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二人目の『竜姫士』


 それから数日は工房に籠っての作業の日々が続いた。るるセンパイも壁を直すまでは城を離れられないし、それでなくても“黒づくめ”の調査隊やルルリアーナ姫の捜索隊の編成や、食料品や衣料品の輸入、鉱石の輸出による収支決済、先日の竜の襲来で怪我をした兵士や市民への見舞金の手配などで<死ぬほど>もしくは<ヒロイン全員に爆弾がついた時くらい>(本人談)忙しいらしい。


 よくわからんが俺も決して暇ではなかった。るるセンパイの身体に合わせた『鎧』のフレームにウヴェンドスの鱗や羽や角や尻尾をあーでもないこーでもないとくっつけては取り外して気が付けばもう夕方になっている。


 るるセンパイのトーンの高い声が工房に響いたのはそんな頃だった。


 「れんたろーくーん、いるー?」


 「いますよー……」


 疲れた体を振り返らせると、いつものるるセンパイ。後ろにはメイド長のターニアさん、そしてあの問題忍者ミティがいた。


 「そんな顔しないの、もう過ぎた事は水に流そ。そんなんじゃモテないよ☆」


 センパイが俺をたしなめた。どうやら感情が顔に出てたらしい、ある意味若者らしいとも言える。


 溜息をついて俺は三人の方に近づいた。


 「どうかしたんですか、もう夕飯時ですよ」


 「そうね、じゃご飯食べながらお話ししましょうか」


 







 二十分後、センパイもとい姫様の自室にて。


 「と、言うわけでミティちゃんに『竜纏鎧』、作ってくれる?」


 るるセンパイの言葉に俺は赤オレンジのスープを吹き出してしまった。


 「うわ、汚いなぁ!」


 「ほ、本気ですか?」


 センパイの非難を聞かずに俺は聞き返した。まぁセンパイはいつもだいたい本気だ。いい意味でも悪い意味でも。


 「他に的確な候補者がいないもの」


 「大丈夫です、姫様の為ならドラゴンの一頭や二頭、簀巻きにしてアヴェノ川に流してごらんに入れましょう!」


 (どこの川だよ)


 といらぬツッコミをしながら当のミティをまじまじと見て、センパイの話を反芻する。


 (センパイの不在時や、より強力な竜が現れた時の為に『竜姫士』をもう一人増やす……それはいい)


 そこまでは俺だって考えた話だ。だからと言って誰でもいいというわけではない。


 確かにその辺の女の子、例えばリーリィに任せるよりはこの粗忽なくノ一の方が的確だろう。でも『竜姫士』は危険なだけでなく瞬間の判断力や分析力も問われる戦士だ。フィジカルだけ優れていればいいというものじゃない、と思う。


 ターニアさんがそんな俺の心配を察したのか、伏し目がちに頭を下げる。


 「レンタロー様には納得いただけない所もあると思いますが、この愚妹も決して遊び半分で申しているわけではありません。国の為と思ってどうかお力添え頂けないでしょうか」


 「妹さんが、危険な目に……」


 「姫様に使えるのが私たち一族の務めですから」


 静かにそう言われると、逆にその覚悟が伝わってくる。俺は何も言えずに唾を飲み込んだ。


 「まぁいきなり一人で戦ってもらうワケじゃないし。十分に訓練を積んでから本番!って言うなら漣太郎くんも安心でしょ。私の『メルトピアサー』もあるし」


 「『めるとぴあさー』?」


 聞きなれない単語をオウム返しする。


 「名前付けたの。レガシーワイバーンの『鎧』じゃ愛着沸かないから」


 「そっすか」


 既に話は決定済みの様だ。仕方ないので現実的な事を考えるようにしよう。


 「『竜纏鎧』自体は……前の『鎧』より少しマシな程度の物なら用意できます。その、『メルトピアサー』を作るならもう一頭レガシーワイバーンを狩らないとダメです。竜石の数が足らないので」


 あの火を放つ槍を作るのに純度の高い竜石を槍の中に十個も仕込んであるのだ。他にもレアな素材が『鎧』の方に使われている。


 「最初は練習用だし、それでいいわ。もしかしたらウヴェンドスの『鎧』はミティちゃんの方が合うかもだし」


 「でも『鎧』はボディラインぴったりに作らないといけないから使いまわしできないですよ。てゆかサイズを計らないと作れないし」


 「サイズ?」


 何秒か、女性陣三人の顔が俺の方を向いて停止した。











 さらに二十分後、俺の自室にて。


 (何でこんなことになってるんだ……)


 小さいランプだけの薄暗い部屋の中で、俺はメジャーを両手に跪いていた。


 パンツ以外は何も身に付けていないミティの背中を前に。


 「姫様の為に仕方なく脱いでるんだから、早くしてよね」


 『竜纏鎧』を作るには、スリーサイズだけでなく装着者の頭の先から爪先までそれこそ百か所くらいは計らなきゃいけないところがある。他人任せにするよりは実際に作る人間が自分で計る方が手っ取り早いというのは理解できるのだが。


 (ターニアさんはメイドのミーティングが入ってて、センパイは今日中に押さなきゃいけないハンコが溜まってて……でも別に今夜サイズ計らなくてもいいんじゃないか?)


 自分がやらなくても良かったんじゃないか説の根拠を探そうとした……が、ここに至っては無駄と悟って諦めた。溜息をついて仕方なく足元から計測を始める。


 「何よ、うら若い乙女の裸を前に不満でもあるって言うの?」


 「乙女って言うか、コドモだろ」


 「失礼ね!もう14歳なんだから!」


 ミティは本気で怒っているが俺も割と本気で驚いた。忍者の修行をしたり竜と戦うとか言うから16歳位だと思っていたからだ。そう言われてしまうとなんだかロリコン的な犯罪行為をしているように感じてしまう。


 「いいから、さっさと計ってよもう!」


 「はいはい」


 余計な邪念は捨てて仕事に専念した方が良さそうだ。またクナイが飛んできたらと思うとゾッとする。





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