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ハーシャとグリーンドラゴン


 「グリーンドラゴンだ!」


 誰かの叫び声。もしそれが合っているならワイバーンよりもヤバい飛竜のはずだ。空には2、3匹の姿が見える。早くなんとかしないと。


 「おっちゃん、これ借りるぞ!」


 「おい勝手に……!いや、いいヤっちまえ!」


 店主のヤケクソな許可も得たので、急いで機体を起動させる。ギアの回転速度も『ムラクモ』より速い。かなり腕のいい職人が作ったのだろう。その仕事ぶりに感心しながらあてずっぽうで銃に弾を送る。


 (入った!)


 計器盤に灯りが点いたのを横目に機体を旋回させる。狭い覗き窓から一頭の緑色の飛竜が見えた。


 「大きいな……」


 大きい飛竜の動き方は無駄が無い。それは逆に見慣れていれば読みやすく、鳥やコウモリに比べて狙いやすいと言える。俺は銃を『アルム』の両手でしっかりと構えた。


 「当たれ!」


 経験と勘に任せトリガーを引く。長い砲身から発射された鋼鉄の弾丸がグリーンドラゴンの翼を貫いた。弾丸一個くらいの穴ではダメージどころか飛行能力も落ちないだろうが、奴のプライドを傷つけるには十分だった。ドラゴンがこちらを向き炎を吹きかけようと大きく口を開ける。


 「ひぇぇぇぇ!兄ちゃん、何とかしてくれ!」


 (さっきより、やや右……か!)


 店長の悲鳴を無理やり無視しながら、思ったより左に流れた弾丸の補正をしてトリガーを引く。弾丸は見事、炎を吐き出そうとしたその咽喉奥から後頭部を貫いた。致命傷を受けたドラゴンが地面に墜落しビクビクとのたうつのを見て、周りから歓声が上がる。


 「流石だ兄ちゃん、ゾラステア一!」


 急いでハッチを開けた俺を店主が涙を流しながら誉めてくれたが、そんな事に構ってはいられない。


 「あと二頭くらいいたでしょ、何処に行きました!?」


 「え?そういえば……」


 「街の中心の方へ飛ぶのを見たぞ!」


 「なんだって!?」


 街の中心と言えばセンパイ達がゾラステアの偉い人と船の交渉をしている筈だ。万が一の事態を防がねばならない。


 「おっちゃん、もうしばらく使わせてくれ!」


 今度は許可を取らずに機体を走りださせた。ここから中心街までは『アルム』の足でもそこそこの距離がある。メインストリートを歩く人々や犬、ニワトリを踏まないように冷や汗をかきながら一生懸命レバーを操る。一個オレンジの入った樽を蹴っ飛ばしてしまったがそれは後で謝っておこう。


 数分ほど猛ダッシュしてようやく街の一番高い塔のような建物が見えてきた。そしてそこに取りつこうとしている竜二匹。塔の窓から拳銃や弓でドラゴンを攻撃している人たちがいるが人間が持つ大きさの武器ではドラゴンにはかすり傷しか負わせられない。リラバティで使うような大型バリスタでも持ってこなければ。


 勢いをつけて壁を蹴り穴を開けようとしているドラゴンに銃を向け『アルム』の両脚を踏ん張らせた。呼吸を止めて狭い窓から銃の照星を竜に合わせる……。


 (……そこか!)


 一発。右足を撃ち抜かれたドラゴンが姿勢を崩したところにさらに一発。胸の中心を撃ち抜かれたドラゴンは力無く落下していった。


 「よし!」


 しかし仲間を撃ち殺され逆上したのか、残ったグリーンドラゴンがこちらに真っ直ぐ向かってくる。


 (間に合え!!)


 急いでリロードを終え、銃を向ける。弾丸は眉間に命中するが角度が悪かったのか派手に出血させただけで脳みそ貫通とはいかなかったようだ。いよいよ怒り狂ったドラゴンが太い尻尾で俺の乗る『アルム』を吹っ飛ばした。ゴロゴロと転がる操縦席で吐きそうになるのを堪えながら、立ち上がらせようとレバーを押し上げる。


 ガシィッ!


 しかし立ち上がる前にドラゴンは『アルム』をガッシリと踏みつけた。新型のパワーをもってしてもドラゴンの巨体は跳ね除けられない。なんとか銃口を向けようとしたがもう一本の脚で右腕も封じられてしまった。


 「や、ヤバイ……!」


 久々に背筋をつたう死の恐怖。ドラゴンはグワッと口を開き、暗い喉の奥に紅くうごめく炎を見せた。ちくしょうやっぱり帰ってくるんじゃなかったと思わず口にする直前。


 「……ぉぉぉおおおりゃぁあっ!!」


 どこかで聞いたような、威勢のいい女の声が響き渡った。そして肉と骨を力任せに断つ鈍い音、ゴロリと落ちるドラゴンの首から青い血が噴き出す。


 (……『アルム』?)


 首の無くなったドラゴンの背に、大きな斧を持った青い『アルム』が立っていた。その『アルム』は地面に下りてドラゴンの死骸を蹴っ飛ばし俺の機体を開放してくれる。俺はハッチを開けてその乗り手に礼を言った。


 「ありがとう!助かりました」


 「やっぱりレンタローか」


 青い『アルム』のハッチが開き、雑に髪をまとめた女が顔を見せる。それは前に『アルム』で模擬戦の相手になったハーシャだった。


 「『アルム』の銃で竜を落とすなんて器用な事をする奴がいるなと思ったけど、キミならやりかねないね。随分ウデを上げたようじゃないか」


 「あれからいろいろピンチを潜り抜けてきましたから……これがハーシャさんの『アルム』ですか?」


 俺は改めてハーシャさんの機体を見た。盾は持っていないが分厚い削り出しのアーマーはかなり防御力が高いと見える。一方で可動を妨げないようにフレームから少し浮かせて設置されていて、機動力も高そうだった。思わず近寄って横から下から覗きこんでしまう。持っている斧も分厚く、斬るというよりは刃を食いこませて重さでえぐり切るような武器らしい。『ゴーウェク』のディフェンダソードと同等の重さがありそうだ。


 「ああ、『ラヴージ』って言うんだ。半月ほど前にようやく買ったんだけど高いだけあってなかなか良く動くよ。その新型と同じ海外の有名なマイスターが作ったんだってさ」


 「なるほど……」


 リラバティでもボッズ師達と一緒に『アルム』改良に励んだが、やはり本職の方がいい仕事をするのだろう。当たり前だが少し悔しい。


 「しかしハーシャさんも竜に向かってつっこんでくるなんて流石ですね」


 「たいした事じゃないよ。この街では“伯爵”に恩を売っておいた方がいいからね」


 「“伯爵”?」


 ホラ、とハーシャさんが指さす先に、塔から出てくるるるセンパイとグレッソン大臣、そして金の刺繍で着飾った小太りの初老のオッサンがいた。



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