機械兵
ゾラステア国の真下。大きなゴンドラのようなものが下げられて、それに乗って商人たちが乗ったり下りたりしている。少し手前には机と役人、そして槍を持った兵士がいてゴンドラに乗り込む人を順番にチェックしていた。
「つまり、ここがゾラステアの関所ってわけね」
なるほど。上に上がってから悪いやつ見つけて追い出すのもたいへんだものな。
ゴンドラは大きく、一杯に野菜を積んだ馬車や肉牛だか乳牛だかわからないが大きな家畜もどんどんと運ばれていく。規格外にでかい『パステルツェン』も上に運んでもらえるだろう。
「そう言えばセンパイ、まさか姫様でござい、って入るんですか?」
「何よ漣太郎くん、まるで私をニセモノの姫様みたいに」
いやまぁニセモノであるようなないようなな立場だと思いますけど。それに従者?も一人だけで王様がぶらりと他国に来るのも不自然過ぎるんじゃないだろうか。
「まぁそれだと何かとめんどいから、今回は流れの武器商人だと名乗っておくわ」
「武器商人ですか?」
「そ、現に武器を買いに来たわけだしね。これうちの国の通商手形」
そう言ってるるセンパイが細かい意匠が彫刻された木札を取り出した。
「なんか偽造カード的な臭いがしますね」
「失礼ね、限りなく本物に似せて用意した手形よ」
人はそれを偽造というのではないだろうか。
とりあえずるるセンパイはその偽造手形を使い無事に入国審査をパスした。『パステルツェン』の大きさはだいぶ注目の的になったが、富豪の道楽という事で納得してもらえたらしい。
ゆっくり、十数分を使ってゴンドラが巻き上げられる。入り口はセンパイの『竜槍術』で飛べる高さよりもまだ高い。流石に風が強く吹いているがゴンドラは安定して上昇していた。これだけでもこの国の工業力の高さが垣間見える。
「おおお……」
ゾラステア国内に入った俺は思わず感嘆の声を上げた。古いヨーロッパの街並みに近いリラバティやリド公国の城下町と違い、かなり近代的な建物が並んでいた。建築学は専門外だが鉄骨を使用した工法があちこちに見られる。
「凄いですねセンパイ!」
「ワゥカール大陸でもズバ抜けて技術レベルが高い街だしね。今日の買い物も他の国の発明品みたいだし」
「その買い物って何なんですか?そろそろ教えてください」
焦れる俺にるるセンパイはまだもったいぶってみせた。
「まぁまぁ慌てなさんなって。漣太郎くん、見たら絶対気に入るから」
センパイはそう言って『パステルツェン』を郊外の方へ進めた。
二十分ほども進んだ頃だろうか、入国エリアから中央市街を迂回するように反対側にやってきた。この空飛ぶ島は意外と公園や広場があり環境に配慮しているように見え、それも近代都市のイメージにつながった。住宅街や工業地帯の外周を進みたどり着いたのはよろず市場というかカオスなフリーマーケットというか、店を持たない商人が売り物を持ち寄る大きな広場だ。剣や斧、鎧だけでなくパイプや工具も売っている。
「あ、旋盤だ。アレほしいなあ」
「そんなの後々。先には目玉商品見ないと売り切れちゃう」
そう急かされながらるるセンパイに引っ張られて向かった人だかりができて騒がしくなっている売り場には、正に驚くべきモノが売っていた。
「ろ、ロボット……!?」
高さ五メートル強。手足と槍、盾を持つその物体はまさしくロボットという呼び方が相応しい物体だった。同型機が四台、そのうちのハッチが開いている一台の前に客を掻き分けながら進む。胴体のハッチの中は運転席になっていて複数のレバーとペダル、アナログメーターが並んでいた。地球の技術から比べるとかなりアナログ感が強いがそれでもロボットというのはかなりワクワクする代物だ。許可も得ずに中に入ってメーターの種類を順番に確かめる。
「ふむふむ、出力系は左右二系統、水平計に燃料計、こっちが操作系の切り替えで……簡易バランサーまでついているじゃないか」
「どう?漣太郎くん。『アルム』ってこっちの世界じゃ呼ぶみたいだけど」
苦労して同じように人を掻き分けてきたるるセンパイが聞いてきた。俺はディアスフィアに来ておそらく一番興奮した声で答える。
「凄いですよ。見掛け倒しじゃなければドラゴレッグなんか三匹くらいあっという間に倒せそうです。ただ中からの視界が悪いので操縦は難しそうですが……」
いったん降りて足回りや背部の主動機を見る。魔鉱石を使った疑似的なモーターと補助スチームエンジンが使われているらしい。下半身も頑丈なギアやサスペンションが組まれていて子供だましの商品じゃないように見える。
「兄ちゃん、若いのに見る目があるねえ!」
人当たりの良さそうなぽっちゃりした商人が声をかけてきた。どうやらこの『アルム』を売っている店の人らしい。
「隣の大陸からわざわざ持ってきたんだ。ワゥカールにはまだ1機も入ってない最新型だぞ。今ならセットでお安くしとくよ」
「おいくら?」
「本当なら一台金貨1000!……と言いたいとこだがまとめてなら850までおまけするよ。お嬢さん可愛いし」
「こっちもちょっとお財布がねぇ……700じゃどう?」
なんかセンパイと商人の間でいきなり値引き合戦が始まってしまった。700だって相当の大金のはずだが(確か『パステルツェン』建造にかかった金が金貨300ちょっとだったはずだ)ロボットの値段なんか見当もつかないのでほっといて機内にあったマニュアルを読む。
(前進と後進がペダルで旋回がレバー……更にモーションもレバーで操作……実際に使いこなすのは難しそうだな)
軽く読んだだけでも厄介そうな代物だとわかった。CPU制御とかされていないから仕方ないが、これを持ち帰っても俺以外にリラバティで使いこなせる人がいるのだろうか。もしかしたら買うとしても1台でいいんじゃないか。
「すいませんるるセンパイ、買う話なんですが……」
「よし、1台740!これでもってけ!」
「買った!」
振り向くと俺の目の前で入札が終わっていた。俺ががっくりと肩を落としたちょうどその時。
「ちょっと待ったー!!」
背後から野次馬を掻き分け一人の女の子が出てきた。




