開戦、地竜御一行様
作戦はこうだ。
敵は巨大な地竜を中心に重装歩兵(と数匹の太鼓持ち)で囲んで前進してくる。こちらとしては地竜の進行を阻むのが目的のため、地竜に攻撃を集中し少なくとも移動出来ない状態に持っていかなければならない。
そこで動きの派手なセンパイが前面でかく乱をし、同時に主力である騎士団が両翼から地竜の後ろ脚に攻撃を仕掛ける。脚ならば騎士団でも攻撃が届くし、移動の要となる後ろ足を潰せばリラバティ本国の安全は守れる。俺はエルノパさんを護衛しながら銃でセンパイを援護する役目だ。
「行くわよ!」
センパイが『メルトランサー』を握り飛び上がった。エルノパさんがそれを見て『パステルツェン』の上で杖を振り上げて精神を集中する。
「……惑いの蝙蝠、夏の噴煙、エルバのさざ波、拗れ捻れ……導きは災いに、施しは過ちに……崩冽霞煙!」
呪文が完成する。地竜を中心に薄い紫の靄が突如として出現した。靄はすぐに掻き消えたが、地竜もドラゴレッグも突如頭を振り回し不快そうに唸り声を上げ始める。
「……心の中を乱し、頭痛を引き起こした。少しの間だが有利に戦えるはずだ……」
エルノパさんはそう言うと膝をついた。額には汗を浮かべ顔色も悪い。
「大丈夫ですか!?」
「私の使える中でも最大級の術式だ。すまないが暫く他の術は使えない……」
効果が強い分、エルノパさんの疲労も激しいという事か。
「わかりました、しばらく休んでて下さい!」
俺は『パステルツェン』の横にある梯子を駆け下りると、繋がれているカズチとサギリに下がるように伝えた。二頭のゴーレム馬は賢く、簡単な命令なら御者がいなくても従ってくれる。
るるセンパイは空中から派手に火球を発射し、数匹のドラゴレッグを早速火だるまにしていた。『竜槍術』の直接攻撃だけでなく、遠距離攻撃もできるようになったのはかなり大きい。
るるセンパイの攻撃を合図に荒野に並ぶ岩陰から騎士団が強襲をかけた。対竜用の長大なランスやグレートソードを振り上げてドラゴレッグを叩きのめしていく。不意をつく、と言うほどではないがエルノパさんの魔術の効果もあり互角以上の形に持ち込んでいるようだ。
(いい感じだ!)
『パステルツェン』が下がったのを確認して、俺はロプノールを抜き銃口に筒のようなパーツを付けた。銃身を延長することで弾丸の射程と直進性が向上する。『竜纏鎧』の作業の片手間に作ったものなのでどこまで効果があるか怪しいが、今は使える物は使っていきたい。
それからガンベルトの端に一つだけある赤い弾丸を確かめた。
(騎士団の戦いぶり次第で、撤退のタイミングも決まる……読み違えるなよ、漣太郎!)
戦場から少し離れて戦える俺に、るるセンパイは信号弾を持たせた。万が一の時はこの信号弾で全隊に俺の判断で撤退の合図を出さなければならない。
センパイはドラゴレッグにジャンプ攻撃を仕掛け始めた。『メルトランサー』の火球は無制限に撃てるわけではない。槍に仕込まれたコンデンサー代わりの竜石に蓄えられた魔力を節約し始めたのだろう。
「センパイの火力は、地竜に集中させないと!」
俺はロプノールでドラゴレッグに狙撃を開始した。ロングバレルにした効果はそこそこあるようで、比較的遠い遠いターゲットにも重傷を負わせられている。手首か喉元に当たればもうそのドラゴレッグは無力化したも同然だ。
しかし中々るるセンパイも肝心の地竜には到達できていない。30匹と聞いたがもっといるのではないだろうか。地竜も正気を取り戻したのか唸るのを止め、代わりに周囲に炎を吐き始めた。
巨大な地竜の体内から放射される炎はレガシーワイバーンのそれよりももっと強烈だった。足元の騎士団を、味方のはずのドラゴレッグごと火炎で追い払っている。あの炎を吐きまくるようなら撤退の信号弾も早めに打ち上げないといけない。
(地竜の進行は少しずつ遅れている……ように見える。騎士団は攻撃に成功しているはずだけど、戦況なんてどう見極めればいいんですか、センパイ!)
俺はドラゴレッグや地竜の頭上を舞っているるるセンパイの背中に叫びたい気持ちを抑えて、ロプノールの照準を定めた。




