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ニンジャ竜姫士誕生


 足の長さ、幅、甲の高さ、ふくらはぎ周り、膝下の長さ……順番に黙々と計ってても結構な時間がかかる。自然と間を埋める為俺たちは会話をしていた。


 「レンタローはニホンから来たんでしょ?ニンジャ見たことあるニンジャ」


 「ニンジャはもう居ないよ。ていうか地球の事知ってるのか」


 「お姉ちゃんの方が詳しいけどね。昔ノブーナガ王が魔王をその身に召喚し、逆らうブショーグン共をザンシュしてその首を魔界に捧げ、オニヨメ達と八十八夜踊り明かした事くらいは知ってるよ」


 「日本に17年住んでるが初めて聞いたなその話」


 うそぉ!と驚くミティの腕周り肩周りを計っていく。肩越しに見えるそれなりに膨らんだ胸周りは、暗い部屋というシチュエーションもあって多少はエロさを感じる。

俺はそんな動揺を押し隠すために会話を続けざるを得なかった。


 「むしろこっちのニンジャってどんな修行するんだ」


 「えー、私の師匠は由緒正しい流派だからそんな変な事してないよ。呪いで動く巨大ワラ人形を投げ飛ばしたり、底の見えない谷に張ったロープの上をさらにボールに乗ってダイコンをおろしながら渡ったり、飢えたワニの舌先に手に持った肉をつけて口が閉じない内に脱出したり」


 「何の流派だ!」


 いい加減にしろとメジャーを床に投げつけるが、ミティは俺がキレた理由もわからず首をかしげている。


 「でもお陰でクナイ術はマスターしたし、分身の術は会得できなかったけど煙玉と空蝉は使えるようになったもん。あと3km先で金貨が落ちた音を聞き逃さない術」


 「よくわからんが、真面目に修行したんだな」


 大して褒めたつもりもないが何故か誇らしげに(それほどでもない)胸を張るミティ。


 「姫様のためだからね。レンタローは姫様の為に何か頑張ってるの?」


 ン?と勝ち誇ったように首だけを後ろに向けて笑うミティに、俺は言い返す言葉が思い浮かばなかった。


 「俺は……なんとなくこっちに連れてこられて、『鎧』を直して、竜退治も手伝って……でも、そうだな。言われてみれば俺からは何もしていないのかもな」


 状況に流されながら頼まれ事をこなしているだけで、確かにいつも大変な事ばかりだったが受け身で動いているだけだったのかもしれない。


 「お前に負けない様に、俺も頑張るよ」


 ミティは自戒する俺の独り言にキョトンとしていたが、すぐに能天気ないつもの笑顔に変わった。


 「よしよし、頑張りたまえよ」


 「調子に乗り過ぎんなよ」









 優先順位が変わり、ウヴェンドスの『竜纏鎧』の製作は一時中断になってミティの『鎧』を作ることになった。実際、『竜纏鎧』作りの経験が浅い俺もボッズ師にもその方が都合が良かったかもしれない。まずは基礎の経験値を増やしていかないと。


 作るのは『兵士の鎧』もしくは『戦士の鎧』と名付けられた簡易型の『竜纏鎧』だ。基本のジャンプからのダイブ攻撃をするための機能しか入っていないシンプルなタイプ。


 「まぁそれだとミティの技が活かせないから、少しはカスタムしてやるつもりですけど」


 「ほう、どんなモノを仕込むんだ?」


 興味深そうにボッズ師。この人もやはり職人と言うよりは技術屋。新しいネタへの食いつきがいい。


 「とりあえずこんなものを借りてきました。お弟子さんたちに作ってもらえますか?」


 「これは……あのお嬢ちゃんの得物か」


 「はい、なにぶん数が多いし使い捨ても多そうなので出来るだけ揃えて貰えるとありがたいです」


 ふぅむ、とボッズ師は鉄で打ち出した手製のマグカップにコーヒーを注いだ。


 「リラバティは都合良く鉱石が多量に出るからいいんじゃが、ここの職人の手は限りがあるからのう。騎士たちの武器や鎧の作成もあるし希望通りには進まんかもしれんぞ」


 「承知してます……出来る限りのスピードでいいのでよろしくお願いします。それから……」


 「まだ何かあるのか、働き者じゃのう」


 俺は懐から昨夜自室で書き上げた図面を取り出して見せた。難しいものでも無し、ボッズ師なら一目で何かわかるモノだ。


 そのサイズさえなんとかすれば。


 「なかなか……贅沢なものを考えるのう」


 案の定、ボッズ師は難しい顔をする。


 「この所の遠出を考えると、姫様にはこれくらいのモノは用意してもいいと思うんです」


 「確かにな。だが骨組みから外装までほぼ鋼材じゃ、ここの工房では作れん。町の職人に回してやろう。金は工面できるんじゃろうな?」


 「なんとか……」


 面白そうに確認するボッズ師に俺は苦笑いで答えるしかなかった。








 二日後。城の北側、第一防壁と第二防壁の間の予備訓練場。


 第一防壁の方はだいぶ修繕が進んでいるが、第二防壁の方はまだまだ残骸のままだ。この有様を見るとミティには嫌でも期待したくなってしまう。


 そのミティは俺の後ろで真新しい『竜纏鎧』を着て準備運動をしていた。銀と黒を基調としたシックなカラーで、小型のシールドがついている以外は各部のアーマー、ウィングとも小ぶりでシンプルなシルエットになっている。センパイの『鎧』と大きく違うのは腰のあたりにやや大きな“スカート”がついている事だ。


 自分も忙しく手を動かして頑張ったのもあるが、ミティ用の『鎧』は意外と早くできた。とは言ってもまだ試作段階で俺の考える最終型とは少し遠い。


 「なんか動きにくそう、この辺り取れないの?」


 自分の着る『竜纏鎧』を見るなりミティは“スカート”の辺りを掴んでそんな事を言った。


 「慣れれば、自分に必要なモノだってわかるさ」


 「ふーん、まぁいいけど」


 「じゃあとりあえず試してみようか」


 るるセンパイは相変わらず多忙でミティの訓練には顔を出せなかった。代わりに(?)飛ぶ仔豚のベゥヘレムが見物に来ている。


 「急いで作った割には立派なモノじゃのう」


 「冷やかしならいなくていいぞ」


 「冷たいのう。魔法使いのお嬢ちゃんも今日は執筆に集中したいとか言って付き合ってくれんし、この城の連中は冷血な奴ばかりじゃ」


 豚にここまで言われるとは異世界生活も気楽ではない。


 「いつでもおっけーだよー」


 少し離れたところでミティが槍をぶんぶんと振り回して合図を送ってきた。こちらのニンジャのお手並み拝見と行くか。








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