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再開と動乱


道中は特に問題もなく、俺は持ってきたセンパイのメルトピアサーの手入れをしながら旅の時間を過ごした。使ったのはウヴェンドス戦、地竜戦、そしてこの前の飛面族との戦いくらいだが竜との戦いでのダメージは大きく結構傷や歪みが目立ってきている。


特に肩のウィングは『竜槍術』の要となるためスムーズな稼働を保つのは必須だ。歯車のビスを締め直し、竜血の漏れているチューブも新しいものに交換する。それから上質の油をたっぷりとしみこませた布で外装を磨く。金属部分だけでなく素材の鱗や角、竜石の傷みも防ぐためだ。これをやっているだけで二、三日が終わってしまう。


合間合間に『アルム』の調子も見る。長時間の歩行も考えられた設計のようでこちらは遊びが大きくなったり油漏れが出たりはしていないようだ。しかし途中で降った雨が漏れて操縦席や間接のいくつかを濡らしてしまっていた。これは帰ってから直さなければいけない。燃料となる魔炎石の消費も結構大きく、これでは持ってきた分で往復して少し残るかどうか程度だ。


俺が一生懸命働いている間、バックギャモンみたいなゲームに興じている二人には何か腑に落ちない物を感じたが(るるセンパイだって大量の書類仕事があるはずなのだが)俺は大人らしくグッと飲み込んだ。そのうち中間職の親父のように胃潰瘍になるかもしれない。


ともあれ、あのゴーレムが守っている村が見えてきた。その上にはいくつかの白い千切れ雲と青空が広がっており、いかにものどかな田舎という感じである。

俺が窓のその光景から視線を槍に戻しもう少し手入れを続けようとすると、二階の方からるるセンパイの声がした。


「何かたくさんいるよ、漣太郎くん」


「へ?」


センパイの言葉に双眼鏡を持ちバルコニーに向かう。村の方を見ると、以前は一体だけだったゴーレム……ナントカカントカ・マークツーが10体くらいになって周囲を守っている。


「ゴーレム術者を増やしたんでしょうか」


「手紙にはそんな事書いてなかったけど、でもいくらなんでもあの変人一人であれだけ動かすのはキツいんじゃないかな」


変態と呼びはすれど、センパイはあのネイ士にそれほど嫌悪感は抱いてないようだ。


「あれは古代王国式のロックゴーレムじゃな。重いが堅実な作りで作成にも知識と技術が備わっていないと作れん代物じゃ」


「わかるのベゥヘレム」


センパイの驚いた顔に、俺の肩に降りながら豚がドヤ顔を返す。


「まぁな。ゴーレム技術も日々進化していて、活発なところでは金属板を主にした軽量・高速型のゴーレム……ちょうどその馬達のような作りが流行っているらしいが、実際のところ純に魔物との戦闘となれば重さと壊れにくさを誇る旧来のロックゴーレムが未だに有利らしい」


聞きかじりだけでは無いらしいその博識ぶりに俺もるるセンパイも思わずおお~と感嘆の声を漏らした。その俺たちの所へ数騎の馬が近づいてくる。


「お久しぶりです、度々お越しいただきすみません」


先頭にいるのはあの深緑騎士団の騎士長、テステッサ。そしていつぞや見た四人ほどの部下と、最後にオムソー王が姿を見せた。俺たちも『パステルツェン』から降りて挨拶を返す。


「先日は済まなかったね、姫君。今日も大変お麗しい」


「……どうもありがとうございます。お体の方はもうよろしいので?先日捕れた竜の肝をお持ちしましたが」


「おかげさまでだいぶ持ち直してきたが、せっかくの心遣いありがたく頂戴します。さすが竜狩りの国の姫ですな」


ハッハッと高笑いする王様。有能なのは理解しているが時々アホっぽいリアクションをするのは計算なのか天然なのか。


「天然なんじゃない、アレ」


るるセンパイが俺の心を読んだかのようにボソッと呟いた。


「ところで、ゴーレム術者のネイ士はどちらに?」


「ああ、見てのとおりゴーレムを量産したのだが、流石にそのコントロールのために集中したいと言って宮殿の地下室に引きこもられてしまったよ。陰気な事だなと思うが、本人の希望では仕方のないことだ」


まさかと思ったがネイ士は本当にあの10体のゴーレムを一人で操作しているらしい。確か自分で遠隔操作をしていると言っていたが、10体も同時リンクなんかして大丈夫なんだろうか。


俺とるるセンパイが一瞬言葉を失っていると、村から少し離れた森の中から人ならざる者の雄たけびが聞こえてきた。


「何だ!?」


ざわめく森の中からドッと大量の影が飛び出してきた。黒子鬼にヒルオーガ、二本足で武器を持った狼男のような魔物の集団で総勢20以上はいるように見える。俺もセンパイも慌てて武器を手に取ろうとするが、オムソー王は一切慌てた様子がない。


「まぁまぁ、最近よくある襲撃のようだ。ここは我が国のゴーレム防衛隊の力を御覧にいれましょう。テステッサ、念のために村人の避難を」


「かしこまりました」


ネイ士の姿は無いが、ゴーレム達は魔物に反応し村を守るように動き出す。オムソー王はゴーレムの性能を完全に信頼しているようだ。確かにあの性能を見ればこのくらいの魔物なら問題なく方付けられるのだろうが……どうにも嫌な予感がする。それはセンパイも同じようで、いつになく真剣な顔で戦場を見守っていた。


果たして、ゴーレムと魔物たちはぶつかり合った。非力な黒子鬼達からなぎ倒され、体格に劣る狼男も武器が通じずにひるんでいる。オーガ達はなんとかゴーレムとやりあっているがいかんせん数が足りない。ものの10分もしないうちに黒子鬼や弱気な狼男敗走を始め、余裕の勝利かと思われた時。


グォォォォォン!


一体のゴーレムが唸りを上げたかと思うと、急に両腕をぐるぐると振り回しながら走り出し隣のゴーレムとぶつかって絡み合いながら倒れた。


「!?」


さらに他のゴーレムもオーガのみならず村の柵や村人を避難させていたテステッサの部下にも拳を振るい始めた。見る見る間に戦場は混乱し、もはやまともに稼働しているゴーレムは無い。全部が全部無秩序に暴走している。


「何だ何だ、どうしたんだ!」


不測の事態に流石のオムソー王も慌て叫んだ。当然テステッサ達も理由がわかるはずもなく、王様以下皆オロオロしている。


「どうします?センパイ」


「仕方ない……事情はわからないけど叩き壊すか。着替えてくるから漣太郎くんはその間時間を稼いでおいて」


「どうやってですか!」


センパイの無茶ブリに慌てて講義をする。いくらなんでもロプノール一挺であのゴーレム達を止めるのは無理があるってものだ。だがるるセンパイは全く動じずに馬車の方を指さした。


「アレがあるじゃない」








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