集結する戦士たち
ゾラステアの高級ホテルにて俺たちは一夜を明かすことになった。金が無くて野宿を覚悟していたというハーシャさんもどさくさで一緒にチェックインしている。
コーザス・デ・ベレルソン1世と名乗るその伯爵というのは、このゾラステアの一番偉い人らしい。その伯爵とセンパイ達が竜討伐について話し合っていたらしいのだが、そこにグリーンドラゴンが来襲し、それを俺たちが撃退したことで伯爵は大変感激したそうだ。
「お陰で交渉が楽になったわ。ありがとうね、漣太郎くん」
「はぁ、そりゃ何よりですが」
伯爵共々襲われておきながら気楽そうに笑うるるセンパイから俺は一枚の紙を受け取った。今回の話し合いでリラバティに渡される支援物資の目録だ。それを一読して俺は目が飛び出そうになった。
「装甲空中戦艦1、空中巡洋艦2、砲42基、砲弾760発、対空バリスタ50基、『アルム』4機に操縦士……ホントにこんなにくれるんですか?」
「おまけに開発中の超大型砲も内緒でくれるらしいわ」
「なんで見返りも無くそこまで……?確かにこのゾラステアも竜に襲われているみたいですけど」
夕食のハムを食べながら俺は訊ねた。塩の他に香辛料が効いていてとても美味い。さすが高級ホテルだ。
「見返りは当然あるわ。伯爵を今回の竜討伐の総司令にしろって」
「はぁ?」
話が読めず間抜けな声を出してしまった。るるセンパイの隣のグレッソン大臣が話を続ける。
「とは言っても別に前線で指揮を執りたいとかそういうわけではなく、この竜討伐の栄誉を自分の物にしたいのだそうで」
「なんでです?」
「歴史の浅い国は、そういうものを欲しがるものなのよ漣太郎くん」
したり顔でそう言いながらワインを飲み干すセンパイ。わかったようなわからないような言葉を飲み込みつつ、俺は大臣にも訊ねた。
「リラバティ王家はそれでいいんですか?」
「まぁ面白くは無いですが、この際仕方ありますまい。姫様も了承して下さるでしょう」
名より実を取る国だとは思っていたが、リラバティはいろいろとドライ過ぎる気がする。と、俺の横からパスタとサラダをモリモリ食っていたハーシャさんが会話に混ざってきた。
「私も参戦するよ。報酬は出るんだろう?」
「ゾラステアから出ると思うけど、楽な戦いでは無いわよ?」
「いいさ、『アルム』乗りは戦わなきゃ食っていけないんだから」
な、と俺にウィンクするハーシャさん。ともあれ、思った以上の戦力を確保できそうだ。
「装甲戦艦の艤装はここの職人がやってくれるそうだから、私達は作戦立案に集中しなくちゃね」
「まだまだ休む暇も無いって事ですね」
ティディットに帰還した俺たちはテステッサともう一人懐かしい人物に再開した。
「お久しぶりですお二方」
「ネイ士、お元気そうでなによりです」
ゴーレム術師のネイ士が参戦してくれる事になったらしい。あのゴーレムが味方に付くのは心強い事だ。
「しかしネイ士、我々は飛行艇で空からの突入になります。ゴーレムは山をひたすら歩かせるのですか?」
「フッフッフ、この私に抜かりは無いのです」
ネイ士は懐から自慢げに何か取り出して見せた。5枚の透明な板……何かの幾何学模様の刻まれたカードのようなものだ。
「これはマナ・カード。中に大きなものを魔法で圧縮して携帯できる魔導具です。このカード1枚に私のゴーレムが10体ずつ入っています」
「つまり全部で50体って事ですか?凄いですね」
センパイが感心したようにはー、とため息を漏らす。この人はネイ士の事は結構尊敬しているフシがある。
「このゴーレム部隊を低空飛行からばらまけば一気に敵の城を落とす事は容易なものでしょう。なにせ我が改良型ゴーレムは1体で10騎士分の戦闘力、つまりはここに500の騎士がいるわけですからいかに相手がドラゴレッグであろうと恐れるに足らず!」
「しかしネイ士、ゴーレムを一気に操るとぶっ倒れるのでは」
半眼で問うテステッサに自信満々に答えるネイ士。
「問題無い!リアルタイムでフルリンクするから負担になるのであって、敵地に投入して暴れさせるだけならゴーレムブレインが自動的に敵を察知して叩き潰せる。城壁の破壊もお手の物だ。吾輩に任せておいてくれたまえ!」
はっはっは!と高笑いするその態度が逆に不安を煽るのだが、数だけで言えば頼もしい増援だ。存分に活躍してもらう事にしよう。
改めて突入計画会議が開かれた。まずはるるセンパイが『パステルツェン』に揺られながら立案した策を提案する。
「飛空挺は三隻あります。まずA戦艦B巡洋艦C巡洋艦の順で敵の城の東側から接近し、飛竜に対して対空戦闘をしながら城外壁へ砲撃。城を横切ったこの三隻がそれぞれターンしてB巡洋艦とA戦艦が対空戦闘する下でC巡洋艦が降下、ゴーレムを降ろし敵城塞へ攻撃をかけます」
それからセンパイは地図上のC巡洋艦を少し遠ざけた。
「C巡洋艦はそのまま一時離脱。続けて再ターンしたB巡洋艦が『アルム』隊7機を降下、ゴーレムの開けた突入口を確保しつつ城内的勢力の漸減。その後A戦艦が降下、騎士団を突入させる……ってとこでしょうか」
「C巡洋艦はどうしますか?」
「A戦艦を兵員回収に用いたいところですが、陸戦隊を降ろしたところで無傷で上昇できるかはわかりません。最終的な回収手段として安全圏で待機してもらいます」
「それがよろしいでしょうな」
ツェリバとテステッサも同意した。生身の兵を預かる二人にとって退却は一番ナイーブになる所だろう。
「私とミティは突入前まで戦艦から対空戦闘。ツェリバとテステッサは陸戦隊の指揮、漣太郎くんが『アルム』隊の指揮ね」
「俺がですか!?」
センパイからの急な任命に驚いて目を見開く。任命した本人は当たり前じゃないという風に俺を見ているが簡単に引き受けるわけにはいかない。
「無理です、指揮なんか出来ませんよ!」
「困るなぁそんなみんなの士気が下がるような事言っちゃ」
「ダジャレっぽく言われても……6機も預れませんよ」
「仕方ない、じゃあケイスンと手分けして二隊。前衛と後衛ね。これならいいでしょ?レクチャーはツェリバ達から受けてね」
気は進まないがここでゴネると自分だけザボってるみたいでバツが悪いので引き受ける事にした。策士め。
「よし、担当も決まり。艤装完了は一週間後です。各員準備を頑張ってください」
センパイの声に全員が右拳を上げた。




