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地竜進撃


 ウヴェンドスの『竜纏鎧』の大本のプランも見え、ミティの訓練も順調に進んでいた。


 が、物事は良い方ばかりには進まない。鐘の音で目を覚まし顔を洗っていると、窓から城の正門広場に重装備をした騎士と兵士が集結しているのが目に入った。全員が普段見かけない、身長位の長さの大剣や太い穂先を持つ槍を携えている。


 嫌な予感がするな、と思った瞬間には伝声管からるるセンパイの声が聞こえてきた。


 「漣太郎くん、着替えたら私の部屋に来てくれる?」


 「わかりました……」


 彼女(と思っている)からのモーニングコールを聞いて気が重くなる人生と言うのは嫌なものだ。俺は食卓の上にあったチーズを一かけら口に入れると急いで着替え始めた。






 白いシルクシャツにアイロンのかかった紺のズボンという簡単な正装(メイドたちの手前、姫様の居室へ行く時は服装に気をつけるようにとターニアさんに言われている)以外にはガンベルトと銃だけを持って、俺はるるセンパイの居室へやってきた。センパイは公務用のパンツスタイルの服の上に刺繍を施した白いマントを羽織っていた。


 部屋には他にグレッソン大臣、メイド長のターニアさん、その妹の新米竜姫士ミティ、そして居候中の魔術師エルノパさんとなぜか飛ぶ豚ベゥヘレムもいる。


 「戦いですか?センパイ」


 「残念ながら、ね」


 ポニーテールを結びなおしながら憂鬱そうにるるセンパイが答える。その向こうに見える窓の向こうの空も、雨が降ると言うほどではないが陰鬱に暗い。戦いの日はいつもこんな曇天の様な気がする。


 「西の監視隊から矢鷹で伝令が来たの。地図を見て」


 グレッソン大臣が机に広げた地図のところへ行く。リラバティ城から南に少し行った所の街道の分岐。東に行けばリド公国、反対は砂漠と荒野を望む西への街道。


 その西側にグレッソンは赤い竜の模型を置いた。


 「西側から?」


 俺は素直に疑問を口にした。竜の棲家は北方山脈。つまり敵は皆北から来るものだと思っていたからだ。


 「コイツらは地竜なの」


 「じりゅう?」


 グレッソン大臣が分厚い装丁の古い本を俺に開いて見せた。竜と言うかステゴザウルスの背中の板を取ったようなオリーブグリーン色のトカゲの絵があった。なるほど飛ばない竜で地竜か。大きさもレガシーワイバーン以上で、角や牙を持ち炎を吐く由緒正しいドラゴンらしい。


 「速度的には脅威ではないですがその破壊力と繁殖力は飛龍に劣らず恐ろしい物があります。この西に伸びる山脈のどこかにこの地竜の棲家があり、こうして時折家畜を狙いに人々の生活圏を脅かしに来るのです」


 「繁殖期とかになると、コヤツラも栄養がいるんじゃろうなぁ」


 他人事みたいに豚が言う。こんな竜を満腹にするには相当の家畜が必要になるだろう。到底共存できるようには思えない。


 「砂漠や荒野をうろちょろしてる分にはいいけど、この街道の分岐の辺りまで来られるのは見過ごせない。西へ百ノール進んだとこにあるこの丘陵地帯でコイツラを迎え撃つわ。敵戦力は大型地竜1匹にドラゴレッグの取り巻きがついているみたい」


 百ノールは確か大人の足で1日歩いたくらいの距離と聞いた。リラバティ本城から安心できるほど離れているわけじゃない。もし負けたらこの城や城下町も危ないと言う事だ。


 「地竜は騎士団で対抗できるから、この前のウヴェンドスよりは全然マシだけどねー」


 「地竜って強いんですか?こないだの亀より?」


 俺の質問にはベゥレヘムが答えた。


 「強さの質が違うな。ヴェロータートルは甲羅さえ割れば脆いが地竜は切っても刺してもなかなか死なん。とにかくタフな生き物だと思った方がいいのう」


 長期戦になりそうだ。ロプノールの弾薬も多めに持って行った方がいいな。


 「それで、エルノパさんにもできればご協力をいただきたいんですが……」


 るるセンパイがエルノパさんの方を向く。眼鏡の奥で目を閉じてエルノパさんがしばし考え込んだ。


 「あまり危険な事に首を突っ込む性分ではないが、この国にはずいぶん寝食に古文書にと世話になった。最後に恩返しする事にしよう。それでも、竜たちの進行を阻害するような術しか持ち合わせていないが」


 「恩にきます」


 嬉しそうに言うるるセンパイにミティが近づいた。


 「もちろん私もご一緒させてくださいますよね姫様」


 「……残念だけど、ミティはお留守番。飛竜はいつくるかわからないから」


 半ば予想していた答えだったのか、ミティはよよよ、と芝居がかった口調で泣き崩れた。戦力的には連れて行けるレベルにはなったが、本来こういう時の城の防衛が彼女の仕事だ。仕方ない。


 「こんなんなら竜姫士になんてなるんじゃなかったあー」


 「まぁまぁ、本当にアテにしているんだから」


 「ほんとうですか?」


 涙目のミティに軽い調子でうんうんと頷くセンパイ。この人は昔から真面目に肯定してるつもりでもいつものノリが軽いからなかなか信用されない。というか元のルルリアーノ姫のイメージとか大丈夫なんだろうか。会ったことはないけど絶対にこんな性格じゃないと思う。


 それはともかく、そんな事態ならアレが使えるのではなかろうか。


 「と言うわけで、先発の騎士隊はもう出発しているわ。私たちも出発準備にかかりましょう。ターニア、四人分の保存食の用意をお願い」


 「了解いたしました」


 作戦会議を閉めて準備に入ろうとしたセンパイに俺は声をかけた。


 「あ、その前にセン、ええと姫様」


 「?」











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