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リンカ族のテ・レト


「りゃあああああっ!」


気合と共にセンパイが飛面族の胸に槍の石突を叩き込む。穂先ではないとはいえ、『メルトピアサー』のスピードで突かれれば軽傷では済まないはずだ。緑色の肌の男が地面に叩きつけられピクピクとうごめいている。


さらに飛び上がり飛面族の集団の中に燃え盛る火球をぶち込んだ。直撃したものはいなかったようだが、体毛や羽、仮面を焦がされて三人ほどが逃げまどっている。


(一応、手加減しているんだろうけど)


俺は俺で、弓を持っているアルパウロスへ近づく連中にけん制射撃を続けていた。流石に銃撃は無視できないらしく、ギリギリ足元を撃てばひるんでくれる。


「……ん?」


リラバティ騎士団の介入もあり、戦闘が収束に向かいかけてきた。薄まる土煙の中で一人のアルパカ男の剣士がひと際大きい飛面族と対峙しているのが目に入る。いつしか周りのアルパウロスや飛面族も動きを止めその戦いを見守っていた。


(リーダー同士の対決か?)


詳細はわからなかったが、その二人の佇まいからはカリスマ的なものを感じる。


飛面族が動いた。低空で飛びかかり鋭い爪を突き立てる。アルパカ剣士も剣を立てて身を引きながらその爪をはじいた。チィ……ン!と嫌な音を立てて互いの獲物が跳ね返り二人が交錯する。


「シャァ!」


さらに飛面族が先手を取る。体勢の整っていないアルパカ剣士の左腕に爪が食い込むが、かすり傷のところで剣が爪を払いのけた。流れる赤い血に周りのアルパウロスから悲鳴とどよめきが洩れる。


しかし当の剣士はあくまで冷静を保とうとしていた。腕は立つようだが決してベテランではなく、その横顔はまだ若い。強い精神力で集中を切らさないようにしているのだろう。


再三、飛面族が飛び込みをかける。そして直後、剣士も踏み込んだ。相手の突きに自分から突き刺さりに行く程のスピードだ。逆に飛面族はまだ速度が上がりきっていない。互いが激突する寸前、剣士が下手から思い切り剣を振り上げる!


ズ……バッ!


肉に刃物が食い込む嫌な音が響きわたった。剣が飛面族の両腕を一撃で切り落としたのだ。左右の肘から派手に出血し痛みに絶叫する飛面族を、周りの仲間が回収し一斉に撤退した。それを見送ると同時にアルパカ一同が歓喜の声を上げて剣士に集まる。


(若い割には腕が立つみたいだな……度胸もある)


「何とかこの場は収まったようね」


シュッとセンパイが俺の横に降りてきた。疲労もあるのかもしれないが、どちらかというとこの後の処理のことに悩んでいるような顔だった。


「あのぴょんぴょん仮面族はそんなに乱暴な連中なんですか?」


「詳しくはないけど、他の部族と衝突したとかはあまり聞かないなぁ……面倒な事になるかも。とりあえずは話を聞くけど、どうなるかな」


熱狂して勝どきを上げるアルパカ一同を見るセンパイの目はあくまでクレバーだった。


やがて落ち着いたらしいアルパウロス達が集まってセンパイの方へやってきた。全員が全員、傷を負っていないものはない。戦士だけの集団に見えるが女性らしい姿もあった。一応念のために騎士団もるる姫様の周りに控えている。


「助けていただき、ありがとうございました」


挿絵(By みてみん)


先ほどの一騎打ちをした剣士が一歩前に出てるるセンパイに頭を下げた。テステッサとは違う、溌溂とした爽やかさが印象的な若者だ。それでいてリーダーの自覚のある顔でもある。あと下半身を包むアルパカの体毛そっくりの髪の毛も気になるがそれは(強弱あるとは言え)一族共通の特徴のようだった。


「リラバティ王、ルルリアーナです。救援が間に合ったようで、まずは良かった」


センパイが姫様の顔になって握手をする。アルパカ剣士は流石に王族自ら救援に来るとは思わなかったのっだろう、目を丸くして慌てて膝を折った。後ろに控えた女性もそれに倣う。


「失礼いたしました!その……国王様とは知らず無礼な振る舞い、お許しください」


「気になさらず楽にしてください。私も帰国の途中偶然居合わせただけですから」


「ハッ……」


るるセンパイの言葉にアルパカ剣士は姿勢を戻し、汗を拭こうとして何も持っていない事に気づき頭を掻いた。後の女性から白いハンカチを渡され呼吸を整えながら口を開く。


「私は見てのとおりゴーフト……リンカ族の長テ・キトの子、テ・レトと申します。父は先日の飛面族の襲撃に抵抗し……戦死したため、私が一族の生き残りを連れ、この地まで来ました」


「それは……大変でした。お父様のこと、無念でございましょう」


「はい……今までも小競り合いはありましたが、ここまで大掛かりな攻撃は口伝にもありませんでした。何より奴らの形相……まるで何かに追い詰められたかのように我々に襲い掛かってきたのです。父を含む戦士の大半は抵抗しましたがその数を抑えきれず……私は父の言葉に従い戦えぬ者を連れて故郷を出ました。まさかここまで追ってくるとは……」


力なく説明をするごとにアルパカ剣士、テ・レトの顔がうつむく。相当辛い目にあったのだろう、後ろの女性や他の仲間も涙を流し始めた。


「まずはリラバティまで参りましょう。その傷を癒さねばなりません。怪我の重いものはあの馬車で……他の仲間は?」


「先に城に向かっております、全部で30名程と……」


ツェリバがセンパイにそっと伝える。センパイは頷くと怪我人に血止めの手当てをするように指示し、俺にも『パステルツェン』を近くまで回すよう言った。アルパカ一族……リンカ族は緊張の糸が切れたのか涙に臥せる者も多く、テ・レトも彼らに声をかけることができないでいる。


(深刻な事態になってきたな……)


竜退治以外に難しい問題が増えてきたことに俺も内心苦い顔をするしかなかった。




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