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アルム改造計画


「どうなさいます?」


会談後、リンカ族を残して城に戻るるるセンパイにグレッソン大臣が耳打ちするように聞いた。るるセンパイはそれを跳ね除けるように髪を掻きあげている。


「追い返すわけにわけにいかないし、放逐したらトラブルの種になりかねないわ。しばらくは城の南側の空き地でケガを癒してもらいながら、彼ら自身にも今後の進退について考えてもらいましょう」


「……ゴーフトはプライドの高い一族です。いずれ雪辱を晴らすために戻るでしょう」


「そこまでは面倒見る気はないわ、流石にね。必要なものがあれば用意させるから誰かターニア以外でリンカ族に付けられる子を選んでおいて。あと、ミティはいる?」


「ここに」


シュッと忍者らしく急に姿を現すミティ。おそらくだが天井から降ってきたようだ。常にセンパイの頭上で控えているのかと考えると怖いものがある。


「仕事の話ばかりでゴメンネ。またミティの兄弟の力を借りたいんだけど」


「なんなりとお申し付けください姫様!」


まるで近所にお使いに行く子供のような気軽さで答えるミティ。


「飛面族の調査を頼みたいの。何でリンカ族を襲ったのか、詳しい事情が気になるわ。危険だと思うけどなるべく早く……頼めるかしら」


「御意でございます!」


それだけ答えるとまた霞のように消え去っていく。一応天井も見たが今度はそこには彼女の姿は無かった。センパイが口に手を当てて消えたミティに声をかける。


「今度またホットケーキ食べに行こうね!……あと、漣太郎くん」


「へっ、はっ、はい。なんですか?」


思わぬタイミングでセンパイから急に名を呼ばれて、どもりながら返事をした。


「ちょっとトラブルが挟まっちゃったけど、予定通り『アルム』の改造に入ってちょうだい。一台は地竜対策用の接近戦、もう一台は漣太郎くんの使いやすいように。あと一台はスペアで」


「もう一台は?」


「ボッズ爺さん達が楽しくバラしてる頃じゃない?仕組みが分かればウチで量産できるかもしれないし、少なくとも修理のために調べておかないと」


「なるほど」


脳裏に工房のみんなが遊び半分であのロボットをバラバラにしている光景が目に浮かぶ。


「時は金なりよ。ワタシも近くで作業できるようにするから、急いでね」


「わかりました!」









工房にちゃんと仕事をしに来るのは久しぶりな気がする。その工房では、予想通り一台の『アルム』がもはや鉄骨状態で天井から吊るされて、装甲やら歯車やらが床一杯に並べられていた。バラしてみると結構な量の部品を使っていることが分かる。自動車一台分くらいは余裕であるだろう。


「久しいな、技師殿」


老齢の地人、ボッズ師が相変わらずの豊かな顎髭を撫でながら笑顔でやってきた。まるでおもちゃで好き勝手に遊ぶ子供のような表情だ。


「楽しそうですね」


「年甲斐も無く、な。姫様からは一台は好きにしていいとうかがっているが、他のモノはどうする?」


「一台は、騎士団の中から若くて器用な騎士を乗せて地竜と戦うための機械騎士にするらしいです」


「ほう」


ボッズ師が工房の奥に狭そうに並ぶ残り三台を見た。いずれも買った時のまま、簡単な盾と槍を装備している。


「スピードや小回りより、装甲と馬力を強化したいです。盾を大きく分厚くして、武器も鱗を叩き切れる厚い大剣……とか」


「それだと流石に肘関節が持たん。見たところ馬力を引きあげてもあの槍五本分しか重量余剰がなさそうじゃ。大剣一つ持つのが現実的じゃな」


ボッズ師の言葉に俺は脳の中のアイデア箱を掻きまわした。その中で、一つ引っかかるものが口をついて出る。


「いっそ……刃の広い、攻防に使えるような武器はどうですかね。斧と剣の合いの子みたいな」


「なんじゃと?」


ピンと来ていないボッズ師の前で俺はペンを取り簡単な図を描く。いわゆるグレートソードという両手用の大剣の刃を左右にさらに引き延ばし、その刃の真ん中にくぼみを描いて持ち手を加える。


「ここを左手で持てば、ちょっとした盾になるんじゃないですか?」


「機械兵士ならでは……というか、技師殿はやはり妙なものを思いつくのう」


もう少し形は練る必要があるが……と言いつつボッズ師は弟子を呼び俺の絵を元にプロトタイプを作る指示を出した。


「あとは、前面を中心に装甲の底上げくらいじゃな。で、技師殿の機体はどうする?」


「ゾラステアで片手用のハンドカノンって砲を買って来ました。これを右手に持って、左手は装填しながら盾も持てるようにしたいです。出力は今のままで……逃げ足も確保したいので」


「騎士の風上にも置けぬ仕様じゃな」


意地悪く言うボッズ師に俺は苦笑いした。


「勘弁してください。俺は矢面に立って戦いに来たわけじゃないんです」


「しかし、地球人とは言えあれだけ姫様にべったりでは他の近衛騎士の面目が立たん。大臣は近々技師殿に騎士叙勲をする手配をしているらしいぞ」


「本当ですか?」


思いもしなかった話にペンを取り落としそうになる。騎士という響きはカッコいいと思うが、現実になれば相応の責任とかもあるのだろう。面倒くさいことが嫌いな俺は露骨に苦い顔をしてしまった。


「詳しくはグレッソン本人に聞くんじゃな。先に技師殿の機体の改造から入ろう。こちらの方が早そうじゃからな」


「よろしくお願いします」


俺はふと工房の端に鎮座している作りかけのウヴェンドスの『竜纏鎧』を見た。本当ならあちらを先に完成させたいのだが、ウィングや竜石の配置がまだ定まらないせいで全然進んでいない。レガシーワイバーンよりパワーがあるために逆に各パーツの配置に気をつけないと、バランスを崩して『竜槍術』どころか真っ逆さまに墜落しかねない鎧になってしまう。


幸運にも今はまだウヴェンドス級の竜は近くに現れていないため、それなら俺の方の攻撃力を延ばすのが現実的だろうというわけだ。毎度毎度飛行カゴに乗って竜の顔面まで突撃してたら命がいくつあっても足りない。


(今は、エルノパさんもいないしな……)


無いものねだりをしても仕方ないのだが、一度その恩恵に預かってしまうとどうしてもまた甘えたくなってしまう。というか次同じような局面に遭遇したらという恐怖が拭えないのか。


「結局、人事を尽くして……って事だよな」


センパイはよくこんな世界で頑張ってるもんだ。








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