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再び、公国へ


「すごい眠そうだけど、大丈夫?」


「おかげさまで……」


しっかり熟睡できたのか、さっぱりした顔で目玉焼きをつつくるるセンパイの前で俺は大あくびをした。とてもじゃないがあんな状態で寝れるほど俺は大人じゃない。


「帰っても仕事いっぱいあるんだから、しっかりしてね」


「ふぁい………」


誰のおかげだとか大人げない事はは流石に言わなかったが、せめてもの抵抗に生返事を返す。ちなみにセンパイが食べている朝食を用意したのは俺だ。


まぁ、今さら言っても意味のない事。カヅチとサギリに馬車を任せ俺は改めて寝かせてもらうことにした。帰ったら二頭に油を挿してやろう。








地竜討伐隊はその日の夜に帰還した。騎士や兵士達には死者が出なかったこともあり町の住民には大歓声で迎えられた。恒例のドラゴンステーキが町中で振る舞われ朝まで祭のような騒ぎが続いたらしいのだが、疲れが残っている俺とセンパイは早々に城に引き返す事にした。


「お帰りなさい、姫様!」


留守番をしていたミティが飼い犬のように走ってきてるるセンパイに抱きつく。こら、胸に顔をうずめるな。


「留守の間、大丈夫だった?」


 「ワイバーンが二頭ほどちょっかい出しにしたけどちゃんとやっつけておいたよ!」


 胸を張って威張るミティ。センパイもその態度に苦笑しながら頭を撫でてやる。


 「ありがとうね。ミティがいてくれて助かった」


 「姫様のためですから!」


 髪を撫でられるまま、ニコニコと笑うミティ。


 (それでも、コイツはるるセンパイが影武者をしていることを知らないんだよな……)


 懐かれているるるセンパイも、どこか苦い感情が顔に出てしまっている。二人で相談し事実を話そうかと考えたこともあったが、それは彼女の姉のターニアさんに止められた。


 (「あの子は、これでいいんです。姫様が見つかればその時……」)


 実の姉がそう言うのであれば、国王代行とても尊重せざるをえなかった。それでセンパイはミティの前でルルリアーノ王女の顔をするしかなくなっていた。


 それが、今一つミティを傍に置きたくない理由だ。


 「そう言えばオムソー王からお手紙が届いていましたよ姫様」


 そう言って忍び装束ぽい服の胸元から書簡の筒を出すミティ。他にしまっておく場所は無いのか。るるセンパイももうツッコミすらせずにそれを受け取ると、今度は何かしらねと言いながら書簡の封を解いた。


「何ですか?」


後ろから覗き込むが俺は相変わらずこちらの字があまり読めない。いい加減本格的に勉強しなくてはいけないか。


「リド公国で魔物対策にゴーレムを使うみたい。いい成果が出てるから一度見に来たら?って」


「ゴーレムで防衛を?」


身近なゴーレムと言えば、エルノパさんから高値で買ったゴーレム馬のカヅチとサギリしか知らないけどゴーレムは簡単な行動しか自立選択できないはずだ。


「パワーはあるでしょうけど、大丈夫何ですかね」


「わかんないけどウチも地竜対策に戦力が欲しいし、とりあえず見学に行ってみようか」


クルクルと手紙を巻くセンパイにミティがまた抱きついた。


「姫様ワタシも……」 


「ごめんね、ミティはまたお留守番」


「ゔぇぇぇぇぇぇん」


もはや定番のコント化してきた感がある流れだ。お土産買って来てあげるからとなだめるセンパイを見て、俺もボッズ師達に謝りに行かなきゃいけないなと思っていた。『パステルツェン』で休みなく行けば三日とかからずにリド公国へ行けるはずだ。カヅチ達には機械油をあげておかないと。









翌日、公務をほぼ任せっきりのグレッソン大臣の苦い顔に見送られながらるるセンパイと俺は『パステルツェン』で出発した。二人旅は危険だと言われたが、全金属製の車体は黒小鬼程度の魔物であれば無視して逃げられる。夜止まって野営をしなければいけない護衛の騎士を連れて行くより二人で強行する方が時間の節約になるとセンパイは判断した。ベゥヘレムはうるさいので置いていくことにした。


午前中に出発した俺たちは早くも王国と公国の境界線まであと一日という所まで進んだ。二頭のゴーレム馬の脚はかなり強靭だ。外を見れば良く晴れた街道の北側には収穫時期の縞ブドウ畑が広がっている。俺が来た時にはまだロクに実がなっていなかったというのに、随分と時間がたってしまっているのか。


「何難しい顔してるの?」


二階のデッキでぼおっとしていた俺の横にるるセンパイがやってきた。すっかりリラックスしているのか楽な旅姿のままだ。さらさらとした髪の毛がなびきながら陽を浴びて光っているのが、男ながらに何となく羨ましいと思った。


「こっちに来てからずいぶんと経ったなと思って」


「そう……かもね。いろいろあったしね。もうホームシック?」


「そんなんじゃないですよ……。ところでゴーレムってこっちじゃメジャーな技術なんですか?」


話題が湿っぽくなりそうだったので俺は何となくを装って聞いてみた。センパイも俺の横でブドウ畑を見ながら少し考える。


「そうねえ、ゴーレムを組織的に戦力化している国は聞いたことないかなぁ。魔術師でも使える人とそうでない人がいるみたい、というかあんまり人気のある分野じゃないって聞いたような」


「なんでですか?」


「魔力エネルギーをゴーレムの運用に使うってことは、単純に労働力にしかならないからじゃない?やっぱり何もないところから炎を出したり空を飛んだりワープしたりが魔術の王道って感じがするし」


まぁ、何となくわかるような話である。


「ゴーレム術者は労働者と変わらないってことですか?」


「魔術師の間ではそういう認識なのかもって話。私個人としては必要な分野だと思ってるよ」


『パステルツェン』は街道の宿場町の近くに差し掛かった。あそこで食料を買い込みシャワー用の水を補給するのがいいだろう。俺はカヅチ達を止めるため階段に向かった。


「俺もそのゴーレム術者が気になってきましたよ」


「公国がそれで上手く行っているなら、ウチにも同業者を紹介して欲しいところね」





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