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飛ぶ島


捕まった“黒づくめ”には割と人道的な尋問をしたらしい。が、わかったことと言えばゲーという名前とリラバティを混乱させるためにやったという動機だけで出身や仲間の所在などについては黙秘を続けた。


「そんなわけでもう少しキツイお仕置きをして我が国に従順になってもらうことにしたわ」


「一人ジェンガでですか?」


世間話程度に聞いてみた俺のセリフにセンパイは少し驚いたようだった。


「そうよ?あれ?漣太郎くんに言ったんだっけ」


「言いましたよ。でもそんなんでテロリストが屈服するんですか?」


漣太郎くんは一人ジェンガの恐ろしさを知らないからそんな呑気な事を言うのよ……とまた邪悪な笑みを見せて牢屋の並ぶ地下道を進むセンパイ。ジェンガってそんな怖い遊びだったか?と考えながらついていくと、暗い牢屋の中からズズッ……と重たい何かを引きずるような音と苦悶の声、そして鞭の唸る音が聞こえてきた。


「ここよ」


「!」


センパイの目の前の牢屋には確かにあの“黒づくめ”がいた。上半身裸で汗まみれになり、1メートル近い木の柱……直方体の形状の木材を苦しそうに背負っている。それを、その奥に井桁状に積まれている同じ大きさの柱の上に乗せようと背伸びをし、ブルブルと震えながら……無情にもバランスを崩して、柱が床に散らばる。


「さっさと積みなおせ!」


ガタイの良い看守が鞭を床に叩きつける。“黒づくめ”は泣きそうになりながら柱を一つずつ、ジェンガの最初の形に積みはじめた。散々苦渋を飲まされた“黒づくめ”一味だが、同情してしまいそうなほどこの刑罰はキツイ。


「どう?少しは話す気になったかしら」


「いやぁ、まだまだですな。もう少し揉んでやりますよ」


「ほどほどによろしくね」


センパイはニコニコしながら地上へと引き返した。俺も額に流れた嫌な汗を拭きながらその後に続く。


「……アレはキツイっすよ、センパイが考えたんですか?」


「失礼ね。リラバティに昔から伝わる伝統の木材刑よ。まぁジェンガにしたのは私だけど」


やっぱりセンパイなんじゃねーか!というツッコミを呑み込む。アイツの隣でジェンガ積みさせられたらたまったもんじゃない。


「とにかく、桃ニンジン事件もひとまずは解決したし、他の“黒づくめ”もターニアの家族に探してもらってるからもし潜伏していれば見つかるでしょ。私たちは次の一手を打ちましょう」


「次の一手?」


心当たりのない言葉に俺は首をかしげた。


「少なくともゴーレムは今すぐ採用できる戦力じゃ無いことはわかったわ。それに代わる別の方法を用意しないと」


「アテはあるんですか?」


俺の疑問にるるセンパイは自信ありげに答えた。


「王族たるもの、常に先々を考えておかないとね……ま、漣太郎くんの力を借りることになるんだけど」


またしばらくは忙しい日が続きそうだ。俺は肩をすくめて苦笑いを返した。







そんなわけで翌日、センパイと俺は『パステルツェン』に乗ってまた国を出た。ベゥヘレムもついて来ようとしたが留守番のミティが話し相手に手元に確保した。面倒なのがまとめて留守番してくれるのでありがたい。しかし影武者とは言え王であるセンパイがこんなに城を開けていて大丈夫なんだろうか。


「その辺はグレッソンが上手くやってくれるから。大臣にとっては私はルルリアーナ王女のpopでしかないからね、式典とかそういうのでなければ別に城にいなくても大丈夫よ。今回はそんな遠出じゃないし」


「ドライな関係ですね……センパイはそれでいいんですか?」


「そりゃお城で王様ごっこやってたいけど、立て直ししないとそのイスも危ないし私の自由に使える人材って言ったら漣太郎くんくらいしかいないんだもん」


不満そうにフルーツワインを飲み干すセンパイ。いつも通り『パステルツェン』はカヅチとサギリの二頭のゴーレム馬が勝手に引いて進んでくれている。便利なもんだ。


「それはまぁ仕方ないですけど……ところで俺たちはどこへ向かってるんですかね?」


「ゾラステアって工業国よ。そこでちょっと大きな買い物をするつもり」


初めて聞く名前だ。城を出て南に1日進んだ頃合いだが、街どころか小さい村も見えてこない。工業国って事は機械関係か銃器でも買うんだろうか。


「どこにあるんですか?今まで聞いたことのない名前ですけど」


「そうねー、そろそろ合流地点じゃないかな」


「合流?」


予期しない単語に?を浮かべていると外からかすかに重低音が響いてきた。複数の巨大な機械が織りなす脳みそを直接震わせそうな、音というより振動だ。俺が戸惑っているとセンパイは、外を見たら?というように親指で窓を示した。


「!!?」


窓から外を見たら俺は驚きで目を見開いた。


挿絵(By みてみん)



「し、島が飛んでる!」


そこにあったのは空飛ぶ巨大な島だった。島というか、ひっくり返った山が山頂を真下にして飛んでいるという感じだ。いずれにしても常識外れの光景である。異世界にそれを言っても仕方ないことであるが。


島の周りには様々な機械がまとわりついている。太いパイプに鉄板、金網に昇降用の梯子、そして何より目を引くのが巨大なプロペラの数々。あのプロペラがこの重低音を立てているのだろうか。


「あれがゾラステア国よ」


「あれが!?なんか浮いてますけど??」


「そりゃ異世界ですもの島くらい浮くでしょ」


異世界あるあるなのだろうか。


「島の大部分の成分が漣太郎くんも知ってる飛行鉱石に近い岩石で出来ていて、それをあの巨大なプロペラで浮かして貿易風で流されるように決まった航路を移動してる貿易国家なの」


「そりゃあ……かなりダイナミックにファンタジックな話ですね」


アニメやマンガで見るならなるほどと呑み込めそうだが、実際に目の当たりにするとそのインパクトに圧倒されそうになる。正確にはわからないが東京ドーム○○個分的な広さだろう。そもそも田舎者なので東京ドームがどのくらい大きいのかわからないのだが。


ぼーっと見ていると島の下から何本もの太い鉄の鎖が投下された。先端には鋭い錨のようなものが付いていて、それが地面に食い込んで島を固定するらしい。


「さあ、島が止まったわ。上陸地点に向かいましょ」










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