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奇連山へ


 騎士団三十名とリンカ族の戦士7人。そして『パステルツェン』に乗った俺とるるセンパイは翌朝、リラバティ城から南に向け旅立った。『ムラクモ』は自動操縦でケイスンの『ゴーウェク』と共に後ろからついてきている。


 馬車の中で俺はセンパイに改めて事情を確認した。


 「本当に飛面族のアジトにルルリアーナ王女がいるんですか?」


 「可能性が高い、ってレベルよ」


 るるセンパイもいつものように軽い口調を意識してはいるが、どうしても緊張が抜けていない。ポニテを何度もまとめ直しているがうまく行かない様なので俺はセンパイの後ろに回った。


 「ありがと」


 「何故なんです?」


 「理由なんてわからないわ。ターニアの兄弟に飛面族の調査をさせてたらアジトで“黒づくめ”と共同生活をしていて、会話を盗み聞きしていたらどうも牢屋にリラバティのとても重要な人物が捕まっているらしい、って情報しか来ていないんだもの」


 ポニーテールを結び終え、俺はセンパイの前に戻った。


 「大人数での殴り込みには早いんじゃないですか?防衛隊からも戦力を連れてきてしまって……」


 「リラバティの重要人物に該当する人物は王女以外には見当がつかないわ。そして行方不明になってから一年以上……どういう扱いを受けているかは分からないけれど、相当衰弱しているはず。ついでにテ・レト達の我慢も限界……となれば、自然とこういう流れに」


 「なりますかねえ。飛面族とは直接敵対しているわけじゃないんですよ?」


 そう言う俺も最初何発か銃をぶちこんだ記憶はあるが。


 「“黒づくめ”とつるんでいる時点で、奴らはもう敵って事ね。戦わずに人質を返すならよし。さもなくば……」


 ボキボキと細い手首から物騒な音を鳴らするるセンパイ。


 「納得いかないって顔ね、漣太郎クン」


 「いろいろと腑に落ちない所はありますが、一番気になるのはやっぱりさっきの点です。なぜ“黒づくめ”と飛面族はルルリアーナ王女を一年以上も監禁しているのか……人質なら何かしらの要求があってもいいじゃないですか」


 「私だってそこは引っ掛かるけど、何かしら理由があるんじゃないの?慎重に潜入調査を続けているうちに姫様が死んじゃう方が困るし」


 「……わかりました。とにかく強襲して重要人物を奪還、って事でいいんですね」


 俺が無理やり納得して気持ちを切り替えた所で、予想外の声が聞こえてきた。


 「相変わらず物騒な作戦会議じゃのう」


 「ベゥちゃん!城にいなさいって言ったのに」


 どこからともなくパタパタと飛んできた金髪のブタをるるセンパイが抱きとめる。確かにベゥヘレムは城に残してきたと思ったのだが。


 「なんか胸騒ぎがしてな。こう見えて役に立つかもしれんぞ」


 「非常食にか?」


 深く考えずに相槌を打つと、ブタが顔を真っ赤にして激怒した。


 「罰当たりなヤツめ!そういう事を言っておるとお前のピンチは助けてやらんぞ!」


 「むしろどうやってピンチを切り抜けてくれるんだよ」


 本気で疑問なのだが、機嫌を悪くしたらしいベゥヘレムはそっぽを向いてしまった。


 「無礼な奴に一々説明する気にはならんな」


 「まぁまぁ、来ちゃったものはしょうがないから仲良く行きましょう、ね」


 ブタの毛並みの良い金髪を撫でながら、センパイが微笑んだ。るるセンパイの緊張が解けたのならそれだけでブタが来た意味があるのだが、それはそれでちょっと気に入らない。


  


 




 

 騎士団のスピードに合わせた為、奇連山まで三日と半日を要した。灰色の空の下、細く尖った山々が天に向かっていろんな角度で延びている。なるほど奇連山とはよく言ったものだ。


 麓から北側にはリンカ族の故郷の草原が広がっていた。飛面族はテ・レト達を追い出した後、特にその土地を活用するという事はしなかったようだ。


 (血が必要……とか言っていたな)


 シ・ノノと言ったか。テ・レトの婚約者らしい女性がそう言っていた。つまり土地は関係無かったと言う事か。


 『パステルツェン』から降りて、故郷を見ているテ・レトに声を掛ける。


 「うまくすれば、あの草原に戻れるかもしれないですね」


 「レンタロー殿……そうですね、そう願いたいものです」


言葉とは裏腹にテ・レトは仄暗い目のまま背後の奇連山を振り向いた。


 「その前に成さねばならぬ事がありますが」


 「テ・レト……」


 「仇討ちなど空しい物です。しかし、リラバティで暮らしている間ずっと考え抜いていましたがやはり部族の為には避けては通れません。強く生きるためには誇りが必要なのです」


 難しい話だと思う。この聡明そうな青年がそういうのを、争いはくだらないよと諭す事は俺にはできない。

 

 (そもそも、俺達だってドラゴレッグ達と命を奪い合っているのだから)


 「リラバティ騎士団の力を借りた仇討ちなど、どちらにせよ誇れるものではないのかもしれませんが」


 「テ・レト」


 自嘲気味に言うアルパカ戦士に呼びかける。


 「何ですか?」


 「死なないでくれよ。部族にはリーダーが必要なんだから、仇討ちと自分の命を天秤にかけるような真似はやめてくれ。仲間のみんなも悲しむ」


 「……レンタロー殿は、優しい方ですね」


 俺のそういう所を少し笑ったようにも見えたが、テ・レトは少し表情を緩めて部族の方へと歩き出した。


 「約束しましょう。レンタロー殿も気をつけて」


 見送ってから俺も『アルム』の整備に向かう。『ムラクモ』の隣に立つ『ゴーウェク』の操縦席の中でごそごそと作業していたらしいケイスンが飛び出してきた。


 「レンタローさんも明日の準備ですか?」


 「まぁね……ケイスンも実戦は二回目だから、張り切り過ぎるなよ」


 「大丈夫ですよ。飛面族って、自分たちとそう体格は変わらないんでしょう?この『ゴーウェク』なら何人相手でも負けはしません」


 まるで無敵の巨大ロボットを自慢するかのようにパンパンと装甲を叩くケイスン。


 「飛面族だってバカみたいに正面から『アルム』に向かってはこないさ。装甲の隙間や関節を狙ったりして来るだろう。それに“黒づくめ”の連中はいろんな術を使う。決して楽な戦いにはならないぞ」


 ゴクリと唾を飲むケイスン。俺は脅かし過ぎたか、と少し反省した。


 「それでも、この『ゴーウェク』には突入の時の先鋒になってもらわなきゃいけない。油断は禁物だが思いっきりやってくれ。居住区への突入口が確保できれば、後は騎士団のみんなが頑張ってくれる」


 その後敵が混乱している中を、俺の『ムラクモ』が建物上部に砲撃で穴を開けセンパイが司令所的な所を一気に強襲する、という流れだ。その為『ムラクモ』はライフルを外し他に前に使っていたハンドカノンとそのコピー品の二門、新装備の三連ミドルカノン、そして大量の弾薬という重装備になっていた。


 「わかりました。必ずやり遂げます!」


 びしっと敬礼をしてくれるケイスン。俺も一緒に弾薬や燃料の再点検を始めながら西の空を見た。


 (日没まで、あと二時間くらいか……) 


 飛面族は夜目が弱いらしい。卑怯な感じはあるが万全を期すために日没後の突入が決まった。


 


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