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リーリィの商品開発


 「売り上げが落ちてきちゃってる?」


 「……はい」


 俺の言葉にリーリィはしょんぼりと頷いた。泣かないのは若いなりに料理人としてプライドがあるからだろう、多分。


 ホットケーキを食べ終えた俺は言葉を選びながら、自分の考えを口にした。


 「リーリィがこうやってより美味しいホットケーキを研究してなかったら、もっと早くお客さんは離れていっちゃってたと思うよ」


 「でも、このままじゃいつかは……またお客さんがいなくなっちゃうんですよね」


 お客がいないということは、リーリィにとっては相当のトラウマなのだろう。すがるような思いでうるうると俺を見つめている。


 「ゼロってことは無いだろうけど……そうだなぁ」


 ぽりぽりと頭をかきながら俺は脳内でアイデアをかき混ぜた。


 「前も言ったけど、やっぱり味のバリエーションを増やす事かなぁ」


 「具体的な方法が……果物や野菜を細かく刻んでみたんですがなんだか食感が良くなくて」


 「あ、そっか。こっちにはジューサーもないんだ……ええとおろし金とかかなぁ。みじん切りもアリだと思うけど」


 一々電化製品や化学調味料が無いのが不便である。やはり現代日本バンザイということだろうか。


 「おろし金だと結構仕込みに時間かかっちゃいますね……毎日何種類も作るとなると……」


 「そこは、逆に考えるんだ。今日は○○のホットケーキ、明日は××のホットケーキって変えていけば毎日来てくれるお客さんもいるかもしれない」


 「なるほど、確かにそうですね!」


 リーリィが喜んで目をキラキラさせてきた。こうなるとこの子は強い。


 「どんな物を混ぜるといいでしょう」


 「基本的には甘い物、アクセントに酸っぱい物を混ぜてもいいし、たまにはしょっぱい物、苦いお茶を混ぜる方法もあるけど……いろいろ一気に出すよりは慎重にやった方が良いんじゃないかな」


 「ふむふむ……さすがレンタローさんです!じゃあ十日くらいいろいろ研究して見ます!よかったらまた来てくれますか?」


 「え、十日?」


 商品開発の期間としてはやや短い気がするが、具体的に否定する根拠も無いしリーリィ自身の問題でもある。俺はその話を快諾した。


 「いいよ、じゃあ十日したらまた来るね。」


 「ありがとうございます!楽しみにしていますね!」


 ぴょこんぴょこんと小動物のようにおじぎをしたり跳ねたりと動作がいちいち可愛らしい。うまくいく事を祈りつつ俺は悪くない気分で城の自室に帰る事にした。


 

 





 明けて翌日、俺はボッズ師の工房に久しぶりに顔を出した。しばらく会っていなかった弟子のみんなから無事に帰った事を予想以上に喜ばれた。


 「いやいや、大活躍だったんだって?」


 「流石“来訪者”!若いのにたいしたもんだ」


 この世界の人は地球人を持ち上げすぎだ。叩かれたり髪をくしゃくしゃにされているところにやっとボッズ師がやってきてくれた。


 「なぁに遊んでんだ!仕事しねぇ奴は竜のエサにしちまうぞ!」


 結構な老齢だというのに工房の隅々まで震わせる見事な一喝。弟子たちは慌ててハンマーを手に炉の前に戻って行った。


 カンカンと金属を打つ音が聞こえてきたところでやっと師が髪を手で撫でつけている俺に振り返る。


 「すまんかったな、疲れているのに」


 「いえ、ボッズさんこそエルダーワイバーンの『鎧』を作って、しかも戦場まで持ってきてくださってありがとうございました」


 あの時の事を思い出したのかハッハッハとヒゲをさすり、腹を揺らしてボッズ師が笑う。


 「イヤハヤ、あの時はついにワシも“ダンゴノオサメドキ”と思ったワイ」


 ディアスフィアでは地球のことわざが変な風に伝わっているらしい。 


 「しかし、久しぶりに血が滾ったのう。もうすぐ引退かと思っておったが、あんなドラゴンがいるのではまだまだ死ねんわ」


 「しばらくは元気でいてくれないと困りますね」


 俺達の所に弟子の一人が、両手で大きな鱗を抱えてやってきた。緑色と青色が美しいグラデーションを見せる、光沢のある分厚い鱗だ。


 「これが、ウヴェンドスの鱗……」


 しゃがんで表面を撫でる俺の横でボッズ師が、ふん!と小刀を突きたてた。


 ガキン!


 耳障りな音に反射的に目を閉じる。恐る恐る見てみると鋭利な刃先は大きく欠けてしまっていた。


 「まともな刃物じゃ手に負えん。ウチにある一番分厚い鋸で慎重に削るようにして、なんとか切り出せるといったとこじゃ。ワシが精魂込めて作ったとは言え、あの槍一本でよく姫様はコイツを仕留めたもんじゃわい」


 実際、討伐後に鱗を剥がしたり角を折るのもるるセンパイの槍が無ければ無理だった。恐る恐るボッズ師に聞いてみる。


 「……『竜纏鎧』には、使えそうですか?」


 「そこはホレ、ワシらもプロじゃ。なんとかしよう……しかし問題は」


 「ええ、“設計図”が無い事ですね」


 王家に伝わっていた『竜纏鎧』の書物にはウヴェンドスの鎧に関する記述は無かった。似たような飛竜の『鎧』の設計図からいくつか流用して新規に設計するしかないか。


 『竜纏鎧』の基本はシンプルだ。跳躍力。空中転換。急降下。破壊力(槍の攻撃力)。これらを重視しつつ竜の素材のうちどこをどのパーツに使用するか……そこが作り手の技量にかかってくる。


 「もういくつか『鎧』を作って、知識と経験を積んでいればコツとか掴めると思うんですけど」


 「しかしこれが作れれば姫様の戦闘力は相当アップするだろう……頼むぞ技師殿」


 「最近の事を思い出すと、俺が技師なのかどうかは疑問の余地がありますけどね」


 「違いない」


 呆れるように俺とボッズ師は声を上げて笑った。


 


 






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