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不屈のゴーレム術師


 反省したらしい王の横でテステッサも苦渋の表情を見せた。


 「我々騎士団も、魔物の増加原因の調査にかまけて村の防衛をネイ士に押し付けすぎていました。しばらく休んでいただき今後は連携して任務に当たりたいと思います」


 「一応、ネイ士は無事なんですか?」


 「はい、衰弱して気を失ってはいますが。お会いになりますか?」


 俺とるるセンパイは少し顔を見合わせた。


 「ゴーレムを壊してしまった事を謝らないといけないし……お見舞いはさせていただきたいと思います」


 「ゴーレムの補修の件はお気になさらず。幸い、レンタロー殿がピンポイントで破壊して下さったおかげでそんなに費用も時間も掛からないと思いますし」


 直すのはアンタたちじゃなくてぶっ倒れてるネイ士なんだろう?と思ったが無駄にケンカを売っても仕方ないのでここは飲み込んだ。そのまま王に従いリド王国の首都へ向かい移動する。医療院に到着したころには夕方で、治療を受けたネイ士はベッドから起き上がれないものの会話できるほどには回復していた。ネイ士とオムソー王とテステッサとの話し合いが終わり、入れ替わりで病室に入る。


 「どうも、話は聞きました。……私のゴーレムがご迷惑をかけてしまったそうで、申し訳ない」


 いつぞやの勢いはどこへやら、随分と意気消沈しているのは疲れのせいだけではないだろう。深々と頭を下げるネイ士にるるセンパイが優しく声をかけた。


 「いえ、貴方も精一杯責務を果たそうと努力された結果でしょうから。どうか気になさらずに」


 「自分たちも、やむを得ない事とは言えゴーレムを多数破壊してしまいました。すみません」


 センパイと並んで俺も頭を下げる。お互い遺恨は無い事を確認すると、備え付けの椅子を勧められ俺たちは素直に座った。


 「しかし、自動迎撃モードだったとは言え10台のゴーレムを一人で止められるとは……レンタロー殿の前では大きな顔はできませんな。今新型のゴーレムを設計中なのですが、完成したら一度お手合わせ願いたいものです」


 「まぁ……機会があれば、ぜひ」


 ゴーレムは壊れてもネイ士には怪我はないだろうが、こっちはシールドや装甲板があるとはいえ生身の体が入っているのだ。あんまり気楽に引き受けたくはないが。


 「これから、どうなさるのです?」


 るるセンパイの質問にネイ士は少し考える様子を見せた。


 「まずは……体力を回復させなければ。それからゴーレムを直しつつもう少しゴーレム術師を増やせないか王や騎士団と相談しようかと」


「リド公国から離れることは考えてないと?」


センパイの意地悪な癖が出た。ネイ士はその意図を察したのかすぐに首を横に振る。


「私も一流を自認しています。ここでリドを離れればゴーレム術師の評判は地に落ちるでしょう。これ以上同志の肩身を狭くするような事はできませんから」


テンションが下がると普通に話せるのだなと余計な事を考えてしまうが、プロ魂を感じる話だった。半端な思いで魔術師をやってるのではないのだろう。そう言えばエルノパさんも結構大変な思いをして魔法の勉強をしたと言っていた。メンタルも鍛えてないとやっていけない職業なんだろう。


「素晴らしい志だと思います。ぜひこれからも頑張って下さい。何かお困りのことがあれば私にも相談ください」


「ありがたきお言葉です。今回の事、いつか恩返しさせていただきたく……」


深々と頭を下げるネイ士に別れを告げ、オムソー王とテステッサの待つ広間に帰る。量は少ないが手の込んだ軽食とワインを頂きながら大臣や重鎮達と短い会食となった。


「ゴーレムを自慢しようと思ったのにそちらの『アルム』の力を見せつけられるとは……少しは大人しく自重しろということかな」


「でも、また面白いものを手に入れたら自慢して下さるんでしょう?」


センパイのからかうような声に笑いが満ちる。


「ルルリアーナ姫君にはかないませんな陛下」


「いや、全く……あの戦力差を見せられてはゴーレム防衛を再建するのに支障が出てしまう。もちろんレンタロー殿の腕あっての事だろうが。実際操縦して、どうですかな?」


オムソー王は軽口を叩くように言っているが眼は笑っていない。隣のセンパイが周りに気付かれないようにツンツンと太ももを突っついてきた。


「そうですね……正直言って操縦は難しいです。自分は地球で大型の機械を扱った経験がありますが、それでも最初はあの狭い視界と重く使いにくいレバーではなかなか自由に動かすことすらできませんでした。できればリラバティの騎士にも使わせたいのですけれど、練習しても上手く使いこなせるかはわかりません」


大臣達から感嘆とも落胆とも言えぬため息が漏れた。ワンチャンゴーレムに代わる防衛力として考えていたのだろう。


「コストも高いですし燃料もいることを考えますと、ゴーレム術師が直接操作するゴーレムの方がいろいろ優れているかと思います。今回はゴーレムがオートで行動していたためこちらが有利だったと考えられます」


「なるほど、『アルム』を買って操縦士を育成するよりは今のままゴーレムと騎士団で防衛網を張る方が現実的と」


テステッサのコメントに俺はわざと重々しく頷いて見せた。


「個人的な見解ですが、そう思っています」


そこで『アルム』の採用の話は一旦打ち切りになった。食事を終え大臣達はそれぞれの執務に戻って行く。俺とるるセンパイはオムソー王とテステッサに挨拶して帰国することにした。


「慌ただしいな、せめて一晩泊まっていけば良いのに」


既に酔っ払い気味の王にさすがのるるセンパイも苦笑いする。


「そちらに負けず劣らず我が国も問題だらけでして」


「さようか、わざわざそんな中来てもらったのに迷惑を掛けて済まなかった。お互い忙しい身だが今後とも協力していきたいものだな」


そう言うとオムソー王はパンパンと手を叩きメイドを呼んで何かを言づけた。


「手土産替わりにラーガス豚の一級品のハムを用意した。ぜひ帰ってから召し上がって欲しい。竜の肉には負けるが我が国では最上級の肉だ」


それまで黙っていたベゥヘレムが俺の後ろでじゅるりと涎を飲んだ。お前が食ったら共食いになるんじゃないのか。


「ありがとうございます。落ち着きましたら陛下もリラバティにお越しください」


「それは嬉しいお誘いだ。楽しみにしている」


こうして、三度目のリド公国訪問は終了した。




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