るな」


 「まだ負けてない!」


 センパイは強く吠えると再び飛び上がった。だが、ベリアは冷静にるるセンパイに槍を向けると穂先に巨大な火炎を生み出す。火炎はどんどんと大きくなり、まるで太陽のように熱く膨れ上がっていく。あんなモノが直撃すればセンパイの骨も残らないかもしれない。しかし邪魔をしようにも愛銃ロプノールは『アルム』の中で一緒に焼けてしまった。


 「センパイ、逃げて!」


 「もう、遅い」


 感情の無い一声と共に超巨大火球が発射された。3メートルはあろうかと言うその業火の塊は上昇するセンパイを追い加速し始めた。相当に力を消耗したベリアが片膝をつくも、その口元に邪悪な笑みが浮かぶ。


 (勝ちを確信している……!)


 俺が絶望で言葉を失う中、俺の背後で叫ぶ少女の声が聞こえた。


 「『翠の陣渦』よ!」


 ゴォウ!と突風が吹いた。風は渦となり竜巻に姿を変えて大広間すべての空気を巻き上げながら火球を追う。


 「ミティ!」


 振り返った俺の後ろでウヴェンドスの槍を構えていたのは、傷つきながらもついてきたミティだった。必死に両手で暴れる槍を抑えながら竜石の力を開放している。


 「ルミ様、ごめんなさい!」


 竜巻が火球の軌道を逸らし、ぶつかった柱が熱と暴風でバラバラに砕け消滅した。それを見届けたミティもまた力を使い切り倒れる。慌ててそれを支える俺とミティを、ベリアが憤怒の形相で睨みつけた。


 「この無象どもが……!!」


 「アンタの相手はこっちよ!」


 広間の天井いっぱいまで上昇したセンパイが槍を構えた。


 バリ……バリバリッ!


 呪文と共にセンパイの周囲に電流が走り始め、それら一本一本がるるセンパイの竜纏鎧に吸収されセンパイの全身が激しく発光する。


 「あれは……」


 ゲゥヴェルの鎧の竜槍術・最大奥義『極光迅』。発生させた雷を自身に集め速度と破壊力を何倍にも引き上げるが、鎧を着ている使用者にも激しいダメージが残る相打ち覚悟の危険な技だ。


 「センパイ!!」


 俺の声にるるセンパイは苦しそうにしながらも笑った。ベリアの笑みとは違う、優しく包み込むような愛情のある微笑みだった。それからキッと眼下のベリアを睨みつけると、鎧の各部から一気にプラズマを放出しセンパイが落下を始める。センパイの姿が眩い流星となってジグザグに空を裂きながら飛翔した。


 「クッ!」


 破れかぶれに飛び上がるベリア。しかしその動きを光と化したセンパイは逃さなかった。


 「うぁああああああああっ!」


 雄叫びと共に光が突き刺さる。槍を細い腹に突き刺されたベリアは無言で落下してきた。るるセンパイも力を使い果たし、石畳にぐったりとへたり込む。


 「……こ、こんな事が……我が一族の悲願……ここで……」


 目の焦点を失い血を吐きながら喘いでいるベリア。駆け寄った俺はセンパイに肩を貸しその前まで連れて行った。全力を使い果たしたのだろう、るるセンパイは息を切らしながら、しかし悲しそうな目で倒れて血を流すベリアを見つめる。


 「同じ血を引く人間を……こんな風に殺してしまうなんてね」


 「運命とは因果な物だな……しかし、感傷に浸っている場合か?」


 喘いでいたベリアが悪魔の表情になる。ぐっ、と腹に刺さっている槍を握ると、それを引き抜き下半身を血で染めた。


 「なっ、何をっ!?」


 「忘れたのか?最後の封印は“リラバティ王族の血”で解かれる……」


 「!!」


 魔法陣にベリアの血が染み込み、赤黒く光り始める。


 (コイツの血で、暗黒竜が復活するのか!?)


 「読みが甘かったな!真なるリラバティは今こそ復活するのだ。この大陸全ての人間を滅ぼしてな!」


 激しい地響きと共に広間が、いや城全体が崩れ始める。高笑いを上げるベリアを背に俺はセンパイを抱き上げて騎士団と撤退を始めた。

 

 




 


  



 巡洋艦レゴールの上で俺やるるセンパイ、騎士団のみんなが疲れ切った顔で山の中に崩れる城を見つめていた。冷たい乾ききった風が吹きすさぶ音と飛空挺のプロペラ音、そして山そのものが地響きを立てて震えている音……生気の無重苦しい雰囲気が広がっている。


 丁度レゴールの真下には座礁した戦艦アヴィオールが傾いていた。ほぼ兵装に傷は無く超大型主砲も健在だが、騎士団を揚陸させた時に底面に激しく攻撃を受け再浮上できなくなってしまった。もう一隻の巡洋艦カノプスもワイバーンの猛攻を受け先にティディットへ待避している。


 疲労しきったミティを始め、重傷を受けた兵士たちでレゴールのベッドはすぐ埋まってしまった。アヴィオールが使えればもっと楽に撤退が出来たのだが。


 「ひとまずこれで落ち着いた……ってわけにはならないのよね」


 疲れ切った顔でウンザリと言い捨てるるるセンパイ。ツェリバ隊長も疲労の溜まった顔で進言する。


 「一旦退きましょう。今これ以上戦える兵士はいません」


 「同意ね。でも敵が出てくるなら一度は見ておかないと……」


 「そんなにすぐに出てこられても困るのですがね」


 皮肉を言うツェリバ隊長に全員が苦笑いする。その時、地響きが数倍に大きくなった。大きな山々がブレて見えるくらい揺れ始めている。


 「お出ましか……!?」


 ベリアの墓標となった崩壊した城がゴッソリと崩落した。周りの山々もその穴に飲み込まれ、代わりにその中からもうもうとドス黒い煙と火の粉が舞いあがり始める。これが地球なら火山の噴火だと思ったろうが、それは噴火以上にタチの悪い出来事の前触れだった。


 グゥオオオオオオ……!!


 鼓膜を破るような竜の雄叫び。真っ黒な穴の中から同じくらい黒い鱗を身に纏う巨大なドラゴンが、ついに山を割って現れた。



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