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仲直りとフグ焼き


「負けたわ……悪運の強い相手には歯向かわないことにしてるの」


操縦席から降りたハーシャが苦笑しながら握手を求めてきた。握り返すと、一見華奢そうなその手のひらはごつごつしていて戦士として日が浅いわけではないと言うのが感じられた。


「やーね、実力よ実力。ね、漣太郎くん」


何もしていないのに勝ち誇った顔をするるるセンパイはこの際するーしておいた。


「いや、本気で敵わないと思いました。ハーシャさんは何度も『アルム』で戦ったことが?」


「まぁね……丁度いいや、お腹も減ったし一緒にご飯食べに行かない?ちょっとはコツを教えてあげるわ。そっちのお嬢様が嫌じゃなければね」


「……敵に塩を送るなんて、殊勝な心掛けじゃない」


「塩がどうしたって?」


ハーシャさんには日本のことわざは通じなかったようだ。センパイはイマイチ面白くなさそうにため息をついた。


「いいわ、漣太郎くんのためにもなりそうだし。でもなんでそんな親切にしてくれるの?」


「自分を負かした男には強くなってもらいたいってのがオンナの本音じゃない?」


今度はセンパイが苦笑しながら肩をすくめた。俺にはわからないがどうやら二人の意見が一致したらしい。売り場のオッサンには『アルム』をリラバティまで搬送するよう手配をして、繁華街の方へ三人で繰り出す。


ゾラステアの繁華街は中々カオスだった。狭い通路から蛇のように大小の配管が道を横切っている間にのれんや看板が顔をのぞかせている。その看板も木彫りのものや立派な金属製のもの、布に筆で書きなぐったものなど実に多国籍感ある。


「ここにしようか」


街に多少詳しいらしいハーシャに従って俺たちは年季の入った暖簾をくぐった。お好み焼きの店に近いが、俺たちのテーブルの上にはたい焼きの型みたいな鉄板があった。しかし掘られている魚はフグそっくりだったが。ディアスフィアに来た日本人が伝授したものに違いないだろう。


「自分で具材を選んでね、ここにタネと入れて焼くの。美味しいわよ」


「つまりセルフたい焼きってことですかね」


「どっちかっていうとフグ焼きじゃないかしら」


恐る恐るクリームとかチョコっぽいのを入れていくるるセンパイと俺。たい焼きは素人には難しいと聞いたがハーシャは構わず辛い野菜や肉なんかを放り込んでいく。たまにテレビで見る海外アレンジされる日本食みたいだ。


独特のツンと鼻に来る油のにおいが狭い店内に満ちてきた。ゴン、と鉄板を重ね合わせて焼けるのを待つ。その間にハーシャはアルムの操縦についていろいろとアドバイスをくれた。


「そもそも『アルム』は巨人族や凶暴な大型獣との戦いのために作られた兵器なの。今では『アルム』同士で大掛かりな戦争を始めようとしている国もあるけどね。この大陸じゃまだまだマイナーみたいだね」


「実物を見たのは初めてね。地竜との戦いに使えればと思ったんだけど」


「あー、地竜ねぇ……期待する気持ちはわかるなー」


あむ、と焼けたたい……フグ焼きを齧るハーシャ。


「じゃあこの街で『アルム』用のハンドカノンを買ったら?キミ、“鷹の手”を持っていそうだし」


「“鷹の手”?」


聞き慣れない単語だった。


「生まれつきの才能なのか身につけた技術なのかはわからないけど、世の中にごくまれにいるのよ。妙に矢が獲物に刺さる狩人や弓兵士が。そういうのをウチの生まれたあたりじゃ“鷹の手”って呼ぶの。レンタローにもそういうの、感じるな」


面白そうに俺の手を見るハーシャ。センパイも妙にハーシャの言葉に頷いている。


「確かに、大して練習もしてないのに射撃の腕良いよね」


俺はロプノールを出してしみじみと眺めた。銃を扱ったのはこちらの世界に来てからだが、妙に狙い通り当たるとは思っていた。しかしそれはだいたいの敵がデカいからと勝手に納得していたのだが。


(“鷹の手”か……確かに「ここだ!」ってカンが冴える時もあるけど)


俺にそんな特殊な能力があるとは思えない。そんな俺の気持ちをよそに、ハーシャはロプノールをしみじみと眺めた。


「キミ、古い銃を使っているのねぇ……威力はありそうだけど」


「ハーシャはこれからどうするの?」


るるセンパイもフグ焼きをふーふー冷ましながら食べ始めた。皮はもさもさしているがまぁ不味いほどではない。


「ウチは流れのハンターだから……どこかで『アルム』を買ってまた狩りに行くわ。愛機がこないだ寿命で壊れちゃってね」


「ハンター生活は長いの?」


「子供のころにはもう大人たちに混じってラヴァバイソン狩りの手伝いをさせられてたわ。十三で『アルム』の使い方を覚えてもう三年か。やっと一人前になってきたかなぁって感じ」


思っていたよりかなりのベテランを相手にしていたらしい。改めて今日の幸運に感謝しながら最後のフグ焼き?を食べ終わった。


「あ」


店の前の土産物の屋台でハーシャが何かを見つけたらしく、素早く駆け寄って買い物をした。


「これあげる」


差し出されたそれは、あざやかな紐で編まれたミサンガのような物だった。ハーシャは俺の右手を取り手首にそれを巻き付ける。


「何ですか、これ?」


「お守り。ウチの里の“鷹の手”の人はみんな巻いてるんだ」


「ハーシャさんは、俺に本当にそんな才能があるって……」


「思ってるよ」


お守りを巻き終えたハーシャはニコッと笑って俺から離れた。高いものでもなさそうだしありがたくもらっておくことにしよう。


「すいません、期待に添えるよう頑張ります」


「うんうん、頑張りたまえよ。ところでレンタロー達はこれからどうするの?」


「私たちも国へ帰るわ。お仕事たんまり溜まってるから」


「商売は大変だもんね。いつかまた会いましょうね」


勘定を支払って俺たちは店の前で別れた。長いポニテをぶらぶらさせながら去っていくハーシャを二人で見送る。


「感じがいいというか、気前のいい人でしたね」


「……一台くらい譲ってあげてもよかったかしら」


「別れてから言っても遅いですよセンパイ」


「商売人だからね」


そう言ってるるセンパイはイタズラが成功した時の子供みたいに笑った。



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