城門攻防戦
ドゴォォォォォォン……。
山々に反響しどこまでも響き渡る轟音。戦艦アヴィオールに搭載された超々大口径の大砲が火を吹き、敵の城壁を直撃し地震のごとく揺らした。その砲弾の大きさ、実に直径4mほど。あまりに重く砲弾も1発しか持ってこられなかったというロマン溢れる攻城兵器だ。
そして、巡洋艦レゴールが先行し敵陣に肉薄していく。
「行け、我が誇りあるゴーレム達よ!」
ネイ士の声がが簡易無線機の向こうから届いた。レゴールから光る小さなカードがばらまかれたかと思うと、それぞれが巨大な魔法陣を描き大型ロックゴーレムを次々と呼び出す。ゴーレムはそれぞれ不規則な軌道を描いて地上へ落下していった。
グォォォォォォン。
唸りを上げながら着地した総勢50のゴーレムは地上展開するドラゴレッグ達を蹴散らしながら半壊した城の門へ突撃する。強固な石壁に殴りかかったり体当たりし城門や壁をさらに破壊していった。
「すげぇ……」
ケイスンがごくりと唾を飲んだ。俺もそのダイナミックな光景に目を奪われる。上空のワイバーン達がいなければこのゴーレムだけで城を落とす事も不可能ではないだろう。
(ネイ士恐るべし、だな)
俺は全員の気合を入れ直すためにも、厳しい声で通信器のマイクに向かった。
「見とれてる場合じゃないぞケイスン。突入口が開いたらケイスンの第一部隊から出撃だ」
「は、はい!各機最終確認!」
急遽指揮官任務を与えられたケイスンが慌てて指示を出す。前衛の第一部隊がケイスン、銃で支援する第二部隊が俺の指揮だ。この数日間で俺と共にツェリバ隊長やテステッサから指揮のなんたるかのレクチャーを受けたが、正直な所二人とも付け焼刃で自信が無い。シンプルな突撃と撤退だけをやるのが精いっぱいだ。
上空から見た限り城全体に屋根が張られ正門の中がどうなっているかは分からない。特に中央部から後ろはすっかり山に埋まっている形で、もしかしたら後ろの山の中が丸々ドでかい要塞になっている恐れもある。
(敵の親玉がそんな奥にいないでいてくれると助かるけど……)
「ゴーレムが門を突破したぞ!」
見張りの声が響く。城門付近にはドラゴレッグの死体が山となっていた。一方でネイ士のゴーレムも何体か破壊され行動不能となっている。残りのゴーレムは門に開いた穴を広げ中になだれ込んでいった。敵の迎撃準備が整う前に俺達も進撃しないと。
「よし、『アルム』第一・第二部隊出撃用意!カノプスは回頭後、低空飛行に入ってください!」
俺の指示で巡洋艦カノプスが高度を下げる。斜めになる艦の中で俺達は必死に『アルム』を転ばせないよう踏ん張った。そこにレゴールのネイ士から通信が入る。
「レンタロー殿!ゴーレム達は自己判断で動いています。中で敵と見なされれば『アルム』にも襲い掛かりますので注意して下さい!」
「了解しました!各機発進!」
カノプスの船腹が開いた。高度10メートルくらいの所から順番に飛び降りていくのだが、なかなかに勇気がいる。
「ケイスン、行きます!続いて下さい!」
さすが騎士見習い。ケイスンが先陣を切って艦から飛び出していった。続けてハーシャさんの『ラヴージ』。若いケイスン達に負けじと残りの操縦士たちも後に続き、結局ビビっている俺が一番最後になってしまった。
「まったく、これじゃカッコつかないな!」
腹を括ってペダルを踏み『アルム』を飛び出させた。移動する飛空挺から降下し無事着地するのは高度な操縦技術を要求される。案の定俺より前に出た連中の内3機が地面に転がっていた。
(やれるか!?)
着地寸前にダンパー圧をおもいっきり抜き、足首と膝でショックを吸収する。そのまま両手を地面に着きなんとか俺は無事に着地を決めた。
「流石です、レンタローさん!」
「こんなんで誉めるなよ。第一部隊はゴーレムに続き内部を掃討!第二部隊は突入する騎士達の援護だ!」
「了解!行くよ、『ラヴージ』!」
全員の無事を確認し城門に前進する。生き残りのドラゴレッグを倒しながら空を見ると、バリスタで対空戦闘をしながら戦艦アヴィオールも低空飛行に入りつつあった。あの船は完全に着底し騎士たちを下ろすため、ワイバーンに狙われおそらくもう飛び上がれまい。船員達は安全な所へ身を隠し最後にカノプスとレゴールが回収する手はずになっている。
俺は第二部隊を少し開けたところに展開させるとアヴィオールに合図の信号弾を上げた。あの戦艦が降りられるのはここしかない。アヴィオールが帆をいっぱいに張りブレーキを掛けながら降下する。
ズゥゥゥゥン……。
戦艦の巨体が津波の様な砂埃を舞い上げて着底した。同時に船体の前が開き騎士たちが雄叫びを上げながら飛び出してくる。全リラバティ騎士団とリド公国の深緑騎士団、総勢百人以上の大部隊だ。ワイバーンに襲われないよう第二部隊の二人と共に銃で対空射撃を行う。ワイバーンの数もかなり減ってきた。本拠地とは言え敵の戦力も無限では無いという事だ。
騎士たちと共に暗い城内に飛び込む。中はドラゴレッグの居城にしては意外なほど装飾や灯りが充実しているが、ゴーレム達が大暴れしたせいで無残な姿に変わり果てていた。あちこちでハンマーや長斧を持ったドラゴレッグとゴーレムとの激闘が繰り広げられている。中には小型の地竜を繋いだ戦車で体当たりを仕掛ける奴もいたが、依然ロックゴーレムの方が優勢を保っていた。
(あくまで“今は”、だけどな)
俺は城内に入ったツェリバ隊長に向かって拡声器で話しかけた。
「ゴーレムに近付き過ぎないでください!敵に間違われます!」
「了解した、コイツらにはここで敵を引き付けておいてもらおう。騎士団は中央階段から奥へ進め!ケイスン、第一部隊も一緒に来てくれ!」
「了解です!」
確かにゴーレムにはここで足止めをしてもらった方がいいだろう。第二部隊も騎士団を銃で援護しつつその後を追い始めた。




