暴風主竜纏鎧、活躍
そこに、天空から気合とかわいらしさを両立させたるるセンパイの雄叫びが響いた。
「おりゃぁぁぁぁぁぁあああ!」
直上からの襲撃に感づいた大鰐竜は急いで逃げようとするが、ウヴェンドスの鎧を纏うるるセンパイの奇襲からは逃げられない。超高速の竜槍術が大鰐竜の尻尾の付け根に突き刺さった。
グゥアアアアアア!
大鰐竜の絶叫が響き渡る。尾が太いために切断はできなかったが大怪我を負った大鰐竜の血が川をドス黒く濁らせ始めた。
「お待たせ、大丈夫!?」
俺は急いでケイスンの『ゴーヴェク』の方を見た。ヨロヨロしながらも機体を立て直している。鍛えた甲斐があったか。
「なんとか!」
「だいぶタフな奴みたいね、気をつけて!」
「了解です!」
そう応えてライフルをまた構える俺の『ムラクモ』に大鰐竜が鼻先を向けた。その鼻の穴が異常に大きく膨らむ。
(まさか……!?)
反射的にライフルを引きシールドを構える。直後、大鰐竜の鼻の穴から大量の水流が噴射された。高圧水流にシールドごと『ムラサメ』が吹っ飛ばされる。
「うぉああああ!?」
「漣太郎くん!」
『ムラクモ』が二転三転と川を転がる。正面ハッチの覗き穴から操縦席に水が入り込み俺はあっという間にずぶ濡れになった。急いで機体を起こさないと機器がダメになってしまう。
「レンタローさん!今行きま……うわぁああああ!」
俺の助けに入ろうとしたケイスンも同じように水流を浴びて吹っ飛ばされた。『アルム』の重量を浮かせる水量と勢いとなると相当のエネルギーだ。よく見ると川の水位が一時的に半分くらいになっていた。
さらに大鰐竜はジェット鼻水(ネーミングを少し後悔した)を三人に立て続けに放射する。近づこうにも『アルム』では水に足を取られて近づけないし、頼みのセンパイも対空砲撃と意外に素早い泳ぎの前に手こずっている。
(つまり……水が無ければ攻撃も回避もできないんだろう?)
好き勝手させないようにライフルで反撃をしながら俺は打開策を考えた。と、言ってもこの状況では思いつき程度の浅知恵しか出てこないのだが。
「センパイ!聞こえますか!?」
「なんか思いついた?漣太郎くん!」
空中で囮をやってくれているセンパイが竜角を使った無線で答えてくれる。
「“その槍”の説明、しましたよね!」
「え?されたけど……いや、ウソでしょ?」
勘のいいセンパイはそれだけで気づいたようだ。
「水が無ければヤツは相当パワーダウンするはずなんです!頼みます!」
「だって私、これぶっつけ本番なのよー!!?」
「るるセンパイだって俺に散々ぶっつけでやらせるてきたじゃないですか!」
「ううううー!ンもう!貸しイチだからね!」
これだけ滅私奉公している俺から何を取り立てようというのか。ともあれセンパイは了承してくれたようだ。高く上昇するセンパイを見て俺はライフルに別の弾を装填し、ケイスンにも話しかけた。
「ケイスン!姫様が仕掛けたら俺たちも行くぞ!後ろ脚を狙え!」
「わ、わかりました!」
上空のるるセンパイが呪文を叫びながら槍を振り下ろした。その槍の穂先からパチパチと紫色の電光が散り、上下左右にブレ出したかと思うと灰色の巨大な竜巻が発生した。大気を唸らせているような轟音が響きわたり鳥や小動物が一斉に逃げ出していく。
「す、すごい……!」
「いけええええええ!」
竜巻が周囲の川ごと大鰐竜を包み込む。渦巻く風の柱がごっそりと水を吸い上げ、石だらけの川底と大鰐竜の体が露出した。
「今だ!」
ライフルから散弾を発射しながら『ムラクモ』を大鰐竜に突撃させる。反対側からケイスンの『ゴーウェク』も続いた。ワニはそれぞれ刃物を振り上げる二機から逃れようとするが、水の無い場所での大鰐竜の動きは驚くほど鈍かった。
ザッ!
ケイスンのディフェンダソード、そして『ムラクモ』のライフルに着けられた長い銃剣が鱗を割り突き刺さる。堅い肉を切り裂き、左右の後ろ足から出血する大鰐竜はもはや動きを封じられたただの獣に過ぎなかった。
「るるセンパイ!」
「わかってる!」
竜巻を解いたセンパイは無数の水しぶきと共に落下を開始した。先ほどの竜巻以上の風切り音を轟かせ、隕石のような速度で一気に大鰐竜の背中目掛け槍を突き出す。
「トドメ!!」
深々と体内に埋め込まれる痛みに絶叫しのたうつワニ。センパイは振り落とされないようにしがみつきながら更に呪文を発動させた。ウヴェンドスの竜石が大鰐竜の体内でかまいたちを巻き起こし内臓を、血管を切り刻んでゆく。徐々に川の水位が戻って行く中、満身創痍となった大鰐竜は息絶え、その中に沈んだ。
「はぁ……はぁ……」
その背中にへたり込むるるセンパイ。俺は『ムラクモ』の正面ハッチを開けながらセンパイを迎えに近づいた。
「大丈夫ですか?るるセンパイ」
「漣太郎くんも、なかなか非人道的な武器を作るわね……」
「俺だって体内切り刻むような使い方は考えてないですよ」
るるセンパイを『ムラクモ』の両掌に乗せて岸辺まで連れていく。陸地ではリンカ族が歓声を上げながら迎えてくれていた。
「まるで私が残虐みたいじゃない」
「戦乱の国王には相応しいんじゃないですか?」
「まぁ、……そうかもね」
俺の皮肉にセンパイも苦笑いすると、手を振ってテ・レト達の方に応えた。




