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異世界の実感


 「れんたろーくん、れんたろーくん……」


 瞼の間からうっすらと白い光が見える。そして、聞きなれた優しい声。


 (るるセンパイの声だ……)


 気を失う前の事を思い出す。ああそうだ、確か俺はレガシーワイバーンに踏みつけられて死んだんだ。地球ではない、どっか知らない異世界で。


 思えばあっけない一生だった。母ちゃんを大事に思ったことは無かったが心配してるなろうな。もう帰れないとわかったら泣くだろうか。それも伝えられないから、俺は行方不明、蒸発扱いになるのだろうか。それは少し申し訳ない気がする。


 センパイは無事だったのだろうか。ワイバーンは倒せただろうか。死んだ後の事が判らないのはもどかしいが、センパイが無事なら俺のこの短い人生も報われる気がする。


 「漣太郎くーん、おーい……」


 またセンパイの声が聞こえてきた。天国でもセンパイの声が聞こえるものなんだろうか。それともセンパイも死んでしまったとか?縁起でもない……。


 暖かい、春の日差しのような感触に包まれて俺の意識は白い光の中でまた眠りにつこうとしていた。

 その矢先。


 びしゃああああっ。


 脳天から大量の水が降ってきた。


 「ぶわああああああっ!」


 パニックを起こし上半身を起こす。水だ。間違いない。訳が分からないまま首をぶんぶんと振り顔の水を拭う。


 「目が覚めた?」


 上には大きな空の桶を持ってニッコリと笑うドレス姿のるるセンパイがいた。


 「な、な、な……」


 「な?」


 「なにするんですか!?」


 「うわあっ!?」


 大声を上げた俺にセンパイはびっくりして桶を落とした。当然桶は俺の頭に直撃する。痛い。


 「わぁ、ごめんなさい」


 あまり悪気の無い感じでセンパイは俺の頭から桶を回収して脇にいたメイドに手渡した。どうやら俺を起こそうと思って水をぶっかけたらしい。死人に水をかけた所で起きるわけがないのだが。


 「あれ?俺死んだんじゃ……」


 「死んだわよ、しっかり」


 あっけらかんと言うセンパイの言葉にまた眩暈がする。血が足りていないんじゃなかろうか。


 「死んだら、起き上がれないでしょう」


 「だから生き返らせてもらったの」


 「生き返らせた?」


 センパイの手の先に神官のような服を着ている若い女性がいた。20歳くらいだろうか、ファンタジー世界らしい青色のロングヘア。センパイよりやや年上みたいだが穏やかそうな笑顔は幼くも見える。そしてなにより。


 (デカイ)


 胸が圧倒的にデカい。センパイも大きい方だがこの人は規格外だ。神官よりグラビアモデルに向いている。この世界にグラビアがあるのかは知らないが。


 「元気になられたようですね」


 巨乳神官がニッコリと微笑んだ。


 「は、はい!ええと、……ありがとうございます?」


 「どういたしまして」


 「漣太郎くん、こちらはパレィーア高司祭。この国で一番偉い神官様よ。若く見えるけど蘇生の奇跡を使える大陸でも数少ない方なの」


 若干怖い目でるるセンパイが紹介をしてくれた。俺は出来るだけ司祭の首から下を見ないように努めながらお礼を言いなおした。


 「そうなんですか、俺は御厨漣太郎と言います。助けてくれてありがとうございました」


 「これもソーヤ神の思し召しです。私が城に居る時でなければ助けられませんでした」


 「そうなんですか?」


 ベッドの上では失礼かと思いから降りようとすると、センパイが手を貸してくれた。


 「この世界では魔法や神様の奇跡があるけど、万能ってワケでもないみたい」


 「はい、まず死亡してから何時間も経ってしまうと魂が肉体から遠くなってしまい復活させられません。また肉体がバラバラになったり損傷が激しいとうまく蘇生できない事も多いです。実際レンタローさんもギリギリでした」


 あっけらかんと怖い事を笑顔でおっしゃるパレィーア司祭。


 「そ、そうなんですか」


 (ファンタジーっても、何でもアリじゃないんだな)


 生き返れた幸運に、思わずそのナントカ神に入信しようかとも考えてしまった。その前に肝心な事を確かめないと。


 「……ワイバーンは!?」


 「倒せたわよ、漣太郎くんのおかげでね」


 センパイがウィンクして窓の外を示す。俺はよたよたとその窓の方へ歩いて行った。


 「おおおおっ!?」


 窓の下、城の中庭の様な広場ではあのレガシーワイバーンが解体されていた。兵士や街の住民が何人も群がって鱗を剥ぎ、肉を切り、竜の巨体をバラバラにしている。少し離れたところではBBQみたいに火が熾されて事もあろうか何人かがワイバーンの肉を焼いて食べていた。


 「すげえー……」


 「ドラゴンステーキ、正確にはワイバーンステーキね。少し固いけど食べたらすごく元気になるわ。アレがあるからこの国に仕える兵士もいるくらいなんだって。あとで漣太郎くんにも食べさせてあげるね」


 (ドラゴンってどんな味なんだ?)


 頭に浮かんだ疑問はさておき、中庭で繰り広げられるその光景は若干グロくはあるが、そのダイナミックさと人々の明るい歓声に息を飲む。背中と首の繋がる付け根の所にはるるセンパイが握っていた槍が深々と刺さっていた。


 「漣太郎くんがアイツを引き付けてくれたから、ワタシ、最後の力で勝つ事が出来たわ……」


 隣にいたるるセンパイが一歩、こっちに近づいてきた。顔を見ると細かいキズや泥、そして返り血で汚れまくっている。戦いの後、俺の蘇生を見守っていてくれたのだろうか。疲労で腫れぼったくなっているセンパイの大きな瞳がうるうると潤んでいた。


 「無理やり連れてきたのはワタシだけど……でもいきなり死んじゃうから、すっごくびっくりしたんだからぁ……」


 「……スイマセン、センパイ」


 ポケットから新品のハンカチを出してセンパイの顔を拭いてあげた。デートだと思って新品のやつを持ってきてたけど、こんな形で役に立とうとは。


 (そっか、俺、地球じゃない所にいるんだな……)


 竜の血で赤紫に染まるハンカチを見て、俺は何よりその事を実感していた。




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