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新たな『騎士』


「あれで良かったんですかセンパイ」


リラバティへの帰途。ガラガラと揺れる馬車の二階、るるセンパイの私室で呑気に転がりながら俺は聞いた。


「上出来よ漣太郎くん」


豚肉と一緒にもらった特産ワインにチーズを楽しみながら、センパイは上機嫌でそう言った。ベゥヘレムも深皿に入れたワインをぺろぺろと味わっている。豚にブドウを食わせて旨い肉にする地方があるらしいが、遠くない将来コイツを捌く日が来るのかも知れない。


ついでにいうと、るるセンパイはお詫び替わりにオムソー王から安い野菜を大量に頂いてきていた。リンカ族の食いぶちが都合よく手に入ったと喜んでいる。


「リド公国に『アルム』まで持たれたらちょっと脅威だものね。隣が農業国から軍隊主導の国になるのは困るわ」


「ゴーレム術師と違って育成マニュアルさえしっかりしていれば操縦士は簡単に増やせるからのう」


豚がまた正論を吐いた。


「そこは同意ですけど。どっちにしろウチも採用したばかりでまだまだ上手く運用できるかわからないですし」


そう言って俺は窓から『パステルツェン』の後ろを見る。大破した『アルム』はリド公国で直せるはずもなく大きな荷車を買ってその上に乗せて搬送していた。知らない人にはただの鉄くずの山に見えるだろう。


「そこはどうなの?使ってみた感想は」


「どうもこうも、ぶっつけ本番で……日本で遊ぶロボゲーなんかとは別次元の難しさですよ。視界も狭いし照準を付けるのも難しいしレバーは重いし暑いし」


最初は俺もロボットに乗れると思って心ときめいたが、その操縦席は快適とか快感とかからは程遠いものだった。あんな危ない思いをして密着して間接に銃を撃つとかロマンの欠片もない。


センパイは俺の方に小首をかしげるようにして視線を移した。


「うーん、その辺が解決したら使えるって事?」


「そうですが、難しい話ですよ」


「漣太郎くんが無理って言わないときは、何とかなるって私知ってるから」


ワインを飲み干しながら、センパイは男殺しな事を言う。


(こういうセリフをさらっと言うから……)


我ながらチョロイとは思うが、この人の天然男たらし性能も相当ヤバイと思う。大学で彼氏ができなかったのは不思議だ。


「接近戦用に一台もう改造を始めちゃってるし、これくらいで使えませんでしたなんてワタシも大臣連中には言えないのよね。何とかもう少し成果を出してネ」


露骨に嫌そうな顔になる俺をるるセンパイがたしなめた。


「そんな顔しないの。帰ったら王様専用のお風呂に入れさせてあげるから」


「お風呂?」


「私専用のお風呂あるんだけど、地下の男湯の少し離れたとこにちんまりあるだけで部屋から遠いし狭いしであんま気に入ってないんだ。それで今リニューアルしてるの。楽しみにしてていいよ」


知らないうちにそんなことをしていたとは。流石王様侮れない。








リラバティに無事辿り着き、リンカ族に食料を送る手配をするとセンパイはすぐに新しいお風呂の方に飛んでいってしまった。一言、


「漣太郎くんも落ち着いたら入っていいからねー!」


と言い残して。流石に堂々と王族(今のところ、本物とニセモノのルルリアーナ王女しかいないはずだ)の風呂には入れないだろう。一体誰に断りを入れたらいいのやら。


ともあれ、俺は先に壊れた『アルム』を持ってボッズ師達に頭を下げに来た。工房の全員がゴーレムにボコボコにされた『アルム』を見て唖然とする。


「すみません……最善は尽くしたんですが」


「遊びで壊したのではないんじゃから怒りはせんが……しかし派手にやられたのう」


なかなかレアなボッズ師の途方にくれた顔にまた頭を下げる。俺にもわかっているが一日二日で直せるレベルでは無い。


「損耗が激しそうな歯車やピストンはいくつか複製しておいたが、外装は一から作り直しじゃのう。『ゴーヴェク』のパーツも少し流用するか」


「『ゴーヴェク』?」


聞いたことの無い名前に首をひねる俺にボッズ師は工房の奥の方を指さす。その先には銀色の鎧をまとった新しい『アルム』堂々と立っている。重厚な装甲に幅広の剣を携えた見るからに強そうな機体だ。


「もうできたんですか!」


それは、るるセンパイの指示で改造された白兵戦用の『アルム』に間違い無かった。リラバティを離れていた一週間ちょっとで完成させてしまうとは、ボッズ師達職人の凄さを改めて思い知った。


「ああ、見た目もじゃが関節もだいぶいじってある。その分重く遅くはなっているがな、地竜とやりあうなら仕方あるまいが」


「お見事な出来です。これなら味方の騎士も心強いですね!肝心の操縦士の方はこれからですが……」


「そう言えばその操縦士候補の騎士も決まったぞ」


予想外の言葉にへ?と間抜けな返事を返す俺。その俺の後ろから元気でフレッシュな声が聞こえてきた。


「騎士見習いケイスン、入ります!」


工房の入り口から入ってくるのは、確か騎士見習いの正装を着た少年だった。豊かな金髪に美しい青い瞳、線の細いそのシルエットと礼儀正しいキビキビとした所作は一見女の子にも見えるが多分違うだろう。リラバティには女性騎士はいないはずだ。


その少年は俺の前に来るとビシッと敬礼をして自己紹介をした。


「初にお目にかかります!先日騎士見習いとして入隊いたしました、ケイスンと申します。この度『ゴーヴェク』の操縦士任務を拝命致しました。今後ともよろしくお願い申し上げます!」


「はぁ、どうも……」


「お前さんが操縦を教えるんじゃよ、この子に」


状況が読めない俺にボッズ師がこっそり耳打ちをした。


「はい!?えっ!?俺が教える???」


「はい!レンタロー殿は技師でありながらこの数か月で数々の戦功を築かれたと伺っております。また、この『アルム』の操縦においても他国の戦士を退けるほどの腕前と!若輩の身で恐縮ではありますが、リラバティのために是非とも自分にその技を伝授いただきたいと思います!」


バッと頭を下げてからまた自分を見上げるその眼は真剣そのもので、興味があるからとか遊び半分とかいう気配は一切無かった。その彼の気迫に押されて断る事も問いただすことも出来ずコクコクと頷いてしまう。それを見て少年騎士は目を感激したのか眼をキラキラさせて飛びあがった


「ありがとうございます!では明朝参ります!よろしくお願い致します!!」


再び敬礼を返したケイスンと名乗った騎士見習い少年はくるりと踵を返すと年相応の身軽さで工房から出ていった。


「そんなわけじゃから、技師殿は彼の指導担当じゃな。『アルム』の方は何とかしとくワイ」


そう言うとニヤリと笑ってボッズ師は俺の肩を叩いた。







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