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漆黒の姫君


 「流石にラストダンジョン、って感じするわね……」


 「セーブポイントとか欲しいですよね……」


 想像はしていたが、城の奥に進むにつれ戦闘は激しくなるばかりだった。巨大なボーンゴーレムに重装備のドラゴレッグ警護隊、双頭を持ち激しいブレスを吐く竜に暗黒魔法を使う黒づくめ司祭等など。こちらの騎士団や『アルム』も少しずつ負傷故障で脱落が続き、気が付けば半数以下となってしまっている。ミティは先刻のレッドドラゴンとの戦いでかなりのケガを負いるるセンパイも激闘続きで息が切れてしまっていた。


 (せめてエルノパさんがいれば)


 あの強大な魔法を操る彼女がいてくれれば少しは楽に進めたのかもしれないが、エルノパさんはるるセンパイの依頼でティディットの街に残っていた。無いものねだりをしていても仕方ない。俺だけとなった『アルム』が盾となりるるセンパイや騎士団の道を切り開いていく。


 群がってくる真っ赤な鱗のドラゴレッグ(エリート部隊だろう。相当にタフで強い)隊を全員で何とか下し、王宮の中を血で染め上げながら進むと豪華な装飾のされた柱の並ぶ広間にたどり着いた。だがその空間には生き物の気配が感じられない。いかにも守備隊が守っていそうな所なのだが。


目を凝らすと暗い広間の床には大きな円がいくつも描かれていた。その周囲には禍々しい文字も並んでいる。ろくでもない儀式に使うのは間違いないだろう。


 「誰も……いない?」


 「いや、いるわ」


 センパイの槍が指し示す。赤黒い絨毯の敷かれた先、大きな階段の上に金の装飾を施した玉座があった。そこに静かに一人の華奢な人物が座っている。暗くて顔立ちなどはわからないがフードをかぶり、黒いマントに身を包んだその姿は子供のようだ。


 「まさか、我が竜の軍勢がここまで斃されようとはな……」


 女の声だ。ゆらぁ、と立ち上がり、反射的に武器を構える俺達に女は片手を向けた。彼女の放つ強力なプレッシャーがあろうことか歴戦の騎士団の動きすら止める。


 「せっかくだ、“歴史”を語ってやろう」


 「“歴史”……?」


 傍らにあった槍を杖のように持ち、女はゆっくりと階段を下りながら語り始めた。


 「我が名はベリア。ベリア・グェン・デルフィオレ……リラバティ」


 「!!?」


 女の名乗った名前に衝撃が走る。全員が自分の耳を疑ったに違いない。しかしこの女は間違いなく……リラバティの名を口にした。槍を構えなおしたセンパイが叫ぶように問いただす。


 「ふざけたことを言うなら、話し終わる前に串刺しになるわよ」


 「リラバティは元々この山の中に建国された小さな国……私の祖先、そしてあの小娘やお前の祖先が作った……な」


 「な、何を……」


次々と俺たちの予想を超える話をする女。うろたえるこちらの姿を見てフードの奥の口元がニヤリと白い歯を見せた。


「信じられぬのも無理はなかろうが……これではどうだ?」


女はおもむろにフードを脱いだ。その中から出てきた顔は、正に……。


「る、るるセンパイ……!?」


青い肌、赤い瞳、銀色に近い金髪と色の違いはあるものの、その小悪魔じみた表情はるるセンパイに、そしてリラバティ国王ルルリアーナ王女に瓜二つであった。絶句する俺たちの前でベリアと名乗った女が話を続ける。


「リラバティは元々竜と共存する国であった。そのためにこのような険しい山の中にあったわけだが、ある日民の間に異変が起きた」


「異変……」


「人の肌が鱗に変化する病……竜の強い気に影響されたためだ。病が進めば肌だけではなく全身が竜の姿に似通ってくる」


(ドラゴレッグか)


俺たちが何度も戦ってきたあの異形の生物は元々人間であったのか。


「それを忌み嫌い国を離れようとする一派が出始めた。何度も話し合いが持たれたようだが結局は民の半数以上が山を離れ麓に国を作った。時は流れ離反の民はあろうことか竜を拒絶し他の人間達の国と手を組み、竜の生活圏の拡大を阻止し始めた。我が祖先は困窮し不干渉条約の締結を望んだが会談は決裂。祖を同じくするもの同士が殺しあう戦争が始まった」


「そんな……」


るるセンパイは困惑し戦意を失いつつある。

  

 「我らは祖の大黒竜を筆頭に戦いを続けたが、離反の民どもは魔術を弄して大黒竜を封じおった。以来、我々はこのような過酷な地に潜み力を蓄えてきたのだが……ようやく復活の時は来た!あの小娘は逃がしてしまったが、同じ血を引くお前を儀式の生贄にしてくれる。地球などから来てここまで首を突っ込んだ愚かさを悔いるがいい!」


 そう言うとベリアはマントを脱ぎ捨てた。その中にあったのは漆黒の骨のようなシルエットを持つ竜纏鎧。驚く暇も与えずベリアは槍を振り上げ呪文を唱えた。


 ギャオゥッ!


 獣の咆哮にも似た異音が鳴り響き、槍の先端から黒い火球が3、4つ飛び出してくる。センパイを狙う火球の前に俺は反射的に『アルム』を飛び出させた。


 「漣太郎くん!?」


 「うぉああああっ!?」


 ボン!ボボンッ!と爆音が弾け、『アルム』の手足が簡単に吹き飛ぶ!内部機関まで火に焼かれ、俺は慌てて操縦席から抜け出した。少し髪や服が焦げてしまった俺の体を、るるセンパイがベシベシと叩いて消火してくれる。


 「痛い、痛いですセンパイ」


 「なんでこんなムチャするの!」


 何とか大事に至らずに済んだが、俺の『アルム』はもうガラクタ同然だった。最新型の『アルム』をこうも簡単に壊してしまうような相手では、騎士団が何人いても太刀打ちできない……。


 そんな事を考える俺の横でセンパイがスッと立ち上がった。


 「みんな、下がっていて」


 「センパイ!?」


 「ルミ様!?」


 驚く俺達の前に、力強く腕を伸ばし制するるるセンパイ。


 「ワタシの血縁の問題なら……コレはワタシがカタをつけるのが運命って奴よね」


 「でも、一人じゃ!」


 「下がって!」


 ベリアが再び放った火球をるるセンパイが稲妻で撃ち落とす。続けてるるセンパイは高く飛び上がった。広間の天井は異常に高く、竜槍術は問題無く使える。


 「『白烈の牙』よ!」


 高空から何本もの雷を降らせ、更にそれらに混じり竜槍術で自らも突撃するセンパイ。ゲゥヴェルの鎧はセンパイでも扱いが難しいほど加速が早い。正に雷のようにベリアに向けて飛び込んでいく。だが。


 「甘いな」


 (!?)


 しかしベリアはそれ以上の速度でセンパイの攻撃をすべて避けきって見せた。竜の骨をそのまま纏っているようなベリアの鎧は、防御力と言うものをまるで持っていないようだがそれ以上の戦闘能力を持っているようだ。


 「竜槍術は元々竜と“共に”戦う我らが先祖の技!裏切り者が継承した紛い物なぞ通用するものか!」


 「なにが!」


 上昇したベリアとるるセンパイの槍が交錯し激しい火花が散る。黒い炎と白い雷が嵐のように辺りの壁を、柱を、床を焼き穴を空けた。


 「こんな暗い所で、人を憎んで引きこもっていたような連中なんかに!」


 接近しながら雷撃を連射するセンパイ。その連射スピードはベリアの火球のそれを上回っている。しかしベリアの青い肌に突き刺さろうとした雷撃は直前でバリアのような黒い障壁に弾かれてしまった。


 「フッ、数さえ撃てばいいといものでもあるまい」 


 ベリアがセンパイ以上の加速で接近し槍を打ち付け、更に鋭い蹴りを放つ!


 「グゥッ!」


 脇腹に一撃を受けたセンパイが石畳に叩きつけられる。追い打ちで放たれた火球からは何とか逃げ切ったものの、更に苛烈に続けられる攻撃の前にるるセンパイは防戦一方になってしまった。


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