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戦線展開




 ワーツさん会心の夕食はベーコンハンバーグにマッシュポテトだった。ひき肉の代わりにベーコンのみじん切りを使うというアイディアには恐れ入ったが、たっぷりの玉ねぎに卵(こちらでは地球より卵が常温で長く保管できるとリーリィに聞いたので持ってきた。ちなみにディアスフィアで多く食べられる卵は、ニワトリではなく虹色の巨大ヒヨコのような鳥が産んでいた)を使ったハンバーグは甘みもありとても美味しかった。


 「さすがリラバティ1のシェフ!これからもよろしくお願いしますよ!」


 るるセンパイの王女とは思えない軽すぎるおだてに照れながらワーツさんは帰って行った。本当に姫様のイメージが崩れないか心配である。もう手遅れなのかもしれないが。


 ワーツさんと入れ替わりに偵察隊の兵士がパステルツェンに報告にやってきた。俺はポットに残っていたお湯で紅茶を差し入れることにした。


 「地竜とドラゴレッグは依然変わらぬ速度で侵攻をしています。ドラゴレッグの数はおよそ30。明朝には接敵するでしょう」


 「報告お疲れ様、歩哨を立たせて警戒をお願い。他の兵士たちには早く休むようにと。このカップは持って行っていいわ。偵察のご褒美にあげるから」


 るるセンパイの言葉に若い偵察兵は元気よく敬礼をして紅茶のカップを持ちながら隊長の所へ向かった。俺はるるセンパイやエルノパさんにも食後の紅茶を用意する。


 「ありがと、落ち着いて寝れそうだわ」


 「地竜って夜も寝ないで歩くんですか?」


 俺の質問にセンパイもそういえば?と頭を捻った。エルノパさんがお茶を一口啜ってから答えてくれた。


 「竜もドラゴレッグも戦いの前はあまり寝ないと聞く。逆に休む時は十日くらいたっぷり寝る事もあるそうだ」


 「じゃああんまり疲れてるやってくるって事はなさそうですね」


 「しかし30のドラゴレッグか……」


 珍しくセンパイが顎に手を当てて考え込んでいる。


 「どうかしたんですか?」


 「この間の飛行カゴ工場でもそうだったけど、そもそもドラゴレッグが20匹以上合同で活動している事は極めて稀なの。あの時はそう言う事もあるのかなと思ってたんだけど、やっぱり違和感がある……」


 「……またあの“黒づくめ”が?」


 「今回も糸を引いてるかもしれないわね。少年漫画のトーナメント戦でまだ戦ってない敵チームみたいな恰好しやがって」


 イチャモンのつけかたがなんかおかしい気がするが、これまでにあの“黒づくめ”の連中と会ったのは二回。いずれも竜やドラゴレッグと戦っている時だ。魔法の薬や暗黒魔法を使った事から知能も人間並みに高いと思われる。

 もしこいつらが組織だってリラバティ攻略を謀っているのならそれはとても厄介な事だと思う。しかし何故奴らは竜の味方をするのだろうか。どう見ても見た目は人間に近いのだが。


 「今ターニアやミティの兄弟の人に“黒づくめ”の情報を集めさせているから、そろそろ何かわかるかもね」


 「兄弟の人?」


 初耳だった。あの姉妹に他に兄弟がいたのか。


 「兄弟と言うか一族と言うか親戚一同みたいな感じらしいんだけど、ターニア達は元々スパイ活動をする一家で前の雇い主にこき使われた挙句に、その雇い主が商売に失敗して無一文になったんだって。やむなく別の街に新しい仕事を探すために全員で馬車に乗ってリラバティに北上してきたところで餓死寸前になって倒れていた所をルルリアーナ王女が助けたみたい」


 「なかなかハングリーな一族ですね」


 ミティを連れてこなくて良かった。変なコメントをしたらまた刺されかねない。


 「で、その親戚一同みんな雇ったんですか?」


 「お優しい方だったんでしょうねぇ」


 その本人の影武者をしてるくせにずいぶんと他人の事のように言うるるセンパイ。


 「総勢十八人くらいを召し抱えたそうよ。まぁお年寄りや子供もいて全員がスパイや密偵ができるわけじゃ無かったみたいだけど」


 ……十八人の行き倒れを想像して俺は(ディープだな)と思った。


 「他にも飛行鉱石の山地やドラゴレッグの巣栄地……姫様の行方も探してもらってるけど、なかなか彼らの手を借りてもね」


 「なるほど……」


 知らない間にそういう人たちも一所懸命仕事をしていたのか。


 「私たちもちょっとずつでも前に進まないとね」


 「……最近よく思うんですけど、一回も負けられない戦いの連続ってキツくないですか?」


 「負けたら滅びるは世の常よ。生き物も会社も国もね」


 センパイはあくまで気楽そうに笑うと、お休みと言って二階へ上がって行ってしまった。


 (俺の緊張を解こうとしてくれてるんだよな)


 このごろははセンパイのそういう気遣いもわかるようになってきた。肝を据えて俺も寝ることにしよう。











 明けて翌日。やはり天気は曇天だ。そして朝もやの向こう、西の方に黒い巨大な竜の影となぜか太鼓を打ち鳴らす音がいくつも聞こえてくる。


 「ドラゴレッグもお祭り騒ぎするんですか?」


 「オマツリサワギってなんだ?」


 下にいる、俺の質問を理解できなかったツェリバ隊長が訊き返す。なんにせよこういう行軍は初めて見るようだ。


 パステルツェンの屋根の上からすっかり愛用となった双眼鏡で敵の様子を伺った。確かに太鼓を担いでいるドラゴレッグが何匹かいた。その周りには軽鎧に曲刀や斧を持ったドラゴレッグ戦士、そして中央に神輿代わりの地竜。


 確かにデカイ。ヴェロータートルより明らかにデカイ。前に大臣に見せてもらった絵だとステゴザウルスのような形だったが、それよりは首が長くドラゴンぽいシルエットだ。茶色のゴツゴツした鱗や長いトゲをいくつもまとった動く要塞にも見える。


 「ともかく、これまた強そうなドラゴンですね」


 「そうねー、こんなんならミティも連れてこればよかったかなー」


 両腕を組んで左右に上体を揺らしながらセンパイ。ストレッチでもしてるのだろうか。


 「センパイだけじゃキツそうですか?」


 「ゲーム的に言うと、HPがすげー多そう……ヤズマットほどじゃないでしょうけど」


 「ヤズマットってなんスか」


 俺の疑問を無視してセンパイは下にいるツェリバ隊長に指示を出した。


 「予定通り左右から仕掛けて。私は正面のドラゴレッグを捌きながら地竜に接近するから」


 「了解ですが……よろしいので?」


 さすがに心配なのか、躊躇する隊長。


 「リラバティ騎士団の栄光、私に披露して見せなさい」


 「……勝利を姫君に!」


 髭もじゃ隊長は背筋を正し敬礼すると部下へ進撃の合図を出した。騎士団の背中を見ながらるるセンパイが肩を落とす。


 「姫様も楽じゃないわ」


 「でも、本当に無理はしないで下さいねセンパイ」


 「わかってる。蓮太郎くんを帰すまでは死ねないからね」


 いろいろ言いたいことはあったが、俺は今は呑み込んでロプノールに弾丸を込めた。 


 


 


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