飛竜襲来
「行くよ漣太郎くん!」
「え、俺もですか!?」
当然でしょ!と言いながらるるセンパイは鎧をひっつかんでまた更衣室に飛び込んでいった。1分もかからないうちにさっきの露出度満点セクシー鎧、もとい『竜纏鎧』に着替えたのは(いくらパーツが少ないと言っても)驚異的である。
「その銃持ってついてきて!」
「こんなの、使ったことないですよ!」
「今から思う存分撃ってもらうから!」
「そんな!」
センパイの無茶振りは幾度となく食らっているが、さすがに命の危機を感じるものは無かった。しかし今回は下手したら確実に死ぬだろう。飛竜がどんなものかはわからないが、さっきの巨人みたいなのがいる世界だ。ハトやカラスみたいな可愛いサイズではあるまい。
行きたくはなかったがしかたなくセンパイの魅力的なお尻の後を追う。石つくりの狭い暗い螺旋階段を駆け上がり、尖塔の一つの屋根にある窓から小さなテラスに出た。
「あっち!」
るるセンパイの示す槍の先、城門と反対側の城壁の向こうに半分崩れたままのもう一つの城壁がある。その上空を4メートルほどはありそうな翼と凶悪な牙を持つ二本足の緑色のトカゲ……いわゆるドラゴンがいた。
3頭がぐるぐると飛び回りながら城壁で弓を打っている兵士たちに火を吹きかけていた。火だるまになった兵士が一人ずつ下を流れる川に逃げ込んでいく。
「レッサーワイバーンね」
「レッサー……?」
「最下級の飛竜なの。そのぶん数も多いんだけど」
「あれでですか!?」
「捕まって!」
「え?うおおおおぉぉぉぉぉぉ……!?」
ビュゥゥゥゥゥゥゥッ!!
ビビッている俺をセンパイが抱きかかえて『竜纏鎧』の力で跳躍した。原付バイクなんかとは比べ物にならないスピードで、ゆうに200mは離れている城壁まで一気に飛んでゆく。
「姫様!」
城壁に着地したるるセンパイの姿に兵士たちが集まってくる。目を回して四つん這いになっている俺を放置してるる姫様は指示を飛ばした。
「私が順番に片つけるわ!弓隊は左右の塔に分かれて援護射撃!炎に焼かれないように気をつけなさい!」
さすがプロの兵士、一気に統制を取戻し指示通り左右に分かれてゆく。と、センパイは早くも空高く跳躍をしていた。あの巨人を倒した時のように上空で姿勢を変え一気に降下してくる。
「まず1匹!」
ゴォウ!と風を切り裂いて先輩の槍が飛竜・レッサーワイバーンの背中に突き刺さった。その勢いのままワイバーンは地面に叩きつけられ、絶命したのかピクリとも動かなくなる。
(これが『竜槍術』……)
大の男達が弓で撃っても倒せない竜を一撃で倒す技。俺はその威力に驚愕しながらも、先輩の説明に納得していた。これだけの威力が出せるならあんなハレンチな格好をするのも我慢できるかもしれない。
「おりゃーっ!」
可愛らしい掛け声とともに『竜姫士』るるセンパイは倒したワイバーンの背中からまた宙に舞った。地上20メートルほどにまで飛んだかと思えば隼のように残像を引いて降下してくる。
ギャァァァァァス!
右側の塔にいる兵士を襲おうとしていた竜がまた槍の餌食になった。長い首の真ん中辺りを串刺しにされ、そのまま墜落し瓦礫の中に埋め込まれる。
残っているワイバーンは仲間がやられた事と左右からの弓の猛攻で怯み、攻撃を止めて高度を上げようとしていたがその判断は既に遅かった。
「らすとぉぉぉぉぉーーー!!」
ジャンプ3連。休む間もなく飛び上がったるるセンパイが最後のワイバーンの背中を取っていた。べっとりと紫色の体液の付いた穂先を振るい、鱗を破りその仲間の体内に突き立てる!
弱々しい断末魔の唸りと共に三頭目のワイバーンも地に付した。左右の塔の兵士から大きな歓声が上がる。るるセンパイも城壁の上、俺の隣にぴょーんと戻りながら兵士たちに手を振りかえした。
鮮やかな戦いぶりだった。俺も釣られてパチパチと拍手しそうになって……ふと視界の端に見慣れないものを見つけた。
目を凝らして雲と雲の間を睨む。
「ねぇねぇどーだった漣太郎くん!カッコよかったでしょ!」
「いや、ちょっと待ってくださいセンパイ」
「何よーこんなに活躍したワタシに冷たいなあー!」
むくれるるるセンパイに空の一点を示す。俺が見つけた物体はもうそのシルエットが判るくらい接近していた。さっきの竜、レッサーワイバーンと同じような影だ。しかしその大きさが……まるで違う。
望遠鏡で同じ方を睨んでいた兵士の一人が大声を上げた。
「レガシーワイバーンです!」
一斉に兵士たちがざわめき出す。るるセンパイも真剣な目つきになって空を見た。
ドウッ!!
暴風を伴って俺たちの上を影が通過する。巨大だ。さっきのワイバーンが小さなヘリコプターくらいなら今度のは旅客機くらいの大きさがある。
「レガシーワイバーンって!?」
風に負けじと俺はるるセンパイに叫んだ。
「古いワイバーンって意味よ!ワイバーンの古代種!数は少ないけど今のワイバーンより強いの!!」
レガシーワイバーンが旋回し城壁の方へ向かってくる。赤茶色のゴツゴツした大きな鱗に身を包んだ巨体はとてもさっきのと同じワイバーンには見えない。
「伏せて!」
センパイに城壁の壁の陰に押し込められる。と、直後、頭の上を高熱の火炎が駆け抜けていった。あまりの熱さに髪の毛が全部焼けるかと思い慌てて確かめる。よかった、パサパサに乾いているが無くなってない。
「勝てるんですか、あんなの!?」
「漣太郎くん」
俺を押し倒しているセンパイが、氷のような瞳で見下ろしてきた。
「勝たなきゃ滅びるのよ。この国も、私たちも」