辛勝
「あー、しんどい」
更に4台のゴーレムを始末したが、体力も集中力もだいぶ削られた。レバーは重いし、狭い覗き穴から相手の動きを見ながら機体を操縦して更に狙いを付けるのは足の遅いゴーレム相手でもなかなか上手くいかない。更にモーターや補助エンジンから出る熱が操縦席に充満しはじめ、サウナに入っているかのような蒸し暑さだ。エアコンが欲しい。
前髪から垂れる汗の粒を、頭をぶるぶると振るって払いのける。
(あと三台……か)
弾丸はできるだけ節約したが、残りはちょうど三発しかない。一台を一発ずつで仕留められるのか……。
グォォォォォン!
接近してきた八台目のゴーレムのパンチを、機体の右側を思い切り引き避ける。合わせて左腕のシールドをフルパワーでゴーレムの右肩に叩きつけ、バランスを崩させて転ばせる。容赦なく膝にハンドカノンを近づけて撃ち抜きこの一体も無力化した。止めていた呼吸を再開して、汗を拭いながらリロードもすませる。
「やるー!漣太郎くんカッコいいー!」
るるセンパイの黄色い声に続いて深緑騎士団や村民が歓声を上げる。完全に見物客状態だ。お前らネイ士は探してくれているんだろうな。
残った二台のゴーレムが並んで走って来た。スピードは遅いが流石に二対一は不味い。
(……やるか!)
半ばダメ元、ギアをmaxに入れて最大速度で左側のゴーレムにこちらから体当たりを仕掛ける。まともに食らってくれたゴーレムが草原にゴロゴロと転がった。覆いかぶさるようにしてカノンを向け九台目の股関節も破壊する。残るは一台、弾もなんとか一発残せて……。
バゴォォン!
起き上がろうとした俺の『アルム』がさっきのゴーレムのごとく転がる。最後のゴーレムからまともにパンチを食らったのか、思い切り操縦席を揺さぶられた。当たり所が悪かったようであちこちのギアが歪み異常を示すランプが暗い操縦席内に一斉に赤く灯り始める。
「くそったれ、まだ止まるなよ!?」
ペダルとレバーを一生懸命操作してなんとか立ち上がる。追撃してきたゴーレムの振り下ろすパンチをシールドで受けるが、何発も殴られてボコボコになっていたシールドはお役御免と歪んで脱落していった。
「漣太郎くん!」
『アルム』の正面装甲は覗き窓や乗降ハッチもあるため見た目以上に薄い。ゴーレムパンチが直撃すれば俺の体もあのシールドみたいにくちゃくちゃになってしまう。ぞっとしながら距離を取り、最後の弾丸をリロードする。
グォォォォォン!
ゴーレムが掴みかかってくる。俺は精一杯その手から逃れようとレバーをバックに入れたが、全然歩みが遅く左腕が掴まれた。さっきの一撃がで下半身にもダメージを受けていたのだ。
バキィ!と嫌な音を立てて、歯車やチューブをまき散らしながら左腕が握りつぶされる。慌てて距離を取ろうとキックを入れたが姿勢が悪く逆に跳ね返されて『アルム』はドスンと尻もちをついた。
(起き上が……れない!)
当たり所が悪かったのか、足回りの辺りからガリガリと嫌な異音が響いて動いてくれない。支えとなる左手も無く『アルム』は大砲を持つだけの木偶の坊になってしまった。狭い覗き窓の前でゴーレムが止めを刺そうと腕を振り上げるのが見えてしまった。こっちの世界に来て何度目かの死亡の覚悟をした時。
ドゴドゴドゴドゴン!!
ロックゴーレムの岩肌に何発もの火球がぶつかった。
「センパイ!」
ゴーレムの横に回り込んだるるセンパイが『メルトピアサー』で援護をしてくれた。火球は相変わらずゴーレムを破壊する事はできないが、爆圧で動きを妨害できている。
「早く!ハァ、ハァ、止めを刺して!」
『メルトピアサー』の火球攻撃は反動の制御もあり結構体力を使うと聞いた。十発以上も連射すれば相当な疲労に違いない。俺は急いで右腕の操作レバーで狙いを付ける。
(悪く思うなよ!)
俺は目の前のゴーレムと、あの陰気なネイ士の顔を思い浮かべながら引き金を引いた。砲弾が踏ん張っている最後のゴーレムの左膝を打ち砕く。片足となったゴーレムは自重を支えきれず、巨体を草原に沈めた。
「ああ、死ぬかと思った」
外から歪んだハッチを開けてもらい、やっと蒸し暑い操縦席から解放された俺は存分に深呼吸をした。降りて外から『アルム』を見ると思った以上に全身がボコボコにされていた。デビュー戦というのにずいぶん酷い有様だが直せばなんとか元通りになりそうではある。ホッと胸をなで下ろして俺はセンパイや助けてくれた深緑騎士団にお礼を言った。
「ありがとうございました。おかげで死なずにすみました」
「こんなところで漣太郎くんに昇天されたら困っちゃうからね」
その言葉が俺への愛情からなのか、リラバティのためなのかが見抜けないところが俺の未熟なところなのだろうか。とりあえず俺は気になることを質問した。
「それで、ネイ士は見つかったんですか?まさかストレスで国家反逆したとか……」
ちらりとオムソー王の方を見ると、王は不服そうにゴホンと咳ばらいをした。代わって騎士隊長テステッサが口を開く。
「見つかりました……反逆では無いですがストレスというか過労というか、とにかく倒れられていて今医療の奇跡が使える神父のところに搬送されています」
「どういうことですか?」
話を聞くと、ネイ士は宮殿の地下室で泡を吹いてぶっ倒れていたそうだ。ここのところ昼夜を問わず魔物の襲撃が散発的に続いていてその度にゴーレムが防衛に出撃していたらしい。そういう契約なので文句も言えないだろうが、10台のゴーレムを寝ずに常時管理運用していたらそりゃ倒れても不思議じゃない。
「そもそも、なんで10台も作らせたんですか」
るるセンパイが少し非難するようにオムソー王を見た。王もバツが悪そうに頭を掻く。
「いや、最初はヤツが一台じゃ防衛範囲やメンテナンスの面で困ると言うからな、じゃあ何台か作っていいと許可を出したんだ。そしたら士が楽しくどんどん作り始めてかなり防衛費を使いこんだのでな、そんなに作ったのだからもう他にゴーレム術師を雇う金も無いし警備隊を配置することもできんぞ……と」
「何というか、雑な駆け引きじゃのう」
ベゥヘレムが身もふたもない事を言った。おおむね俺も同意見ではあるが。




