アルム実戦投入!
「アレって……『アレ』ですか!?」
るるセンパイの指差す先にはここまで慣らしで持ってきた『アルム』があった。
「でも、アレは慣らしで持って来ただけで……ここで戦ってあのゴーレム達と対等以上に戦えるかわからないですよ!もし壊されたら……」
「そしたら『アルム』よりゴーレムの方が優秀なんだから、ウチもそう切り替えるしかないでしょ」
「……その場合、俺の生命の保証は誰がしてくれるんですか」
俺の真剣な問いにセンパイはニッコリと笑って肩を叩いてくれた。
「頑張って★」
ガックリと膝から地に落ちる俺。
「緊急事態なんだからさっさと立つ!無理はしなくていいんだからね!」
とうとうセンパイは俺を置いて『パステルツェン』に走っていってしまった。確かに緊急事態と言うのはその通りなんだが。
(俺だってコイツには全然慣れちゃいないんですよ、センパイ!)
まともに乗ったのはゾラステアでハーシャと模擬戦して以来。しかも前に乗った時と違い今の『アルム』は銃撃戦仕様になっている。俺はまだコイツに乗って銃一発撃った事も無いのに、あのロックゴーレムを止められるだろうか。
悩みながらもハッチを開き操縦席に乗り込む。さっきまで歩行させていたので各動力系はすぐに動かせそうだ。燃料も……今のところは問題無い。
(でも、あの数の深緑騎士団にロックゴーレムを止められるはずも無いし……やるしかない、か!)
ふと、手首に付けたお守りが目に入る。ゾラステアでハーシャにプレゼントされた鷹の手のお守り。
「俺に本当にそんな才能があるなら……やって見せろよ、漣太郎」
小さく自分にハッパをかけ、起動レバーを引き上げる。ウィィィィ……と魔鉱石モーターが予備運転に入り、暗い操縦席のそこら中にあるアナログなメーターの針がブン、と触れた。スチームエンジンの排気が操縦席に少し漏れて独特の臭気が鼻に入ってくる。
俺は正面ハッチのスリットから見える狭い視界に注意しながら俺は『アルム』を暴れまわるゴーレムの群れに向けた。
「レンタロー殿!やれるのか!?」
オムソー王が馬で走り寄りながら声を上げた。外部拡声器のスイッチを入れる。
「ぶっつけ本番で使うので自信がありません!テステッサさん達に巻き込まれ無いよう指示をお願いします!」
「わ、わかった!気をつけて行くのだぞ!」
返事の代わりにハンドカノンを構える。一台のゴーレムがこちらに気づき、腕を振り上げて近寄ってきた。
(岩人形なんかにむざむざやられてたまるかよ!!)
レバーとペダルを繰り、ゴーレムを射線に入れるよう横にステップを踏ませる。緊張で速くなる心臓の鼓動を無理やり無視しながら、両足を固定、狭い覗き穴から照準をつけ……トリガーボタンを押す!
ガゥン!!
ハンドカノンが轟音と共に火を噴き砲口から弾丸、いや砲弾が発射された。反動で『アルム』の右腕が跳ね上がる。俺は迂闊にも衝撃に目をつむってしまった。
(当たったか!?)
砲口から噴き出た煙が風に流され、視界が広がる。ロックゴーレムに命中した砲弾はごっそりとその脇腹を削っていた。
「おおぅ……」
威力があるのはありがたいが、予想以上だ。これは慎重に使わないと味方になんか当たったら目も当てられない事になるだろう。
グォォォォォ……。
脇腹を失いバランスを崩しつつもゴーレムはまだ近寄ってきた。俺は慌ててリロードレバーを引きながら左腕のシールドを掲げる。
ガキィィィン!
(重い!)
岩の塊とも言える剛腕を受け止めたが、操縦席にまでその振動が伝わってきた。関節の負荷を示すメーターが一気にレッドゾーン近くまで跳ね上がる。
「接近戦は……ダメだ!」
ハンドカノンをゴーレムの左ひざに密着させる。引き金と共に再び砲弾が発射され、ロックゴーレムの左脚はあえなく破壊された。片足になったゴーレムは地に伏してなおうごめいているが、移動する事はできなくなったようだ。これならとりあえずは村を襲う事は無いだろう。
他のゴーレムもこちらに狙いを定め始めた。魔物はもう戦意を失い撤退を始めている。
(根性のない奴らめ!)
我ながら好き勝手な事を言っていると思うが、こっちだって大変なのだ。もう少し頑張って欲しかった。やむなくリロードレバーを引いてハンドカノンを近くのゴーレムに向ける。弾丸は、あと12発。
グォォォォォン!
ゴーレムが吼える。何故吼える機能があるのかは今は問うまい。機会があれば後でネイ士に聞いてみよう。俺が無事にこの局面を切り抜けられたらの話だが。
接近するゴーレムに照準を付ける。自分の腕で直接銃を握るのではなく、巨大な歯車とモーターを通して精密な照準を付けるのは非常に困難な作業だった。
しかも戦場では敵はのんびりと狙われるのを待ってくれない。
(動きが鈍いロックゴーレムだから狙えてはいるが……!)
ガゥン!
右股関節に命中。足は千切れなかったものの歩行能力は奪い取れたようだ。ドスンと各座したゴーレムに躓いて後ろのゴーレムも倒れたのでラッキーとばかりにコイツも片足を殺しておく。なんか泥臭くてかっこ悪いと自分でも思うが、弾の節約のためにも仕方ない。ロボットアニメみたいにバンバン連射してたら砲身が熱で歪みそうだし。
「調子良さそうじゃん、漣太郎くん」
操縦席内にるるセンパイの言葉が響いた。センパイの装着している『竜纏鎧』のクラウンを介して無線通信をしているからだ。元々は竜姫士同士の通信(るるセンパイとミティはこの機能で約1km程の距離まで通信可能らしい)に使われている竜素材のアンテナをヘッドレストの後ろに組み込んだだけなのだが、意外と使い勝手は良さそうだ。
「全部まぐれ当たりですよ」
「まぐれっていうのは、続かないものよ」
とう!と飛びあがったるるセンパイの槍から火球が降り注ぎゴーレムの表面を焼いた。しかしドラゴレッグをも焼き殺す高熱の火球はゴーレムの表面を黒く焦がした位で動きを止めることはできない。
「あらら、今日の私、役立たず?」
「自慢の竜槍術でなんとかならないんすか?」
「こんな堅いのにかましてたら腱鞘炎になっちゃうよ」
そういう問題?とも思ったが、無理させてケガをされてもしょうがない。俺は諦めて次のゴーレムに狙いを付けた。




