ゾラステア再訪
「暗黒竜は強大でリラバティの王族だけではなく各国の王家の者が集まり力を合わせて封印したのだそうです。その封印を解くにはやはり王族の血が必要らしく、私は生かされていたのだろうと思います」
「そんな奴、絶対に復活させられないわね」
るるセンパイの言葉に一同が頷く。それからツェリバ隊長が慎重に尋ねる。
「敵の本拠地は、どのような所なのでしょうか」
「私を誘拐した“黒づくめ”とドラゴレッグの棲む城は、北方山脈の中にありました。私はそこを経由して奇連山に送られたのですが、ちらりと外見を見たところではちょうど山と山の谷間にあるようでした。大きさはリラバティ城よりも大きいという印象でしたが、どの位の兵士がいるのか等はわかりませんでした」
「なるほど、外から見える城なら城壁を破壊すれば入れるかもしれませんね」
何となく話が進んできたような気がする。センパイがターニアさんの方を向いた。
「ゾラステアがこちらに来るのはいつになるかしら」
「3日後にいつもの交易地に到着する予定です」
「よし、グレッソンは私と護衛を付けてゾラステアに向かう準備を。テステッサが帰ってくる前に交渉を開始しましょう。ツェリバは騎士たちの装備を整えて揚陸戦の準備を。ミティも装備を整えておいて」
そこまで一気に言ってから、しまったと自分の頭を叩く。
「ごめんなさい、すっかりまだ姫様気分で……」
「いいんです、そうやって引っ張ってもらった方が、戦苦手な自分としても助かります」
ルルリアーナ王女が立ち上がりるるセンパイの手を取った。
「リラバティの半分はもう貴女の国のようなものです。共に復興まで民を導くためにご助力下さい」
「ありがとう、ルルリアーナ王女」
そう言ってセンパイと王女はゆっくりと抱擁した。
ティディットの出口近くでは仮の鍛冶場と作業場が作られていた。そこでボッズ師やその弟子たちが武器防具の修理を進めていた。
「おう、技師殿!息災でなにより」
「そちらこそ!また会えてうれしいです」
俺はボッズ師達と再会を喜ぶ。城の工房に比べれば設備も道具も半端な物しかないが、職人たちのやる気は前と変わっていない。
「なんとか『ムラクモ』だけでも直そうとしたんじゃが、ここの設備ではなかなか難しくてのう」
洞窟の壁に、半壊した『ムラクモ』と『ゴーウェク』が吊り下げられていた。二機とも装甲は全部外されてフレームの修理待ち状態だ。全身の泥汚れと歪みがあの激闘を思い起こさせる。
「『ゴーウェク』の方が比較的ダメージが少なかったんじゃが、あの小坊主がお前さんが帰ってきた時の為に『ムラクモ』から修理してくれとな」
「ケイスンが?」
(俺が戻れるかどうかすらわからないのに、アイツは……)
俺はつい涙腺が緩むのを堪えた。
「これからゾラステアに行くんです。足りない部品のリストを作ってもらえますか?何とかして買ってきます」
「わかった、急いでやらせよう」
「それから、敵地に突入する飛行船も用意するんですが、コレの改造計画も建てなきゃなんです」
ボッズ師がやれやれと天を仰いだ。
「こんな老いぼれに、神は仕事を与え過ぎじゃわい」
神に文句を言うなら、ちょうど少し言ったとこに本人がいるのだが
三日後、俺とるるセンパイ、グレッソン大臣は『パステルツェン』であの空飛ぶ工業国・ゾラステアの寄留地に辿り着いた。ちょうど錨を下ろし停泊する所だったが前に比べて商隊の数は少なかった。
「やはり、竜どもの活動が活発になっているせいですかな」
忌々しそうに大臣が呟く。竜の南下を抑えていたリラバティ城が無くなった事は周辺の村や町にはかなりの痛手となっているようだ。飛竜やワイバーンだけでなくドラゴレッグも我が物顔で街道を歩き始めたらしい。リド公国を始めいくつかの騎士団や自警団が警戒を強化しているが、それで被害を防ぎきれるほど敵の勢力は甘くない。
ゾラステアの外観をよく見ると、あちこちに焦がされた跡や破壊された跡が見える。これも竜の攻撃を受けたせいなのか。気のせいか前よりも砲台の数が増えたようにも見える。
「早い所トドメを刺しにいかないといけないわね」
「そうですね……ん、アレが例の船ですか?」
「そうみたいね」
空飛ぶ島ゾラステアの南側に接舷して浮いている船が見えた。結構な大きさだ。距離があるせいで正確な長さはわからないが全長200メートルはあるのではないだろうか。両舷に砲台が並んでおり一目で軍用だとわかる。木造船体だが鉄骨が入っていて強度を確保しているようだ。
(アレを改造して突撃作戦……か)
せめてあと二、三隻あれば心強いのだがそれをここで言っても仕方ない。こうしている間にも竜の勢力範囲は拡大している。はやる気持ちを抑え俺達はゾラステアに上陸した。
「じゃあ私とグレッソン大臣は船の買い取り交渉に向かうわ。悪いけど漣太郎くんは『アルム』の修理部品の買い付け頼むわね。使えそうな新品の『アルム』があれば買っちゃってもいいわよ」
「そんなお金どこにあるんですか?」
「そんなんオムソー王に払ってもらうに決まってるじゃない」
決まってるじゃないとか言われましても、他所の国の王様の名前でツケ払いできるほど俺の心臓は強くない。せいぜい強そうな機体があればツバをつけとくくらいか。
そんなこんなでるるセンパイ達と別れて市場の方へ向かう。一度来たっきりなのでかなり道に迷ったが最低限のパーツの買い物はできた。運び屋の店にどんどん持ち込んでティディットにまとめて持って行ってもらう事にする。それから一応、『アルム』を買ったあの店にも行ってみる事する。本当にいいモノがあればやはり押さえておきたい。
「よぉ兄ちゃん、久しぶりだな。あんなに買ったのにまた買いに来たのかい」
見覚えのある店員が声をかけてきた。その後ろにはまた新しい『アルム』が並んでいる。
「ああ、結局四機をオシャカにしてしまってね」
ブッ、と店主が噴き出した。確かにこの高い兵器を数カ月でポンコツにしたと言われればそういう反応にはなるだろう。
「……そういや兄ちゃん、竜と戦うとか言ってたな。そんなに激闘ばかり繰り広げてたのか」
「ああ、でもおかげでなんとか生き延びる事ができたんで。感謝してます」
「そりゃよかった」
店主は笑顔を見せると後ろの新型を振り返る。
「あれからこのゾラステアも竜がちょっかいをかけてくるようになってなぁ。おかげでこの街は銃だの大砲だのの大ブームよ。この『アルム』もしっかり銃装備仕様だ。兄ちゃんに売ったものより反応速度も稼働時間も上!どうだい、安くしとくぜ」
そう言われると性能が気になってしまうのが技術屋の性だ。
「中を見ても?」
「ああ、いいぜ」
ハッチを開けて操縦席に乗り込む。内装もしっかりしているしヒンジや歯車も丈夫な物が使われているようだ。視界はあまり変わらないがそこは防御との兼ね合いもあるし仕方ないだろう。レバーやペダルの作りも上等だ。残弾を表示するカウンターもついてるしこれなら改造しなくてもすぐ使える。
一度降りて店主に値段を聞こうとした時、外からたくさんの悲鳴とあまり聞きたくない類の獣の叫び声が聞こえてきた。慌ててハッチの隙間から外を見ると、空にどう見てもドラゴンでございというシルエットの生き物が飛んでいた。
更新遅くてすみません。毎月残業80時間が続くとシンドイデスネ…




