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唐突に模擬戦



女の子の歳は俺と同じくらいだろうか。ツナギっぽい作業服の上に簡易な鎧をつけるという不思議な格好をしていた。紺色の長い髪を乱雑に後ろでまとめているのと、勝気な釣り気味の大きな瞳が印象的だった。

その女の子がビシッと俺たちに指を向ける。


「何さっさと買い占めてるのよ!ウチもわざわざロンダヌスから話を聞きつけて買いに来たっていうのに!」


ロンダヌスという国は聞いたことがある。確かリド公国よりはるかに東にある国だ。地図でもギリギリに書いてある事が多いので馬車で来たって数か月はかかるだろう、本当ならご苦労な事である。


「そんな事言っても、商売は早い者勝ちよお嬢さん」


センパイはセンパイで譲る気はさらさら無いらしい。一台くらい融通してあげてもいいのに。


「と言われて素直に引き下がるようじゃ今時やってけないのよね。オジサン、さらに100乗せるわ。私に二台売ってちょうだい」


「なっ!」


女の子の割り込み商談に一気に気色ばむるるセンパイ。


「ちょっと!せっかくいい感じに値切れたんだから話をこじれさせないでよ!」


「素直に二台で諦めればいいじゃない。ウチも四台買い占めようなんて強欲な事は言わないからさ」


「誰が強欲なのよ!だいたいコレ使いこなせるの!?」


「ロンダヌスのハーシャを舐めないでくれる?『アルム』くらい乗ったことあるわよ。そっちこそ宝の持ち腐れになるんじゃないの!?」


「そっちこそグンマの漣太郎を舐めない事ね!トラクターからショベルカーまで自由自在よ!」


別に地元で名を上げた覚えはないし、トラクターはともかくショベルカーを使った覚えもない。


「まぁまぁ、じゃあこうしたらどうだろう」


揉める二人の客に困ったのか、商人のオジサンが仲介に入ってきた。


「この『アルム』で模擬戦をするんだ。それで勝った方が決める。もちろん壊したら修理費はそっちでもってもらうが」


「いいわ」


「こっちもいいわよ」


速攻で商人の案を飲む女二人。


「ちょっと待ってくださいよセンパイ!」


慌てて声をかける俺を無視してるるセンパイは広場にある柱につけられた時計を指さした。


「14時まで時間をあげるわ、せいぜい準備運動でもすることね!」


時計の針は20分前を示している。それを見てハーシャと名乗った女の子はニヤリと不敵に笑った。


「そっちこそガチガチの初心者なんでしょ?夜中まで待ってあげてもいいのよ」


「そんな事したら万一にもそっちに勝ち目無くなるわ。勝負はハンデがあるくらいが楽しめるからね」


お互いに高笑いしながら背中を向ける二人。流石に俺も我慢できなくなりセンパイの肩を掴んだ。


「ちょっと勝手に決めないでくださいよセンパイ!」


「漣太郎くんなら大丈夫よ、私、信じてるもん」


「そのセリフ自体は嬉しいんですけど、流石に無理ですよ。向こう経験者なんでしょう?」


「いい実戦経験になるじゃない。ほら、早く操縦に慣れよう?」


ウキウキと『アルム』の方へ向かうセンパイ。本当に楽しんでいるようでちょっとイラっとしたがもう引き下がれないようだ。俺は仕方なくマニュアルを手に操縦席に入り込んだ。







それから20分弱、基礎の動き方をオジサンに教わって何とか自由に歩けるようにはなった。しかし戦うとなると話は別だ。用意された木製の槍を『アルム』に持ち上げさせて両手に構えるがスムーズに突きを出せるほど慣れていない。


(こんなんで勝てるのか……?)


逡巡しているうちに時間が来てしまった。気がついたら周りには野次馬がわんさか集まっていてどっちが勝つかで賭けもまで行われているようだった。よーく見るとるるセンパイまで賭け札を握っている。狭い操縦席でため息をついていると対峙するハーシャの『アルム』からスピーカーで拡大された声が聞こえてきた。


「時間よ。用意はいいの?」


(スピーカーのスイッチは……これか)


手元の盤に並ぶ中からそれらしいボタンを入れる。


「用意はともかく、覚悟はできた」


「いい根性してるわね。気に入ったわ……行くわよ!」


ハーシャが槍を構えるのに合わせ、『アルム』の頭の上にある布袋が揺れた。勝敗はお互いの機体の頭の上に括りつけられた布袋を割った方の勝ちになる。子供の運動会のようだがわかりやすいし下手に操縦席を狙わなくて済むから安全だ。多分。


ハーシャの『アルム』が一歩を踏み出した。そのまま雑に加速を開始する。槍は引いたままだが、そのテンポじゃ突きには入れないはず……。


(槍での攻撃じゃない!)


気がついた時には遅かった。ハーシャ機が俺の機体にショルダータックルをかけてくる。慌てて一歩引きインパクトをずらすが右半身に直撃を受けてしまった。激しい衝撃に脳みそと『アルム』が揺さぶられたがバランサーが何とか踏みとどまる。


「性能がいいのね……それともキミの腕が意外にいいのかしら?」


余裕を見せて槍をくるりと回して見せるハーシャの隙をみすみす逃すほど俺はお人よしではなかった。


「そこっ!」


アクセルペダルを踏みながら攻撃レバーを思い切り押し込む。俺の『アルム』は操作に従い槍を突き出した。が、ハーシャはあっさりとその一撃を躱す。


(モーションが……)


「……速すぎるのよ!」


俺の心を読んだかのようなセリフを吐きながらハーシャ機が反撃してきた。鋭い攻撃が連続で下段、上段と飛んでくる。ほぼ無茶苦茶に振り回したレバー操作でハーシャの攻撃がアーマーで防御できたのは偶然だろう。


「ハァ……ハァ……」


(偶然は……何度も続かない)


戦いが始まってまだ1、2分だというのに早くも息が切れ始めた。四肢全部で重いレバーやペダルを使うため想像以上に体力を使う。俺はより慎重にハーシャ機の動きを観察した。


(攻撃すれば、隙が生まれる……相手に攻めさせるんだ)


「何よ、来ないならどんどん行くわよ!」


突きの攻撃が薙ぎに転じた。ブォンと風切り音を鳴らして穂先が俺の『アルム』を襲う。広場の端まで追いやられた俺は時計回りに外周を逃げるしかなかった。


「逃げてちゃ勝負になんねぇぞ兄ちゃん!」


「男らしくズバッと行け、ズバッとー!」


周りの観客からヤジが飛び始めた。うるせぇ遊びじゃねーんだと叫びたい気持ちをこらえて更に外周を回るスピードを上げる。何とかようやく思い通りに動かすことができるようになってきた。


「ちょこまかと、いい加減終わりにするよ!」


俺の移動先を塞ぐように、頭の袋を目掛けハーシャが突きを入れてきた。


「…それを、待ってた!」


槍の手前で急ブレーキをかけ、逆に相手の右肘目掛け槍を突き出す。頭を狙いたかったがこちらの方が攻撃しやすかったからだ。槍を持っている右腕が使えなくなれば俺の不戦敗になるだろう。


しかし。


「甘い!」


ハーシャは右腕を上に上げると俺の攻撃を躱した。更に腕と体で俺の槍を挟むと思い切り締め上げて、俺の槍をバッキリ途中で折ってみせた。


「んなっ!?」


「狙いはいいけど、やっぱり動きが見え見えなのよね!」


ハーシャ機が俺の『アルム』の腹に蹴りを入れる。バランスを崩して機体は呆気なく尻もちをついた。衝撃でクラクラしている俺にハーシャは止めを刺そうと槍を振り上げて近づいてきた。


「結構頑張ったわね、でもここで終わりにしてあげる」


「んなクソ!」


黙ってやられるのは性に合わない。俺は破れかぶれに、と言うより何かに背中を押されたようにレバーを押し込み、カンだけで折れた槍の柄を投げつけた。


「ウソ!?」


ハーシャが慌てて機体を引く、がその動きがまずかった。投げた槍はハーシャ機の頭の袋を貫いて、そのまま広場の外へ飛んでいく。一瞬観客全員が静まって……一斉に歓声が湧いた。


「ウソ……」


俺とハーシャだけが、信じられないと操縦席の中で固まっていた。






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