巨大ワニ出現
また数日が過ぎ、ようやく『ムラクモ』の名をもらった俺の『アルム』が完成した。さらに難航していたウヴェンドスの竜纏鎧も形になる。るるセンパイは早速テストで城の中庭でピョンピョン飛び回っていた。
「凄いよ漣太郎くん!機動性が半端ない!」
「伝説の風の竜の鎧ですからね!ワイバーンの鎧とは大違いですよ!」
大声で上空に叫び返す。センパイは聞いているのかいないのか楽しく空を飛んでいた。ウヴェンドスの竜纏鎧はその内包するパワーも桁違いの上に肩のメインウィングの自由度を上げたために空中で最大四回の方向転換が可能になっていた。もはや鳥レベルの飛行能力だ。上昇下降スピードも今までの1.8倍。純粋な『竜槍術』の威力も上がっており、当然防御能力も底上げされている。
ヒュンヒュンと飛んで一通り楽しんだのかスタッとセンパイが俺の横に帰ってきた。今までとは違い着地点から四方に突風が吹き荒れる。
「うおおおおお」
見物していた俺含め大臣やターニアさんにミティ、ボッズ師達工房のみんなが吹き飛ばされないように身をかがめている。
「ごめんごめん、これからは着地にも気をつけなきゃかな」
「まぁ、戦ってる時にそんな余裕は無いかもですけどね」
そこに、慌ただしく人と蹄の音が駆け込んできた。騎士団の兵士とゴーフト、リンカ族の少年だ。
「姫様!」
「何かあったの?」
落ち着かせるようにゆっくりと答えるるるセンパイ。ターニアさんも手早く部下のメイドに二人分の水を用意させている。
「建設中の地下都市近くで大鰐竜が暴れているのをリンカ族が発見しました!このままでは町にも危険が!」
「何ですって?」
驚く一同にリンカ族の少年が続ける。
「今、族長たちが牽制をしていますが対抗しきれず……ご助力をお願い致します!」
「安心して、すぐに騎士団を向かわせるわ。漣太郎くん、『ムラクモ』は使えるわね」
俺は迷わず頷いた。この後ケイスンの『ゴーヴェク』と模擬戦をする予定だったからだ。弾薬を実戦用のものに変えればすぐに戦える。
「よし、漣太郎くんは『パステルツェン』『ムラクモ』『ゴーヴェク』の出撃準備を。グレッソン、騎士団に順次出撃命令を出して」
「了解です!」
各員がるるセンパイの指示で一斉に散らばった。
「ところで大鰐竜って何なんですか?」
『パステルツェン』の中で俺はセンパイに聞いた。馬車の後ろにからは自動操縦でついてくる『ムラサメ』とケイスンが操縦する『ゴーヴェク』の重い足音が響いてくる。
「ぶっちゃけワニみたいなもんなんだけど、これもまた例によってデカくてね。竜の名前に恥じないくらい危険なヤツ」
「火の息とか吐きますか?」
「ううん。ホントにワニの攻撃しかしないよ。でも噛みつきも尻尾も破壊力は強烈だから『アルム』に乗っていても安心はできないかな」
少し身震いした。ケイスンには充分に気をつけさせよう。
「もうすぐ街も人が住めるって言うのに、こんなところで邪魔はさせないわ」
「もうできるんですか?」
地下都市の話を聞いたのはそんなに昔じゃない気がする。第一俺がディアスフィアに来てからまだ半年足らずのはずだ。規模はわからないがそんな早くできるのだろうか。
「まだ中心部だけどね。まずは宿屋と食事ができるところを増やして流れの商人が立ち寄れるような街にするつもり」
「なるほど、外貨収入ですか」
「お、漣太郎くんもなかなか政治がわかってきたみたいねー。そんなわけで今はあの街を壊されたくないの。ケイスンの面倒もあって大変だろうけど、頑張ってね」
「俺はいつも一生懸命ですよ、センパイ」
そんなやり取りをしているうちに馬車が戦場に差し掛かる。川が地下に潜りこむ前の浅瀬でアルパカ戦士たちに囲まれて暴れているのは、確かにワニだった。地球のワニと違うのは革が紫色で岩のように硬そうな事と全長15メートルくらいある事くらいか。
(くらいか……じゃねえよ!)
思わずセルフツッコミをしてしまったがとにかくデカイ。テ・レト達は10人足らずでよく立ち向かっていると感心してしまうくらいだ。下手したら一口で飲み込まれてしまう程大鰐竜の口は巨大だった。リンカ族にこれ以上無理させるのは危ない。
「センパイ、行ってきます!」
「気をつけてね!」
『パステルツェン』を降りて自動歩行を切った『ムラクモ』に取り付く。操縦席に乗り込みながら俺は通信ボタンを押した。
「ケイスン、やれそうか?」
「正直ちょっとビビッてますけど、大丈夫です。行けます!」
「『アルム』の力を過信しすぎるなよ、慎重に行け!」
了解です!と返事を残し『ゴーヴェク』が走り出した。俺も弾を装弾させながら『ムラクモ』を走らせる。
「リンカ族の皆さん、下がって下さい!リラバティ騎士団、ケイスン!参る!」
勇ましく名乗りを上げながらケイスンが川に飛び込み大鰐竜にディフェンダソードを叩きつける。水場でバランスを崩したのか真っ直ぐ刃を立てられず、大剣は鱗に弾かれたが衝撃はしっかり与えられたようだ。大鰐竜の巨体がひるんで水しぶきを上げた。
「や、やった!」
「ケイスン、油断するな!」
大鰐竜が態勢を崩しながらもお返しとばかりに太い尻尾を振り上げた。肩アーマーに直撃を受けた『ゴーヴェク』も水しぶきを上げながら浅瀬を転がった。
「大丈夫か!」
「ウェッ!げふ、げふ……なんとか」
水を吐きながら『ゴーヴェク』を立ち上がらせるケイスン。良かった、肩アーマーが凹んだ以外はそれほどダメージを受けていない。俺は急いで『ムラサメ』を川に入れながらライフルを構えさせた。
(水深は『アルム』の膝くらいか。リロード……くらえ!)
前の『アルム』よりは改善したが、相変わらず視界は狭い窓頼りだ。それでも各部関節の改良で照準はつけやすくなっている。
トリガー。炸薬の爆ぜる音と共に60ミリ超の弾丸が大鰐竜の左肩に突き刺さった。鋼鉄の弾が堅い鱗を破り肉に食い込む痛みに大鰐竜が叫びのたうつ。
「やった、行けますよレンタローさん!」
「左側から攻めるんだ!」
ケイスンと連携して左右に展開する。しかし体力に余裕のあるワニは傷にも構わず突撃し近づいてきた『ゴーヴェク』を突進で吹き飛ばした。銀色の機械騎士が再度水中に転がる。
(まずい、何度も水中で転倒させられたら各部モーターがやられる……!)
ケイスンをダウンさせた大鰐竜が今度は俺に狙いをつけた。シールドは持っているが『ムラクモ』は『ゴーヴェク』より装甲が弱い。
「この足場じゃジャンプはできない……こらえてくれよ!」
突進しながらの噛みつき攻撃をギリギリかすらせるように避ける、というかそれしかさせてもらえなかった。反転してこちらを睨む大鰐竜の眼はまるで「次は逃がさんぞ」と言っているように見えた。




