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特注・豪華馬車パステルツェン

挿絵(By みてみん)


 リラバティ城南側外壁。城下町に入る大門の脇にでんと鎮座するソレを見て俺以外の一同は言葉を失った。


 「漣太郎くん、コレなにコレ」


 そこには、銀色で塗装された巨大な車両があった。


 まさしく車両である。ロンドンバスを横に二つくっつけたような大きさではあるが、六輪の車輪を持ち窓や扉が備えられた密閉型の車両だ。当然エンジンなどは無く馬が引く馬車タイプだが、その巨大さは馬車の規格を完全に無視している。


 「長期遠征用に作った特注馬車です。ベッドにキッチン、シャワー完備。小さいながら会議室もあります」


 「すごー……」


 センパイですらぽかんと目を丸くしてるのだから、ターニアさん達は完全にカルチャーショックを受けているのだろう。ぼーっと立ち尽くして反応が無い。


 「でもこんなでかいの、馬じゃ牽けないよ」


 センパイの当たり前すぎるツッコミに俺はフッ、と漫画に出てくる天才科学者のように笑った。


 「ちょっとここを両手で押してみてください」


 「ここを?……うわ、動く!なんで!?」


 センパイが馬車の先端を押すと、馬車はその巨体に見合わずするすると動いた。


 「仕掛けは単純です」


 俺は馬車の側面のメンテナンスハッチを一つ開いた。中には水色の割れた水晶のような鉱石が並んでいる。


 「飛行鉱石!」


 センパイが合点がいったように声を上げた。


 「そうです。ドラゴレッグの飛行カゴから回収した飛行鉱石を10個使って重量を軽減しています。これならどんなに人を乗せても馬二頭でけん引できます」


 ドヤ顔で胸を張る俺。おそらく数トンは重量があるはずだがこの重さを軽減する魔法の鉱石のおかげでその気になれば人でも押していけるくらい軽くなっている。


 「ただ馬が用意できてなくて……どこかで調達できればいいんですが」


 るるセンパイに内緒で(一応グレッソン大臣には軽く説明しておいたが)使い込める予算では車体を用意するのが精いっぱいだった。それでも内装のベッドやテーブルは頑張って値引いてもらったのだ。


 しかし馬が無ければどんな豪華な馬車も意味がない。


 「さすがにいきなり言われても……軍馬はみんな戦場に向かわせてるし」


 「馬があればいいのか?」


 唸るセンパイの横でエルノパさんが鞄の中をごそごそ探り始めた。出てきたのは乾電池ほどの大きさの筒だ。それを二つ、地面に置いて何事か呟くと、筒の中から煙と共に鎧を着込んだ馬が飛び出してきた。


 いや、着込んでいるのではない。大小の曲った鉄板を組み合わせて作られた、馬の形の鉄人形だった。


 「こ、これは……」


 「私が昔作った、長距離の移動に使う馬のゴーレムだ。こっちがカヅチでそっちがサギリ。街道くらいならほっといても進むし、休みなく昼でも夜でも休みなく動く。時々油を挿さなきゃいけないので私には使いにくかったが……」


 それはすごい。自動で進む上に睡眠も食事もいらなくて油挿すだけでいいなんて車より優れた運送手段だ。センパイもこのゴーレム馬の凄さを一瞬で理解したようだった。


 「すごいです!いくらくらいなら手放してもいいと思います?」


 「うーん、それなりに手間暇かかったから……一頭金貨1000枚くらいかな」


 「買った!」


 不躾な商談だが、エルノパさんは不満もなく了承した。しかし金貨2000枚か。この馬車作るのにも1000枚近いお金を使ったので結構財政が心配だ。グレッソン大臣がるるセンパイの後ろで下っ腹を抑えて渋すぎる顔をしている。るるセンパイはそんな大臣の気持ちには気付かずテンションあがりっぱなしだが。


 「じゃあ早速お馬さんを繋いで頂戴。あーあとこの馬車にも名前をあげましょうか」


 「名前ですか?」


 カヅチとサギリと名付けられた馬を馬車に繋ぐ。当たり前だが微動だにしないのでとても繋ぎやすい。 

 

 「決めた!パステルツェンにしましょう」


 「なんですかそれ」


 聞いた事は無いが地球の言葉の様な響きだ。


 「オーストリアにある氷河。昔行ったら綺麗だったんだー。遭難しかけたけど」


 「……」


 ときどきこの人の経歴が分からなくなる。まぁとりあえず悪い名前でも無さそうだし、俺もその名前を了承した。


 「よし、これで準備はいいわね。出発しましょう!」


 俺とるるセンパイとエルノパさんがパステルツェンの巨体に乗り込む。涙を流すミティ他に見送られて、俺たちは先行の騎士隊を追って出発した。








 「はー、ベッドもちゃんとしてるしクローゼットもある……。シャワーもキッチンも小さいけれど十分使えるわ。すごいねー漣太郎くん!」


 自動で進むゴーレム馬に任せて、俺はパステルツェンの中を案内した。二階は半分がセンパイの部屋で残り半分がオープンデッキになっている。見晴らしがいいのもあるが、このパステルツェンは外装をすべて金属板で覆っていて戦場に突入することも考えている。この屋上のデッキはセンパイの『竜槍術』の足場にもなる。高いところから飛べば(まぁ10メートルもない高さだが)それだけ破壊力も上がるはずだ。


 センパイの部屋は大きめのベッドに『竜纏鎧』も収納できるクローゼット、ドレッサー、スツール等々。窓は前側と左右に合計3枚。カーテンも質のいいものを用意した。色々と気を使ったおかげで気に入ってもらえたようだ。


 1階部分は前から御者台、7人ほど入れるミニ会議室兼食堂、ベッドのある個室二つ、給湯室にシャワー室、食糧庫、キッチン。必要なものを考えていると結構なサイズになってしまった。


 「いい仕事したわねー漣太郎くん!……でもなんでこんな車を作ったの?」


 センパイの疑問に俺は視線を逸らしながら。


 「まぁ、最近遠征とかありましたし、センパイにはいいコンディションでいて欲しいですから……」


 「!!」


 センパイは俺の言葉に感極まったのか目をキラキラさせながら抱きついてきた。


 「セ、センパイ!?」


 「そこまで私のこと考えてくれたなんて!優しいねぇ蓮太郎くん!」


 ヨシヨシヨシと動物大好きおじさんのように俺の頭を抱きかかえて撫でまくるセンパイ。エルノパさんが冷めた目で見てますセンパイ。


 「感動した!よし、今回はもう私張り切っちゃうからね!」


 「……張り切り過ぎて無茶しないでくださいよ」





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